イッテツと雑談
と言うわけで、俺はゴンタを連れてイッテツに会いに来ていた。
「ほォ、こりゃ珍しィのを手に入れたなァ」
「知っているのかイッテツ」
「あァ。コイツはフロストリザードの金眼種だァ。普通のフロストリザードは白い目をしてんだがァ……金眼種は魔力が高ぇし、ドラゴンの一種とも言われてるぜェ?」
なんと。ついにロクコがガチャでドラゴンを引いてしまったのか。
「まァどちらかってェとドラゴンじゃなくて精霊だがなァ。金眼種つってもフロストリザードとスノーチャイルドってェ妖精の子供だしよォ。ドラゴンってのはニンゲンが勝手に言ってることだァな」
「精霊……なるほど。当初の予定通りだな」
とりあえず頼りになりそうな護衛で良かった。胸元にするりと入る小さな身体なのがまた嬉しいね。
まぁ、『火焔窟』……というかイッテツの近くは熱いので服の中から出たくなさそうだけど。おかげで快適ひんやりだ。
ちなみにカカシが凍ったのは【氷結の魔眼】とかいうスキル攻撃らしい。通常のフロストリザードなら指先が凍るくらいなのだが、金眼種だから高威力だったんだろうとのこと。
尚、中身まで凍り付くわけではないので、対象が勢い良く動いていたり、強引に動ければ氷を割って行動できるそうだ。過信はしない方が良いか。
「つーかァ、暗殺者だってェ? また面倒だなァケーマ。イグニでも貸してやろォかァ? 手懐けたドラゴンでも村に居たら暗殺者も寄ってこねェだろ」
「あー……気持ちはありがたいが、もうドラゴンの騒動はまっぴら御免だ」
「カッカッカ! それもそうだなァ」
トカゲ顔を引きつらせて楽しそうに笑うイッテツ。
まったく、こちとら笑い事じゃなく死活問題だってのに。暗殺者なだけに文字通りの意味で。
「てか、護衛つけるのはケーマでいいのかァ? ロクコが手薄じゃァ問題だろォ?」
「あー、それなんだが、ロクコは対策済みだからまず安全だ。ダンジョン奥のコア本体はさておきな」
さしあたり、暗殺者への対策としてロクコは『神の毛布』を身に着けている。俺が魔国でやっていたマントのようにして。つまり攻撃無効で危険はほぼない。
……懸念があるとすれば眠らされる可能性? いや、でもその後動かせないからやはり無事だろう。
そしてコア本体は現在ダンジョンの奥深く。ここに侵入するにはダンジョンを攻略せねばならないわけで、そちらは普通に守りが厚い。そもそもダンジョン奥のダミーコアが置いてある部屋から更に入口を隠したダンジョンの奥だからな。
「それに、ハクさんから、ロクコの護衛が送られてくる予定だ」
「……そこは自分の女ァ自分で守るくらい言っとけやァ。締まらねぇなァ」
暗殺者の件をハクさんにも報告(どうせミーシャから行ってるだろうが)したところ、ミーシャとは別の人をロクコの護衛として派遣すると言ってきたのだ。
それぞれの仕事もあるのでローテーションで。
とりあえずスイートルームをもう一部屋増やしておこうかなぁ……
「俺には俺のやり方があるんだ。伝手で護衛を増やした、って言えばこれも人脈と言う俺の力なわけだよイッテツ」
「そういうもんかねェ」
「……一応魔国で必殺技も覚えてきたんだぞ、ドラゴンとかに効くかは分からんけど」
吸血鬼の拳士に弾かれてたくらいだしな。ドラゴンの鱗に弾かれてもおかしくない。
「ほォ、ちょっと赤ミノ用意してやらァ。見せてみろや」
「……まぁいいか。もう魔国で一度お披露目してるしな、おひねりでもくれよ」
というわけで、イッテツの要望によりレッドミノタウロスに【エレメンタルショット】をぶち込んでみた。まぁスポーンのやつだろう、遠慮はいらない。
ばきゅん。赤ミノはヘッドショット一発であっさり死んだ。お肉はお土産になった。
「と、こういう魔法だ」
「……ほォ。ケーマァ、やっぱおめェ自分で守ってやりゃ良いんじゃねェの? こいつァドラゴンにも刺さるレベルの攻撃魔法だぜェ?」
「マジか。イッテツがそう言うならそうなんだろうけども」
「まァ俺なら弾くがなァ! カッカッカ!」
「お? ちょっと撃ってやろうか?」
ちなみにイッテツは精霊なので弾けるとのことだった。実際弾いた。
……なんでも、濃い魔力を良い感じの角度でぶつければ弾けるらしい。そしてイッテツは火の大精霊サラマンダー。存在自体が魔力の塊のようなもので、魔法関連の性能がむやみやたらに高いのだ。
「しかもなにせ俺だからなァ! ……嫁の抱擁や娘の突進を受け止めるために肉体も強くなったわァ!」
胸を張るイッテツ。そこには一人の漢がいた。
そしてイッテツの血を引いているフレイムドラゴンのイグニも同様に魔法関連の性能が高いので弾けるだろうとのこと。強い。間違いない。
「つーかよォ、おめェとロクコとの子供はいつ頃に産まれるんだァ? ニンゲンはすぐ産まれるんだろォ? 今のうちにお祝い用意しとくべきかァ?」
「……いや、それは慌てるような時間じゃないから……まだ予定はないし」
「そォかい。あァ、ダンジョンコアはちゃんと『変化』で身体揃えねェと子供はできねェからな?」
「はっはっは、余計な知識をありがとう。ハクさんに殺されたらイッテツのせいだぞ」
ちなみにイッテツの場合は精霊とドラゴンで子供ができるので、メニューの『強化』から『変化』のうち『精霊化』を身に着けてサラマンダー型コアからサラマンダーに変身したらしい……
「ンだよ、夫婦には重要なことだろォが?」
「いやなんつーか、その、生々しいというか……まぁ、俺もまだ若いからな」
「何言ってんだァ? ニンゲンならとっくに成人してんだろォがよ」
あー。そうか、成人年齢が低い分、俺はもう大人になってだいぶ長いレベルになるのか。
……となると、まだできて間もない村とはいえ、村長が独身で跡継ぎになりそうな子供がいないってのは結構問題なのか?
