ご褒美
俺達はラヴェリオ帝国に帰ってすぐ、ライオネル皇帝に謁見することとなった。
もっとも行くときも謁見した正式な使節なのだ、帰りに謁見しても何らおかしなことはない。
「ケーマ・ゴレーヌ。この度の留学での成果――魔国での闘技大会、3位入賞であったそうだな。よくやった」
「はっ」
「欲を言えば優勝して欲しかったところだが、勇者ワタルですら2位だった大会だ。さぞ強敵揃いであっただろう。……冒険者ランクをAに上げるなら推薦状を書くが?」
「お気遣い感謝いたしますが、我が身には過分かと……」
ないはずなのだが。なぜ俺だけ他の留学した面子と違って前に出てお褒めの言葉を頂いてるのだろうか? ねぇ。と、ちらりとハクさんを見る。
あっ……はい。その笑顔は怒ってるヤツですね。わー何に怒ってるんだろー。
「では何か褒美をとらせよう。何が良いか? 希望があるなら申してみよ。ああ、ゴレーヌ村をツィーア領から独立させ、ゴレーヌ領としようか?」
待って。待ってください。それは俺の許容量を超えている。
だが俺はこんなこともあろうかと『もし皇帝にお願いできるなら』という希望をちゃんと用意しておいたのだ。ここはまさにその出番である。
「……それでは、その、僭越ながら。俺はオフトン教でして、神の寝具を集めております。お力添えを願えませんでしょうか」
「そうか、よかろう。では帝国の所持している神の寝具を賃貸する権利を与える。管理者に申し出た際、必要に応じて貸し出すよう言っておこう。対価はその都度管理者に払うように」
え。
……えっと、い、言ってみるもんだな。
望外の結果に、俺は口端がにやけそうになるのを抑える。
ありがとうロクコ、ロクコのアドバイスで想定問答作っておいてよかった。
「帝国として所持している神の寝具は2つ。敷布団と枕だ。敷布団はクッコロ家、枕はツィーア家が管理している」
「はっ、存じております」
「そうか。では後ほど一筆したためておく」
こうして俺の謁見は終わった。
……え、まじで? これ実質2つの寝具ゲットしたようなものなのでは……?
えーっと、残ってるのは……ナイトキャップ、下着の2つ……だけ?
既に6つ(目覚まし除くと5つ)を手中に……?
「お疲れ様ケーマ。謁見どうだった?」
「え、あ、うん」
城に滞在する間の客間に戻った俺達をロクコが出迎える。ロクコは別の部屋をあてがわれていたはずだが、まぁ仲間を待つ間部屋にいたということでセーフだよな。
ニクとイチカはセットでまた別の部屋だけど。
「あ、ありのまま起こったことを話すとな。今回の留学で『神の寝具』を3つ使えるようになった……な、なにを言っているのか分からないと思うが、俺にもわけがわからん」
「本当? よかった、昨日ライオネルさんに一言言っといた甲斐があったわね」
えっ。
「ちょ、ロクコさん? 皇帝陛下に何か言ったの?」
「え。だってケーマ、『神の寝具』を集めてるんだから丁度いいと思って」
「いや、助かるけど! 凄く嬉しいけども!」
「それにあっちからケーマが希望する褒美が何かないかって相談されたから答えただけよ?」
ちょっとまって、これ誰が悪いの? 誰の仕業なの?
……いや、落ち着け、落ち着くんだ俺。よく考えたら誰も損してないし、誰も悪くない。
そう、ライオネル皇帝は俺への褒美が神の寝具の使用権ってだけで出費もなくラッキー、神の寝具の管理者も貸し出す時は対価をもらえて文句なし、俺は申請して対価を払えば実質いつでも神の寝具を使えることになって大満足である。
ちょっといいことが起こり過ぎて警戒してしまったが、たまには、本当にたまにはこういう事もあるんだろう。
「……どうしたの、ケーマ?」
「……いや、うん。ロクコ、よくやってくれた。ありがとう。……あ、その、あー……」
「あ?」
「あいー……んん、あ、ぃしてるぞ」
……
柄にもないことを言った気がする。しかもつっかえた。気恥ずかしくてロクコの顔が見れない……っ!
