魔国的敗者復活戦
(ひさびさのろすたいむ。寝落ちてた、ぐへぇ)
本戦出場が決まり、俺たちはアイディの治める町から本戦の会場、魔都に向かった。
俺とロクコとアイディ、ニクとイチカとセバスの6人で乗合馬車のようにのんびりと移動だ。とはいっても馬は例の6本脚。急がなくてもそれなりに早い。
「流石に6人乗せてあの速度では色々負担が大きいから、節約よ」
「そういうもんなのね」
ちなみに俺達と同じく本戦出場を決めたガイガンキン選手は別途馬車で向かうそうな。
ライバルのアルジャーロ・メノウェ選手が勝利を讃えて移動用の馬車を用意してくれたとか(本来は自分用だったに違いない)。
「それにしてもアルジャーロ・メノウェ選手の魔槍プロチューブ、あれは厄介だったわね」
「そうね。うちのマスターでも手古摺ったかもしれないわね。ガイガンキン選手も新技、散龍手がなければ如何にもならなかった筈よ」
「まさか見えなくなる槍だなんてね……そう考えると予選で潰しあってくれて万々歳と言った所かしら?」
「あら。ロクコのマスターなら例え2人同時に来たところで鎧袖一触よね?」
予選大会の話で盛り上がるロクコとアイディ。
見ればわかるとかアイディが言ってたのに、見えなくなる槍だもんなぁ。最初は槍が消えただけだったが、途中から使用者まで消えていった。それでいて存在感はバッチリ、まさに目の上のたんこぶ。
相対するガイガンキン選手はこれを新技の範囲攻撃で制圧した、という流れだった。
見ごたえのあるいい試合だったな。
まぁ終わった戦いはもういい。これからの本戦に集中しようじゃないか。
「とりあえずセバス、予選大会突破おめでとう? 当然の結果っぽいけど」
「ああ。一応礼を言っておこう。まぁ、これくらいできないようではお嬢様の執事はできないからな」
「そういうものなのですか?」
「犬っコロ。お前はコイツから『勝て』と言われて、負けることを是とするのか?」
「なるほど」
納得する説明なのかそれは。いや、俺には分からない奴隷の矜持とかがあるんだろう。
ちらりともう一人の奴隷、イチカをみる。
「……いやウチは無理やで? 予選突破しろとか言われても困るからな? むしろ断るからな?」
「ああうん。だよな」
セバスは別格として、『普通に強い奴』が多く出ている予選大会だった。俺の場合はかなり雑に全員倒したからおいといて、ニクの相手でもスクジラ選手とかはかなりの猛者。ウゾームゾー兄弟の知り合いらしくあの後で少し話を聞いてみたが、Bランク冒険者以上の実力があるんだとか。
「なぁ。ニク強すぎじゃない? もう勇者クラスだろコレ」
「ニク先輩は自分を強くする趣味があるから……魔国出身と言われても納得やで?」
……それを結構あっさり勝っちゃうニク。ほんとこの幼女、どういうことなのかと。どこまで強くなる気なんだろうか? ニクって、俺が聞いた諸々の話が事実なら血統的にはあのレオナの孫なんだよな。素材は最高級なわけだ。
あ、それとスクジラ選手の相方、人虎のシロナガ選手は俺が倒した中に紛れていたらしい。
シロナガ選手も本戦出場経験者だったそうだ。2位決定戦を勝ち抜いて2位を確定させてたあたりを考慮すると、俺がいなかったら予選突破していただろう。
……俺の最強毛布砲台戦法は本戦でも十分通用しそうだなぁ。
「しっかし本戦大会出場者が3人乗ってるとか、結構贅沢な馬車なんじゃないの?」
「あらロクコ。そのうち2人はロクコの陣営じゃないの。もしかして自慢?」
「ふふん、気が付かなかったけど自慢でいいわ。まぁ、準優勝賞品は私達が貰うからね。優勝はセバスにあげても良いわよ?」
「あら有難う。……でも実際、あの毛布は反則的ね。鉄壁どころじゃないわ」
『神の毛布』の防御力はまさに神レベルだ。あらゆる攻撃を無効化するからな。
投げ攻撃どころか毛布を剥ごうとする行動すら防ぐという代物。まさしく神の名に恥じない一品だ。性能がヤバすぎる。ただ快適に寝られるだけの『神の掛布団』の完全上位互換じゃないか……まさか掛布団にも俺の知らない機能が隠れてたり……?
と、アイディが窓の方をちらりと見る。
窓の外は荒野。魔国的に言うと『暴れても周囲に被害がそんなでない素敵な広場』だ。
「そろそろかしら……?」
「そろそろ? 何かあるの?」
「あるわよ。まぁ、余興といったところかしら。この武闘大会恒例の、本戦出場者に狙いを定めた襲撃ね」
「えっ」
「出場者を倒せば、代わりに出られるのよ」
「ええっ」
曰く、大会のルールに『本戦出場者を襲撃した場合の取り決め』がちゃんとあるらしい。本戦出場者を倒した者は、その出場枠を奪い取れるんだと……何それ。予選大会の意味って何だよと言いたくなるな。
本戦出場者はこれを避けても良いし、護衛を雇っても良いし、堂々と受けて立っても良いそうだ。……なんて無法で物騒な敗者復活戦だ、いやルールで決まってるなら無法ではないのか。
「……と、来たわね。馬車を止めなさい」
そしてアイディの一存で俺達はその襲撃を受けて立つことになったようだ。
それにしてもよく俺達のルートや移動する時間が分かったな……え、事前にいつどこのルートを通って魔都に行くかといった情報は情報屋に流してある? なんでわざわざそんな……って魔国だもんな。はいはい魔国魔国。襲撃はプチお楽しみイベントか。
「マスター、蹴散らして来なさい?」
「分かった。……両腕を使っていいんだよな?」
「そうね、ただし早く魔都に行きたいから――10分で全滅させなさい」
「かしこまりましたお嬢様」
と、どうやらやる気満々のセバスとアイディ。俺達も出るべきだろうか。それともセバスに任せておいた方が?
……視線を感じてニクを見ると、体を動かしたそうにソワソワしてこちらを見ていた。
「あー、ニク。俺の分も頼めるか?」
「わかりました」
俺がそう言うや否や、ニクは嬉しそうに尻尾をパタパタさせつつゴーレムナイフを持って馬車を飛び出していった。鼻歌でも歌いそうな勢いだ。
……まぁ、馬車で凝った体をほぐすいい運動になるよね。きっと。
(N-Starの方で連載している「異世界ぬいぐるみ無双」、完結しました!
このお盆休みに読んでみたらいいと思います。……俺たちの戦いはこれからだ!
あ、それと今月25日はだんぼる11巻の発売日ですよ。コミカライズ同時発売です)





































