スキル検証
【ピットフォール】。そして【ストーンパイル】。それが俺が新たに覚えた魔法の名前である。
え? 【ストーンパイル】どこから出てきたって? そりゃあれだよ。相乗効果狙いでカタログから出したんだよ。『ストーンパイルのスクロール』、2000DP。
こいつがあれば穴を掘った後に石の杭でトゲトゲにできるんだぜ?
尚、『ピットフォールのスクロール』についてはカタログに無かったためお値段は不明だ。
「というわけで、今日こそ活躍してねケーマ!」
「いや、今日はスキルの練習をしたい。アイディ、どこか人目の付かないところはあるか?」
「あら。秘密の特訓? 嫌いじゃないわ、そういうの」
というわけで、俺は町の外の岩場にやってきていた。
強いモンスターが出る可能性の少ない方で、あまり人気がなく、穴場らしい。
「で、どんなことするのケーマ?」
「……というか、なんでロクコも一緒に来たんだ? 俺は一人で練習するつもりだったんだが」
「どうしてって。一人じゃなにかあったら危ないでしょ」
……まぁ確かにモンスターが出ないとも言っていない。周囲を見ておいてくれる人が居れば練習に集中できるだろう。
「じゃ、早速使ってみてよ。私が当てた【ピットフォール】を!」
「はいはい、じゃあまずは詠唱ありで。……大地よ、穴を作れ――【ピットフォール】」
おれは地面に手をついて、スキルを発動。……すぐ目の前に、くぽっと深さ1mほどの穴が空いた。
「へー、結構いきなり穴ができるのね」
「そうだな。上から掘り下げるんじゃなくて穴が空くって感じだ」
スキルの流れ的には、魔力で作った極細の杭を打ち込み、それを中心に円柱の空間を作る感じの魔法らしい。……これ、地属性というより時空属性じゃないか? って気もする。
「それで、これも【クリエイトゴーレム】みたく魔改造できるのよね? 人目の付かない所で練習したいってことは、そういうことでしょ」
「まぁな。例えばこんな感じかな? 岩よ、穴を作れ――【ピットフォール】」
俺は適当な岩を対象に、横向きに【ピットフォール】を発動。くぱっと穴が空いた。
ついでに言うと、穴は貫通している。
「へぇ、これがあればトンネルがすぐできるわね!」
「それは無理だ。解除したら元に戻る」
俺が魔法を解除すると、穴はしゅるんっと閉じ、元に戻った。
……空間が歪曲してる感じ? これ、戻した時に穴の中に何か入ってたらどうなるかな。
というわけで、早速試してみる。【ピットフォール】で作った穴の中に石ころを放り込み、解除――っと、ぼとりと石が吐き出された。
「……石を射出とか、閉じ込めたりもできなさそうね」
「どうかな? その判断はまだ早い」
俺は【ピットフォール】を発動。そして、その穴の底で更に【ピットフォール】を発動。
これで穴が2段階にできた形になる。
そこに石を投げこんで、上の穴の分だけを解除。石を完全に閉じ込めた状態が出来上がる。
「と、こうやって上だけ蓋にすれば閉じ込めることはできるわけだ」
「……ほほう。これは確かに閉じ込められるわね」
「だろ」
「で、この状態で下の穴を解除したら中の石はどうなるの?」
……やってみた。が、土の中なのでどうなったのかよく分からない。少なくとも中にあった石が地面の上に出てきたりはしていない。
「こりゃ埋まったかな……?」
「ゴーレム使ってみたら?」
「それもそうだな」
今度は石の代わりにクレイゴーレムを作成し、それを使う。
結果は――うん、完全に土の中に埋まってることが分かった。若干土が盛り上がった気もする。穴が深すぎたからかよく分からない。
次は上の段を落とし穴の蓋になるくらいの薄さでつくって試す。
すると、蓋部分をぼこっと押しのけてゴーレムが生えた。
「なるほど。生き埋めもできそうだ」
……あと、内側からの破壊、みたいな感じで使えるかもしれないな、これは?
