裸の付き合い
(あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
新年初ロスタイムですが、初詣で引いたおみくじで「急いては事を仕損じる」ってあったので仕方ないですよね?)
王子たちは魔剣を手に入れた翌日を休養に当てることにしたようだ。
妙にキラキラしたイケメン3人は宿でくつろぎ、今は温泉に入っている。『影』の冒険者はここにはおらず、冒険者ギルドにアイアンゴーレムの死骸を納品しに行っていた。
さあ今日も厄介者の情報収集だ。俺は私室でモニターを開いて王子たちの会話を聞くことにした。風呂の盗撮? 残念、証拠不十分で不起訴です。ダンジョン故に。
……尚、イケメン3人は風呂にも慣れているようで。湯あみ着を付けず腰にタオルを巻く程度であった。それでも無駄に絵になっているのは、やはり顔が良いからだろう。
『ふぅ、俺達にかかれば楽勝なダンジョンだな』
湯船に肩まで浸かり、王子はフフッと笑う。昨日の冒険での余裕がにじみ出ていた。
『王子、何気にケンホは4回ほど死にかけてましたよ』
『そうか? まぁケンホは先行していたから危険が多かったのだろう』
『そうだぜクルシュ、ハークス。だがそのための雇い冒険者だろ? おかげでこの通りピンピンして生きてる。つまり大丈夫だってことだ!』
『適当ですねぇ。それがケンホの良い所でもありますが……』
『しかしあの冒険者――ジャンガリアといったか? あれが冒険者の普通なのか、それとも特に有能なのか……後者なら俺の配下にスカウトすべきか』
と、そんな割とどうでもいい会話を続ける王子たち。冒険者の方は良いから、目的ともう帰るのかどうかを話してほしいのだが、なかなか口を滑らせない。
「あらケーマ、また盗み聞き?」
「人聞きが悪いな。でもその通りだ」
ロクコがいつものように俺の部屋に入ってきた。手には漫画を持っている。
「おっと、ロクコは見るなよ。男湯の映像だからな」
「何よ。どこも私のダンジョンでしょ?」
「それもそうなんだけど」
「あと私も手伝いたいわ、ケーマ」
「……女湯の時はロクコに頼むとするよ」
今回は男だけのパーティーだから関係ないけどな。
「というか、まどろっこしいからケーマもお風呂行って直接聞いたらいいじゃない。まだ居るんですかーとか」
「うーん、それが手っ取り早いか……?」
「ええ。いってらっしゃい。私はここで漫画読んでるわ」
……ロクコは俺が不在の俺の部屋で漫画を読んでいる気満々らしい。自分の部屋で読めよ。いや、エロ本とか隠してないから別に良いんだけど。
んー。王子たちはまだまだ長風呂しそうな気配だ。ここはロクコのアドバイス通りこっそり紛れて話を聞いてみるのがいいかもしれない。
一応村長という身分を隠すために【超変身】で一般人に変装しておく。これなら仮に怪しまれても逃げられるだろうし。
「……え、ケーマ変装するの?」
「そりゃするだろ。それに【超変身】しとけば万一があっても安心だし」
「ぁー……じゃあいいわ。いってらっしゃい。私ここで漫画読んでるから」
「? うん、さっき聞いた。じゃあ行ってくるわ」
というわけで、なんかやる気をなくして部屋でゴロゴロするロクコを置いて【超変身】で変装した上で湯あみ着に着替えて風呂に入ると、王子たちは湯船でぺちゃくちゃとまたどうでもいい事を話していた。
「だから、剣術は筋力だってハークス」
「いやいや。技術だろ。クルシュもそう思うよな?」
「使い道を考える頭脳が重要では? ケンホはもう少し考えるべきかと」
一体何を話してたんだろう、全然興味がない。
とりあえず『浄化』して俺も湯船に入るとしよう――
「おい! そこのお前! 服を着たまま湯船に入るな!」
――と、王子が俺を指さして言った。
「へぇ、何ですか急に」
「なんだ貴様、風呂が初めてなのか? 普通、風呂は裸で入るもんだ。服は脱げ」