……まぁ、せっつかれたら考えよう。今はそういうレベルではない。
「……俺もレドラと旅行行ってくるかなァ。留守をイグニに任せてよォ、ケーマがたまに様子見に来てくれりゃァ安心だがなァ」
「おいおい、流石にドラゴンとサラマンダーが出歩いたら目立つだろ」
「そこはアレよォ。『人化』してきゃァいいんだよ俺もレドラも」
「イッテツ、人化できたんだ?」
と、思わず聞き返してしまったが、そりゃ数百年はダンジョンをやってるんだしできて当然か。
「まァ俺ァ龍王派閥だから日頃はしてねェがよ……おォ? そういやァケーマにゃ見せてなかったかァ。たまに人里に遊びに行く時にやってたんだがなァ、ここ100年は人化ってねェし」
「ちょっと気になるな。してみてくれよ人化」
「おォいいぜ。ちょっと待ってろォ。……むゥゥゥん!」
と、イッテツが唸ると、その体がどんどん縮んで人の姿になっていく。
……厳つい、筋肉質で傷だらけの男がそこにいた。服は着ていないが、サラマンダーの鱗を残して局部は隠している。
そして日本人だったらどこの組の親分だろうかとお聞きしたくなる顔だが、この世界では歴戦の兵士感を醸し出していた。
「どォでい? 色男だろォ?」
「……兵士長って感じがするな」
もっとも、そのニィッと歯を大きく見せて威嚇のように笑う顔は間違いなくイッテツのそれだった。子供が見たらちびる系笑顔だ。
「だがこの姿はいわば弱体化だからなァ、あんまり好きじゃねェんだ」
「そうなのか?」
「少なくともよォ、イグニの突進を受け止めるのが辛くなるンだよなァ」
ぽりぽりと頭を掻いてため息を吐くイッテツ。
その口ぶりからするに、受け止められなくはないんだな。強い。
「どォよ。腕相撲でもしてみっかァ?」
「遠慮しとくよ。腕を折りたくない」
「そォかい。今後はケーマと会う時はこっちの方が良いかァ?」
「いや、なんか落ち着かないからいつもの方で頼むよ」
メガネかけてる人がメガネ外した時の違和感みたいなもんがあるんだよ。
「あと顔が怖いし」
「カカッ! ビビリだなァケーマは……いや、ニンゲンは普通サラマンダーの方が怖ェって言うとこなんだがなァ?」
イッテツは元の姿に戻る。赤い鱗のサラマンダー……やっぱこっちの方が落ち着くな。
「だってイッテツだしなぁ。イグニあたりだとうっかり俺を燃やしてきそうで怖いけど、イッテツならそんなことも無いだろ?」
「……カカッ、イグニもそんな甘ェ制御はしてねェさ。けど心配ならレドラに加護でも掛けてもらうか? レッドドラゴンの加護だ、燃えなくなるぜェ?」
「目立つのは御免だぞ? 機密の塊なんだから」
「おゥ、まァ大丈夫だろ。イグニが人化した時の服とかにもかけてる感じのアレだし、大したもんじゃねェからよ。ケーマの新技レドラにも見せてやろうぜェ、おひねりは加護なァ」
レドラにとっては裁縫をするレベルで付けてしまう程度のものらしい。……特に紋章とかが浮き出たりすることも無いので、黙ってればバレないだろうとのこと。
「そんなら今度な」
「したら今度一緒に溶岩風呂でも入ろうぜェ! カッカッカ!」
「……燃えないけど熱さはそのままとかだったら絶対お断りだぞ?」
そんな感じでイッテツといつもより長話な雑談をしていたら、フロストリザードのゴンタはすっかりぐったりしてしまっていた。
……そりゃ氷属性なら『火焔窟』やイッテツとの相性は当然良くなかったよな。なんかその、ごめん。アイスあげるから許して。





