「これ、上のを閉じた時点だと、完全に地面と見分けがつかないわね」
「普通に落とし穴として使えるな。最初からその形で発動できないかな?」
穴を作る杭を、完全に地面に埋まるように打ち込む。そして発動――……発動した手ごたえはあるが、表面は何も変化がない。
そこをゴーレムに歩かせると――蓋になっていた部分が崩れ、中にできていた空洞に落ちた。
「おお! 成功だな!」
「落とし穴を好きなだけ作れるわね!」
「魔法を解除したら消える落とし穴だけどな。俺の魔力量なら消費をあまり気にせず使えるけど」
打ち込むときの具合は、【クリエイトゴーレム】で魔力を流す感じに似ていた。
次は、土とか岩とか以外に穴を空けられるか試してみよう。
「ケーマ、こんなこともあろうかと、鎧を借りてきたわ!」
「お、良くやったロクコ。まぁ俺も持ってきたけど」
と、ロクコは金属鎧を、俺は革鎧をそれぞれ【収納】から取り出した。
「やっぱり鎧に穴を空けられないかとか考えるわよね。ふふふ」
「だな」
俺と同じことを考えたのが嬉しいのかにこっと笑うロクコ。
実験の結果、金属鎧も革鎧も、普通に穴を空けることができた。……これは結構やばいかもしれんな?
「じゃあ、次は生き物ね!」
と、ロクコは【収納】からゴブリンを取り出した。……その発想は無かった。いや、生き物じゃなくて、【収納】にゴブリンの方な。
「なんで【収納】にゴブリン入ってんの」
「え、持ってきたら不味かった? 使うと思って用意しといたんだけど」
「いや……うん、別に。というか、生き物入れられるんだ【収納】って……」
ゴブリンは普通にぴんぴんしていた。
入れられる側、どういう感覚になってるんだろう。【収納】の中は時間が止まるから、入った後に一瞬で出てくる感じかな。
ともあれ、ゴブリン相手に【ピットフォール】を試してみる。
――魔力の杭が、ガチンっと拒まれる。すごく刺さりにくい。だが刺さらないわけでもなかった。
強引に突き刺し、杭をゴブリンの腹を貫通させる。痛みは特にないようで、ゴブリンはぼーっと立ちっぱなしだ。……ゴブリンでこれだと、実戦じゃ到底使えそうにないな。
で、そのまま発動すると、ゴブリンの腹に大穴が空いた。
「……おおう」
「うわー、なにこれ。どうなってるの?」
腹に穴が空いているにもかかわらず、ゴブリンは平然とした顔のままだ。……断面から内臓が零れ落ちるという事もない。どうも魔力の壁が貼られているようだ。十中八九、空間が歪曲してるな。
「ねぇケーマ。この貫通した穴に棒突っ込んだまま解除したらどうなるの?」
「なんて恐ろしい発想するんだこの子」
さすがに無辜のゴブリン相手にその実験は恐ろし過ぎる。
俺は、改めて岩にトンネルを作り、そこに【クリエイトゴーレム】で作った石の棒をつっこんだ。そして解除。
……凄い力で押し出される。が、完全に棒が押し出された時点で勢いは消えた。
「普通に押し出されたか」
「偏ってる方に押し出されるっぽいわね。じゃあ端と端つなげてたらどうなるの?」
「……」
俺はロクコの案のままに、岩にトンネルを作って、そこに石棒を突っ込んで、【クリエイトゴーレム】で棒を曲げて石輪を作った。巨大なリングピアスみたいな感じだ。
そして解除。
ばきべきばきっ!
石輪は、千切れて壊れた。……何かに使えるかなこれ。うーん?
「オリハルコンでも壊れるのかしら」
「ロクコ張り切り過ぎじゃない?」
一応もうひとつ【ストーンパイル】もあるってのにもう疲れてきたぞ。
「ケーマ、ちょっとストーンパイルの詠唱かえてオリハルコンパイルとかできないかしら」
「……『石の杭よ、産まれ出でよ』ってのが元の詠唱だからな。えーっと。オリハルコンの粒よ、産まれ出でよ――【ストーンパイル】」
次の瞬間、俺は気を失った。これ、杭って言ってたら死んでたかもしれない。
……ちなみに砂粒程度だが、ちょびっとだけオリハルコンが生成されたらしい。マップで確認しなかったら絶対見つからなかったそうだけど。
(書籍化作業中ですが、あれです。コミカライズ10話更新されてました。
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