ダンジョン攻略
「そういえばこのダンジョンは攻略済みと聞いたが、奥はどうなっているのだ?」
「そこについての情報はギルドにはありませんでしたね。……まぁ、魔剣を手に入れるにはここまでの情報だけで十分ですが」
「奥に行ってみたいな」
と、王子とジャンガリアが話しながら俺の方をちらっと見る。
……まぁ、サキュバス村に行かれても困るよな。俺も行かなきゃいけないだろうし。
今回の潜入、ロクコも見てるんだよなー。
「詳しくは知りませんが、奥はあっちだそうですよ」
「ほう? 詳しいですね」
ニコニコとクルシュが言う。詳しく知らないって言ったの聞こえなかったの?
無視しようかと思ったが続けて「情報源は?」と聞かれてしまう。
「地図を見せてもらったことがありまして」
「地図ですか? ギルドには無かったそうですが」
「別に攻略者はギルドに全てを報告する義務はないですからね」
嘘を見抜く魔道具で真偽は確認できるので、真実で言える範囲だけの報告でも攻略したことになるのだ。勿論俺はこのダンジョンの全ての道を知ってるわけだが。
「それで、この奥に行くと『火焔窟』に繋がってるんですよ」
「ほう」
「ならこっちだな!」
と、俺が指差した方向とは違う方向へとケンホは向かう。そっちはサキュバス村の方だったので、俺は慌ててケンホの肩を掴んで止めた。
「なぜ止めるウーマ」
「……なぜそっちに?」
「そらダンジョンの最奥がこっちにあるからだろ? そっちは別のダンジョンじゃないか」
まぁ、そうなんだけども。
「そっちは罠だからやめておけ」
「罠?」
「死にはしないが、身ぐるみ剥がされる。そして素っ裸でダンジョン前にポイされるぞ」
「お、おう。そうなのか。それは困るな」
「ウーマ、それならこのダンジョンの最奥はどっちなんだ? 地図を見たってんならわかるんじゃないか」
「それは……」
王子が聞いてきた。さすがに分からないとは言えないので、道を答えてやる。
……と、ここでロクコに向けて合図。コンコン、とつま先を2回鳴らした。
そして俺の案内に従って道を進むと、進路上にはハニワゴーレムが待ち構えていた。
もちろん、ロクコが用意してくれた代物である。操縦者はニク。割とガチだ。アイアンハニワで無い分まだ手ぬるいが。
「おっと、あいつはマズイ。今日は止めといた方が良いな」
「む、確かに見たことない感じのゴーレムだが……マズイのか?」
「ああ――って、おいケンホ!?」
「うぉおおおおおおおおおっりゃああああああああ!! 【スラッシュ】!!」
俺が止めようとしたとき、ケンホが先手必勝と言わんばかりに仕掛けていた。
恐らく本気を出して戦っていいのかを悩んで反応が一瞬遅れたハニワゴーレム。ケンホはその隙を見逃さず、ハニワゴーレムが跨る馬ゴーレムの首を一撃で切り落とした。
「はっはァ! うだうだいう前にブッ倒せば同じだろ! ここは任せろウーマ!」
「やれやれ、これだからケンホは……ウーマさん、周囲の警戒をお願いします」
「終わったら説教だな。全く仕方のない奴め」
ケンホの突撃の後、馬を捨てて体勢を建て直したハニワゴーレム。鎧武者のような重装備に見合わない軽快な動きで追撃を受けつつも、いつの間にか攻撃に参加していたジャンガリアが足に追加のダメージを与える。
更にそこに王子とクルシュが参戦。天秤は、明らかに王子達に傾いていた。
やばい。こいつらPTを組めば普通にハニワゴーレムと渡り合える。少なくとも、ハニワゴーレム側が殺さないように手加減をしているようでは絶対に勝てない。
俺が周囲の警戒をすれば王子達は戦闘に集中できるってなもんだ……。
……俺が援軍を呼ぶ前に、ハニワゴーレムは倒されてしまった。
「どーだウーマ。これが俺達の実力だぜ?」
「まだスキルコンボも使ってないぞ。実力の片鱗、といったところか」
「おや、このゴーレムの剣……やはり魔剣ですね。もう1、2体くらい出てきませんかね」
くっ、なんということだ……これはこっちも殺す気で対応しないといけないのか?
でもそうなると王子達が死ぬと国際問題待ったなしな上に、その、ダイード国も『テンセイシャ』が暴れまわってしっちゃかめっちゃかというヤバいことに……!?
やっぱりダンジョンとは斜め上の所で非常に厄介すぎるぞこいつら……!!
「……悪いが、俺はこれ以上奥へは行きたくないんだが。引き返さないか?」
「先を見るくらいはいいだろう? 折角番兵を倒したんだし」
「まぁ、あと2体くらいは同時に出てきても余裕だけどな」
ぐぬぬ、抜かしおる。というか、ジャンガリアのサポートさえなければもっとてこずってただろうに!
「ジャンガリア。引き返さないか? こういう調子に乗ってる時が一番危ないんだ」
「……どちらの言う事も一理ある。ここはもう少し奥を覗いて、引き返すというのは?」
「俺はそれで良い」
「私も異存ありませんね」
「リーダーの俺もそれでいいと思う。多数決で決定だな」
くっそ! 息ぴったりしやがって! どうせ臨時参加メンバーだよ俺は!
とは言うものの、少し奥となると新・謎解きエリアに闘技場エリア。少なくとも、謎解きエリアで1日は時間を費やされ、引き返さざるを得なくなるだろう。
「はぁぁぁ……まぁいいだろう。だが、少し覗いたら引き返すからな!」
「おお。じゃあ早速行くとしよう!」
こうして俺と王子達はダンジョンをさらに奥へと進んだ。
*
「折角だからここの謎を解いておきたい」
「……いや、帰りましょうよ。見たら引き返すって言ったじゃないですか」
王子達は、問題をちゃんと理解して回答はしたものの、当然1回は回答を失敗してもらう前提の部屋である謎解き部屋。次に回答権を得られるのは1日後だ。
「ここをキャンプ地とする!」
「おい王子様、言葉が軽すぎるぞ? そんな軽くて国際的な信用が得られる王になれるとでも?」
俺の言葉を無視して、ジャンガリアにテントを張らせていく王子。
「はっはっは、ウーマもだいぶ王子に慣れてきたな!」
「良い傾向です」
「ウーマ殿、王子はこうなったら動かないので……申し訳ない。分け前の先払いとしてさっきの魔剣を渡すから……ここはどうか」
ジャンガリアが下手に出て頭を下げてきた。
ぐぬぬ……さっさと帰って寝たいのに……!
「……もう1日だけだからな! 明日には絶対帰るぞ!」
「うむ! では今晩の見張りの順番を決めよう!」
こうして、俺は王子達とテントで一夜を過ごすことになった。くそう。
(1月25日、だんぼる12巻発売! 書下ろしたっぷり! 電子書籍版もあるよ)





































