本戦開始
(だんぼる11巻&コミック2巻、本日発売!)
ワタルと魔都の観光、などというイベントもなく、すぐに本戦大会当日になった。
……魔都で寝て過ごしたという訳でなく、単に到着した翌日のことだ。
「到着して翌日に本戦開始とか、結構スケジュールがギリギリだったんだな」
「あら。私達が最後に着いただけよ。全員揃い次第大会開始、何の不思議もないわ」
「ケーマがなかなか起きないからよ」
「え、日程決めてたのアイディだろ。それに起きなかったのはロクコもだろうが」
「仲睦まじい事。惚気るのはその位にしてもらえるかしら?」
そして本戦大会はこれまたトーナメント――のはずが、なんと上位4名まで絞り込んだらそこから総当たり戦になるという事が判明した。
「トーナメントじゃなかったのか!?」
「ああ、それは私の進言で変更してもらったのよ」
「なんでそんなことを!?」
「あら、どうせ全勝するでしょう? それだと面白くないから爺様に……ね?」
ね? じゃない。おかげで調整が難しくなってしまったじゃないか……!
「戦闘数が2回も増えたのよ? あわよくば優勝決定戦で3回よ? ふふ、私、いい仕事をしたわ」
くそう、異文化め! 本気で良かれと思ってるから尚更タチが悪い!
「ケーマ! このトーナメント表からして、うまくすればケーマとニク、セバス、ワタルでの総当たり戦になるわよ!」
「さすがにそこまで揃うのは無いだろう……多分……いやニク次第か?」
ロクコの言うように、帝国組&同じ町ということもあり、俺達はバラバラに配置されていた。
優勝候補のワタルにセバス、無敵毛布砲台の俺。あとダークホース(犬)のニク。
案外この4人で決勝というのもあり得そうで困るな。そうなったら談合でうまいこと2位を狙えそうだ。
だがニクより強いセバスがいる時点で、ニク以上の参加者もいるに違いない。
……あ、でもそれがうまく俺かセバスかワタルにぶつかる様であればあるいは……うーん。
「まぁ、可能性はゼロじゃないな」
「ニク、頑張りなさいね!」
「はい、ロクコ様」
できれば勝ち残って欲しいが、無茶はするなよ。と頭を撫でると、ニクは尻尾をぱたぱたとさせた。
決意を新たにしたニクを連れて選手控室へ向かう。
選手控室は予選の所とさほど変わらない質実剛健で無骨な、特に飾り気のない部屋だ。
そんな控室の片隅で、何やら疲れた顔をしているワタルを見つけた。他の出場者も遠巻きに見ているだけだったが、とりあえず話しかけてみる。
「ああ、ケーマさん……凄いですね魔国は。屋台巡りしようかと思ったんですが『俺と勝負して勝ったらタダでくれてやるよ!』とか言ってきて買い物するのも一苦労でした……お金を払うと言っても聞いてくれなくて……」
その間ワタルはワタルで戦いを吹っ掛けられたりもしたようだ。出場枠が奪えなくとも、「折角なので」という理由で照れながら戦いを挑んでくる連中が多く居たらしい。
2、3人ほど手が滑って危うく殺しかけたが、拍手喝采されたとかなんとか……
「まるでアイドルですよ。僕、魔国の人に恨まれてると思ってたんですが」
「あー、なんというか、良かったじゃないか? この国の奴らは強い奴が好きだからな」
「あっ! 今アイドルって言葉を普通にスルーしましたね!? これは――」
「ワタル。前後の文脈で意味が分かる場合、多少分からん単語でも聞き流すだろ」
「――ちっ。さすがケーマさん、口が達者ですね」
だから油断も隙もねぇな。いいかげん諦めてくれればいいのに。
ちなみにスルーという言葉も何気に引っ掛けだった可能性がある。ホントにもうコイツは。
「……それにしても、女性の参加者も結構いるんですね」
「ん? もう落ち込むのは良いのか?」
「ええまあ、そういうものと割り切ることにしましたんで」
「さすが勇者様と言ってやろう」
「……あちらの女性はアラクネですよね?」
「だろうな。アラクネは女の方が強いらしいぞ、種族的に」
「モンスターでも普通に生活してるのを見ると、僕の戦争はなんなんだって感じになってきますねぇ……」
魔物率いる魔王と戦う勇者。だが魔物も普通の人と変わらない。
「なんなんだ、って。ただの戦争だろ? まぁ、魔国は多少毛色が違うみたいだが」
「……そういえばハク様は魔王軍が悪だとは一言も言ってませんでしたね。単に『蹴散らしてきなさい』と戦働きを求められた程度でした」
ふぅ、とため息をついてニクを見るワタル。
「そういえばクロちゃんも出るんだね、本戦」
「ワタルは予選免除と聞きましたが」
「そうなんだよね。でも実際上位大会に出るはずだった魔族の人と手合わせとかもしたから実質それが予選だったのかも」
「勝ったのですか?」
「一応ね。お互い木剣で魔法無しだったから、真剣で戦ったらどうなるか分からないけど」
「どのような闘いで?」
「魔王流は色々とおかしい、って感じたかな」
ニクとワタル、案外話がはずんでいるな。
ここだけ空気がのんびりしており、周囲の目がなんとも痛いような……いや、これは少しでも強敵の情報を得ようという感じかな。
ついでに同じく帝国枠である俺とニクも注目されてる、と。
「……ところでケーマさんはどんな風に勝ったか聞いていい?」
「ご主人様の戦いは、見てのお楽しみです」
「あはは、さすがに教えてもらえないか。まぁ本戦での戦いを見て参考にさせてもらおうかな。ね、ケーマさん」
「……まぁ、ワタルが期待するような戦い方はしてないんじゃないか」
ちなみにニク、何気に自分が新たに魔王流を修めてることや、予選では実際にその魔王流を使って戦ったりもしたことは一切話す気がないようだ。
個人情報の危機管理がしっかりしているようで嬉しいよ、俺は。
「そういえば一緒にいたあの赤い髪の男は?」
「あれはロクコ様のご友人の執事で、魔王流の剣士です。厄介な相手です」
「へぇ……クロちゃんが厄介って言うからには、相当なんだね」
……訂正。身内の個人情報管理が行き届いててなによりだよ。
まぁそんな感じでワタルの話を適当に流しつつ、周囲から注目もされつつ、俺達は本戦大会の開会式を待った。
(あ、もう次の書籍化作業入ってるんですよ……今回は書下ろし率9割が確定してるな(遠い目)
というか、日常でわりかし常に小説の事考えてるよなぁって思う今日この頃)





































