閑話:メロンパンフェス
(書籍化作業中のため閑話で更新)
「メロンパン……フェス!?」
ロクコがその日おもむろにメニューを見ると、そんな一文があった。
そして、その下にはいくつものメロンパンが表示されていた。早速ロクコはケーマに報告する。
「ちょ、ケーマ! ケーマ! これ、これ見てケーマ!」
「ん? なんだ? ……へー、メロンパンフェス?」
「そうなのよ」
しかもよく見るとご丁寧にメールで『お知らせ』があった。ロクコ宛のみで。
本文を見ると、まるでスーパーのチラシやダイレクトメールの如くである。誰の仕業か、とケーマは『父』こと闇神を思い浮かべ、それ以上考えるのをやめた。
「3日間、メロンパンフェスですって!」
「……期間限定か。そういうのもあるんだなー」
ロクコは早速、カタログにあるメロンパンを出してみることにしたようだ。
とはいうものの、今は魔国に留学中の身。ダンジョン『欲望の洞窟』からのDPの補充はされていない状況だ。
「どれにしようかしら……DPに糸目は付けないわ!」
「いや、せめて100DPまでにしとけよ。節約しないと」
「……アイディから貰うし! だから1000DPまで!」
その手があったか。とケーマは頭をポリポリ掻く。ロクコのメロンパンにかける情熱は、ゴブリンのそれを上回る。と、ケーマは認識していた。
そこに丁度アイディが顔を出す。
「ねぇロクコ。今、私を呼んだ?」
「あらアイディ。丁度良かったわ、メロンパンフェスが開催中なの。DPを分けて頂戴、とりあえず1000DPでいいわ」
「メロンパンフェス……?」
「メロンパンのお祭りよ!」
「……残念、コロネフェスなら喜んで差し出したのだけれど」
と、アイディがちっとも残念そうでなくため息をつく。
「あるわよ、コロネ」
「え?」
「クリームコロネにメロンパンの皮を被せたコロネがカタログにあるわよ。たぶんフェス限定品ね」
「1000DPで良いのね?」
あっさりとアイディは陥落した。あったなら仕方ない。
「そのコロネを100個程貰えるかしら」
「OK、交渉成立ね」
「ふふふ、それにしてもコロネにメロンパンの皮とは――攻守兼ね備えたコロネね。最強だわ」
「こんなのもあるのねぇ。あ、私は超巨大メロンパンってのを最初にしましょ」
どさどさと大漁のメロンパンを出すロクコと、コロネメロンパンを受け取るアイディ。
あまりの量に、ケーマは見てるだけで胃もたれしそうになった。
「おいおい、お前らそんなに食べたら晩飯食えなくなるぞ」
「何言ってるのケーマ。メロンパンは別腹よ?」
「そうよ、コロネは別腹よ」
ダンジョンコアの場合、実際別腹があり得るから困る。ダンジョン機能で『吸収』してしまえば、理論上は無限に食べ続けることすらできるのだ。
「見てアイディ! 超巨大メロンパン、イチカのおっぱいより大きいわ!」
「確かに」
「なんでイチカの胸の大きさと比較したのか。いや気持ちは分かるけども」
ケーマから見て、実物のメロンよりも大きいように思えた。通常のメロンパン4~5個分のサイズだろうか。
「でも見た目はダメね、あみあみが無くて」
「ただデカいだけね」
「でもそれがいい」
そうしてロクコは超巨大メロンパンにかじりつく。はぐはぐと顔をうずめて大きなメロンパンにかじりつく様は、まるで小動物のようであった。
「味は普通にメロンパンね! おいしいわ」
「大きくて迫力はあるけれど、それだけね」
「そんなことないわよ。中のふわふわ部分がすごいふわふわで、まるでケーキのスポンジのようになってるわ。これは普通のメロンパンにはない所ね」
そんなロクコの隣で、アイディはコロネメロンパンを食べる。
「螺旋部分はメロンパンの皮に隠れて見えなくなっているけれど、確かにこれはコロネね。中身のクリームも固めで味わい深いわ」
「肝心のメロンパン部分はどうなのよ?」
「そこは見ての如くメロンパンね。……籠手に剣を付けたような感じで、悪くないわ」
地球で言うところのパタという武器がそれに近いイメージだろうか。
……そもそもパンを食べていて武器をイメージするのはどうなのかとも思うが、本人が満足そうなのでケーマは口を挟むのは止めておいた。
メロンパンに切れ込みを入れ、コロッケやベーコンを挟んだものもあった。メロンパンコロッケバーガー、メロンパンベーコンバーガー……バンズ、パンの部分がメロンパンというだけの話だ。
何でもかんでもメロンパンつければいいと言うものではないのではないか? とケーマは思う。
「これは甘じょっぱくて捗るわね! なによりもメロンパンなのがいいわ」
「子犬やうちのマスターが好きそうね。メロンパン、やるものだわ」
「ふふん、当然よメロンパンなんだから」
「メロンパンなら何でも許されるとでも?」
「当然よメロンパンなんだから」
が、メロンパン好きのロクコには、まさに何でもかんでもメロンパンが付いていればいいようである。甘いのとしょっぱいので、意外に合うようだった。
さらには生クリームとメロンを挟んだものもあった。
フルーツサンドのパンをメロンパンで作り、中身のフルーツもメロンにしたという……まさにメロンの暴力。メロン&メロンパン。
「これは……究極メロン体ね……! 本物のメロンと、メロンパン。そこに生クリームまで。これは『甘い×甘い×甘い=甘ぁい!』になる!」
「ロクコ、私にも寄越しなさい。あとフルーツサンドというのも気になるのだけど?」
「サンドイッチで生クリームとフルーツを挟んだものよ。甘くておいしい」
「後で普通のフルーツサンドを貰える?」
「DPはアイディ持ちね」
メロンがゲシュタルト崩壊してきそうな存在にも、ロクコは満足そうだ。甘いの好きだもんな。とケーマは頷く。
メロンパンの皮だけのものもあった。
「これはもはや……ただの大きめなクッキーね?」
「ロクコ、貴女がそれを言ってしまう?」
「だってそうじゃない。まぁ味と香りはメロンパンだから、メロンパンクッキーとでも言いましょうか。……とりあえず10枚くらい買っときましょう」
「あ、買うのね」
「デザートに丁度いいじゃない」
デザートとは一体なんなのか。それで言ったらフルーツサンドをメロンパンで作ってた方がよっぽどデザートなのでは? とケーマは疑問に思ったが、考えるのをやめた。
こういうのは考えるだけ無駄なのだ。
そして勿論普通のメロンパンや、高級なメロンパンも目白押しだ。
尚、それぞれはメロンパンなだけにあまり高くない。一番高い超巨大メロンパンでも5DP程度である。
1000DPも予算があれば、それこそ好きなだけメロンパンを堪能できる。
「メロンパンフェス最高ー!」
「コロネフェスとかも開催してくれないものかしら……もぐもぐ」
晩飯食えなくなりそうだな、とケーマは思うが、まぁ……なにせ胃袋の中身をダンジョン機能で吸収する、例の無限の別腹をもつ二人だ。
実際、大量のメロンパンをそうやってお腹に収めている節があった。
「……なんというか、幸せそうでなによりだよ?」
「ケーマも食べる? メロンパン」
メロンパンの甘い香りに包まれた部屋。
こいつらはともかく、俺は今日の晩御飯はメロンパンでいいかな、と、ケーマはロクコからメロンパンを受け取った。
(へ、下手したら次も閑話かも……〆切ががが)





