俺が平静に何言ってんだコイツ感を出しつつ一般人っぽく返事すると、王子は俺を見下すようにフンと鼻を鳴らしつつ眉をひそめる。
「……その腰に巻いてるのはいいんですかい?」
「タオルは審議が分かれるところだが、無いと股間が見えてしまうから仕方なくな。だがこのタオルは『浄化』してあるからお湯を汚すことはないぞ」
さて。どこからツッコミをいれたものか。
まずこの王子たち、日本風の風呂のルールを知っている。タオル自体は帝都でも日用品として出回ってた(タオルを織る魔道具があるらしい)からこいつらが知ってても何らおかしくない。
だが、湯船にタオルは審議が分かれるところってのは……たまたまダイード国にそういう文化が根付いてるって可能性もあるが……誰かさんの影響が見て取れるなぁ。うん。もしそっちなら王族も影響下かぁ。混沌神怖いなぁ。
次に、湯あみ着までは知らないようだ。だがいきなり脱げとか。……国をまたいでの文化の違いというのもあるかもしれないのに視野の狭い王子だなぁ。それでいいのか? 外交とかするんだろ将来。
「さぁ、分かったな? さっさと脱げ。風呂に裸で入るのは常識だぞ?」
「いや、これは湯あみ着と言って、その腰に巻いてある布と同じようなもんです」
「は? その服で体を洗うのか?」
「いや、身体を隠すんですが?」
「風呂は裸で入るものだ。そんな事も知らんとは……タオルは風呂で使うから使ってもセーフなんだ。な? 分かるか?」
ヤレヤレとため息を吐く王子。うざい。
ダイード国ではそうなんだろうよ、ダイード国ではな。この国では基本体洗うのも『浄化』で済ますからタオルも体拭くくらいでしか使わないんだぞ。
「おいお前。こいつ、こう見えてダイード国の王子なんだ。大人しくしたがった方が身のためだぜ?」
「ええ。王子がこう言っているんです。さっさと脱ぎなさい」
おい取り巻き。権力を振りかざして脱がしに来るな。お前らそんなに俺(が【超変身】で変装した男)の裸が見たいのか。
「いやいや、なんですか? ダイード国の風習を持ち込まないでくださいよ、ここ帝国ですよ? 帝国には帝国の風習があるに決まってるじゃないですか。部屋にある風呂ならともかく公共の場で裸とかはねぇ。肌を露出させるのは恥ずかしいでしょうが」
「む、それは一理あるな」
「……なるほど、それは盲点でした」
「そういう考えもあるんだな。へぇ」
……あれ?
俺がきっちり反論すると、王子たちは思っていたよりあっさり引き下がった。
「……となると、逆に俺達の方がマナー違反になっているのか? どうなんだ?」
と、今度は自分たちがタオルを腰に巻いているだけの状態が迷惑を掛けているのではないかとこちらに聞いてきた。
何だコイツ、素直かよ。ダイード国王侯貴族の頭の中どうなってんの?
「あいや、湯あみ着は別に着なくてもいいんですよ。ただ、お貴族様は知りませんが平民だと人前で裸になるのに慣れていない人が多いもんで、そういう人でも風呂が使えるように湯あみ着があるんです」
「なるほど。では俺達のこれも問題はないんだな?」
「ええ。まぁ、『浄化』してあって風呂を汚さないなら」
「うむ。勉強になった。礼を言う」
そう言って、王子は小さく挙手するかのように手のひらをこちらに向けた。そして小さく首をかしげる。
「……ん? なぁ。平民では礼を示す挨拶も違うのか? それとも国の違いか?」
「あー、そういう意味のヤツなんですね。王族は頭を下げない的な?」
とりあえず礼は受けた、と軽く頭を下げておく。
「へー、俺はちっともそんなこと考えたことなかったぜ!」
「そういえば我々は頭を下げますよ王子。恐らくこの者の言う通りかと」
「ほう! お前は中々洞察力があるな。王族に言い返す度胸もいい。……気に入った、俺の部下にならないか?」
……なんか、王子に気に入られてしまったよ。まぁ部下にはならないけど。





































