魔国の寝具
(令和初更新です)
魔国の主食ことウドンを食べたところで、俺達は滞在する部屋に案内された。
石造りの部屋で、絨毯が敷かれている。ほほう、ベッドもあるじゃないか。……あ、硬い。箱に毛布載せてシーツかけた程度か。
「寝具は発達してないのか……これは上にオフトン敷いた方が良いかな」
「あら? 戦場までオフトンを持っていく気?」
あ、なるほど。常在戦場の心得というか、戦場でも同じ環境で休めるようにという感じなのか。日頃からこのベッドに慣れていれば戦場でも十分休める、という事かもしれない。魔国らしいぜ。
「ケーマなら食料や武器防具より寝具を優先するわね」
「妙な所拘るのね、と、留学前の私なら言った所よ。まぁ、あの部屋のベッドと比べたら遥かに劣るのは認めるわ」
「でしょ」
「魔国で柔らかい寝具といえば、肉布団くらいだもの」
「肉布団? ああ、うちのニクみたいな感じなのね」
……大体合ってるから困る。
「いえ、魔剣の姿に戻って捕虜とか獲物とかの臓腑にずぶりと入り込んで寝るのよ。魔国は武器系のコアが多いから」
「へー。それなら私には関係ないわね」
「武器系じゃなくても、こう、お腹を切り開いて中に入って寝るのもあるわ。手足を縛りつけて吊るして……ロクコのとこで見せてもらったハンモックみたいな感じね」
大体合ってなかった!? なにその物騒なハンモック!
「ああ、よければ手配するけど? 女奴隷がいいわよね? モンスターだと獣臭いし」
「どちらにしても生臭そうだから遠慮しとくわ」
「そう?」
まぁ、1回寝るたびに1つの命を使うとかコスパ的に相当悪いし、グロくて眠れる気もしない。俺も遠慮しておこう。
「ならまぁ、これは輸入品――というか、ロクコの所で買った寝具だけれど、置いておくから使いなさい」
と、アイディはウチのスイートルームで使っているのと同じマットレスを【収納】から2枚取り出し、ベッドに置いた。
なるほど、これなら寝心地は十分だ。俺が保証する。
「あれ、アイディ様。ウチの分は?」
「イチカは別室だし別にここまでの持て成しは要らないでしょう? オフトンは用意してあるわよ」
「そーなんか。……ってちょっと待ちぃや、ウチ別室なん!? ウチだけ仲間外れ!?」
「私の客扱いなのだから、留学のロクコ達とは分けるのは当然でしょう?」
「そうよ諦めなさいイチカ。こっちは3人で仲良く寝るとするから」
と、ロクコが俺の腕に抱き付いてくる。ん? 3人で?
「まて、ロクコ。俺とロクコも別室じゃないのか?」
「あら。当然同じ部屋に決まってるでしょ? ベッドもマットもアイディがこうして用意してくれたわけだし? 今更断れないわよね?」
なん、だと……?
アイディを見ると、ニコリと笑っている。
「ああ、私はロクコを全面的に応援してるから、気にしないで? 勿論、ロクコとロクコのマスターが何をしようと、口外もしないと誓うわ」
「お。ちゅーことは……なんならニク先輩はウチん部屋で預かろか?」
「まてイチカ。ニクを引き取られたら俺とロクコが2人きりになってしまう」
「そうね、イチカにはニクを預かっててもらおうかしら」
あれ、これ外堀も内堀も埋められ尽くして、もはや丸裸なのでは?