でも、反応が気になってちらりとロクコの顔を見る。
「~~ッ……!!」
あ、真っ赤。リンゴかな?
「ケーマ……ちょっと。ちょっと」
「な、なんだ?」
「…………そんな顔でそんなこと言われたら、我慢できなくなるから駄目……」
そう言って、ロクコの顔が俺に近づいてくる。ぁ、その、
――コンコン。
扉をノックする音で俺達はびくんっと跳ねるように離れた。
……唇が少し掠る程度触れてた。あ、危なかった。完全にハクさんのテリトリーな城内で俺は一体何をしようとしてたんだ……!?
「ロクコちゃーん、入っていい?」
「「――ッ!?」」
ハクさん。ハクさんの声である。あとここは俺に用意された客間である。重ねて言うが、ロクコにあてがわれた部屋は別の部屋なのだ。なのにロクコを探しにハクさんがこの部屋に? そして俺ではなくロクコに入室の許可を求めるということは、ロクコが俺の部屋にいることを知っているという事。
まさか、モニターされた? さっきのこと……!?
「ろ、ロクコ、どうしよう?」
「……し、仕方ないわねー。ケーマは。ハク姉さまのことは任せておきなさい」
ロクコが「いいわよー、入ってきてー」と言うと、ガチャリと扉を開けてハクさんが入ってきた。とても良い笑顔をしている。
「あらケーマさんいたの? 奇遇ね」
「ははは……じゃあ俺はこれで失礼します」
「どこ行くの? ケーマさんの部屋はここでしょうに」
分かってんなら俺がこの部屋にいてなんで奇遇とか言ったんですかね?
「そういえばケーマさん。……ロクコちゃんと、何してたのですか?」
「いや、何も。さっき戻ってきたばかりですし……」
幸い先ほど血の気が引いたばかりなので顔色でツッコミを入れられずには済んだ。とりあえずロクコに助けてと目線を送る。
「姉さま。こっち」
「ん? なぁにロクコちゃん」
「こっち」
ロクコがハクさんを手招き。ハクさんはロクコに引き寄せられてロクコの隣に座る。
「頭撫でて?」
「……えっと」
「撫でて? ほら、姉さま。……んっ」
ぽすっとハクさんの豊満な胸に寄り掛かるロクコ。
ハクさんはびくんっと震え、ロクコの頭に手を伸ばした。……なでなでなでなで……
「ああロクコちゃん、寂しかったわぁ……留学から無事帰ってきてくれて良かった……」
「ふふ、ケーマが守ってくれましたから」
「……」
「ケーマが活躍してくれたから、ちゃーんと無事帰ってきました。……手が止まってますよ姉さま?」
「う、うぬぬ……そ、それはなによりですね……?」
「姉さまからもケーマのこと褒めてあげて欲しいなー……?」
撫でられつつ、ロクコの上目遣い。この子、いつの間にこんな技を……!?
「……ケーマさん。よくロクコちゃんを守りましたね」
「あ、ああ。はい。当然のことをしたまでです」
苦々しい笑顔で、ロクコのリクエスト通り俺を褒めてくるハクさん。
いやまぁ、実際はロクコはアイディと一緒に結構好き勝手に観光とかしてたけど、余計なことは言わない。ロクコに任せているので。
「ケーマを、魔国でのケーマを認めてくれて嬉しいわ、姉さま」
「え、や、その」
「ちがうの?」
「むぅ……!」
そっとハクさんに触れるか触れないかのボディータッチで攻めるロクコ。
ちょっと。何時の間にこんなテクニックを覚えたんですかロクコさんや? 魔国? 魔国でなの? 俺が見てない所で何をしてたんだ……!?
ともあれ、俺は無事生きてゴレーヌ村に帰ることが出来そうだ。ありがとうロクコ。
(書籍化作業が終わらないのに新作を書きたい病が……ッ)





