「ベッドくっつけておくわねロクコ」
「ありがとうアイディ。広く眠れていいわね。あ、掛布団はいいわ、持ってきたの使うから」
……俺の分の掛布団は用意してくれよ? 枕は自前の『天上枕』使うからいいけど。
*
というわけで、結局ロクコと2人きりで寝ることになり、勿論手を出さずにむしろさっさと寝たのだが、翌朝のロクコはやたら嬉しそうだった。
「むふふ」
断じていうが、俺はさっさと寝たしロクコは隣のベッドで寝ただけである。朝起きたら素っ裸になっていたという事もないし、ロクコが俺に密着するように潜り込んでいたとかいう事もない。
なにせ移動につぐ移動で疲れてたし。身体バッキバキだったし。当然のように寝た。
夢も見ないでぐっすりだった。
起きた時にロクコが俺の顔を覗き込んでニマニマしてたくらいだ。
そんなわけで朝ごはんにまたウドンを食べつつ。俺は、笑顔のイチカ及びアイディに向かってポツリと言う。
「何もしてないぞ」
「うんうん分かっとるよ?」
「勿論、理解ってるわよ?」
本当に何もしてないぞ。その証拠に、ぐっすり寝た身体はばっちりすっきり回復している。さすがウチの宿のスイートで採用しているマットレス。『神の掛布団』に比肩する回復っぷりと言えよう。
気分も爽快、今日も元気に二度寝しよう!
「ケーマ、今夜も2人きりで寝ましょうね?」
「……」
……これ、留学中毎日とか言わないよな? いくら俺でも理性の限界ってもんがあるぞ。
「……いや、ニク使いたいかなぁ」
「いいわよ。ニクは奴隷だからノーカンで、2人きりね」
先日イチカが言っていた奴隷ノーカン論を使い始めた。くそうこの子ったら学習速度高いなぁ!
「それはそうと、今日はどうするのケーマ?」
「折角だし、魔国の鍛錬でも学んで行ったら? 体で」
「……疲れそうだな。よし、今日は寝よう!」
「駄目よ? 折角の留学なんだから、学んで行きなさいよ」
「そうね、ケーマは闘技大会に出るんだし少し鍛えときなさいよ。私にいいとこ見せられるように。ぐーたらしてるばかりじゃなくて」
良いじゃないか別に! アイディだって俺達の宿でぐーたらしてばっかりだったじゃんかよぅ!
「あら。私は留学先の文化を満喫していたのよ。であれば、ロクコ達もこの国の文化を満喫するべきではなくて?」
「くっ、筋が通っている……!?」
「うちのマスターも鍛錬するし、一緒にしてきたらいいわ」
ふむ……そういえばアイディのマスターはどこで何してるんだろうか。
「そういえば、アイディのマスターはどこにいるんだ?」
「ん? 紹介してなかったかしら。こいつよ」
そう言って、アイディは背後に立つ執事を指さした。
……よく見たら見覚えのあるような気がする、黒に近い赤髪の少年。時間が経った暗い血の色をしたその男は、特に笑顔を浮かべるでもなく、無表情であった。
「なぜ執事……?」
「私の奴隷だからよ。そこの子犬と同じようなものね」
確かにニクと同じような首輪が付いている。
元々人間牧場で育てていた奴隷がマスターになったらしい。教育済みで何でもいう事を聞く奴隷だとか。……相当教育されてるんだろうな。じゃなきゃ絶対命令権を駆使させて呼吸を不要にしたりできないだろう、奴隷に下剋上されるのが関の山だ。
「マスター、今日はロクコのマスターとそこの子犬を訓練に連れて行くわよ」
「……かしこまりました、お嬢様」
スッと頭を下げる執事。俺は寝てたいんだけどなぁ……どうやら訓練とやらをしないといけないようだ。はぁ。
「ロクコはどうする? 参加でも見学でもいいわよ」
「そうね、それじゃあ見物させてもらおうかしら。……あ、折角だし魔国のことが分かる本とかあったら読ませてよ」
「良いわよ。マスター、適当な本を用意してあげなさい」
「かしこまりました」
というわけで、朝食後は皆で訓練をする事になった。
あ、イチカはネズミレースの運営ノウハウを教えてくることになってるから別行動な。終わったら自由時間らしいからさっさと終わらせて俺達に合流してくれ。
(ソーメンは日本では伸ばすものですが、魔国では細く切った方が鍛錬になるんじゃね? という経緯で作られ、イシダカがソーメンと名付けてます。
他にも果物などがイシダカなどの勇者によって日本名と関連付けられていたります。そんなわけで、似ているからと言って日本と同じモノとは限りません)