魔国の食事
(ちょっと遅れたけど平成最後の更新だよ)
アイディの領地とかいう町に着いたので起こされた。
「程々に揺れるのも良く寝れていいものだ。うん。おはよう」
「おはよう、そろそろ日も沈む頃合いだけれど」
「ケーマ、相変わらずよく寝るわよね……」
規模はツィーアの半分未満であろうが、ちゃんと町らしい感じになっている。イメージとしては大きい村って感じに近いかもしれない。ギリギリのラインだ。
……まぁ、それが何故かといわれると、多分町を囲う壁が無く、柵くらいしかないからだろう。ロクコがその点についてアイディに尋ねていた。
「この町、壁で囲ったりしないの? 柵くらいしかなかったけど」
「そんなことしたら野良モンスターが襲ってこないじゃない」
「……? その、防衛のために壁で囲うのよね? それでいいじゃないの」
「ああ、文化の違いというものね。……何と言ったら良いかしら……そう、こちらではモンスターの襲撃というのは娯楽だし、仕事なのよ」
曰く、戦闘民族である魔国民たちはモンスターの襲撃に嬉々として武器を持って立ち向かい、臓物をぶちまけることに喜びを見出しているのだとか。
さらに言えば、襲撃によって建物が破壊されたりすれば大工の仕事にもなるし、畑を荒らされても食料はモンスターの肉で賄える。足りなくてもDPを使えばいい。
魔国では肉食系の種族が多いから、野菜や穀物はほんの少しあれば十分。むしろモンスターを呼び込むための餌くらいとしか考えていない節すらある。
「なるほど、文化が違うわね。襲撃が娯楽で、仕事より前に出てくるあたりとかも」
「でしょう。帝国の壁に囲まれた町を見て、何故こんなにも引き籠っているのかと首を傾げたものよ、戦うのが楽しくない人がいるだなんて」
逆に考えれば、この魔国に居る奴――少なくとも大多数――は、戦うのが大好きだということである。挨拶代わりに殴りかかる事も日常茶飯事だ。
「……そのくせにどうして魔道具の文化は帝国より上なんだ?」
「決まってるじゃない、戦うためよ?」
遠くの敵を倒しに行き、戦場で乗り回すために馬車が発展した。
暗くても戦えるように灯りが発展した。
敵を殺すために、毒や魅了に対抗するために魔道具も発展した。
なにせ死活問題だ、全力で取り組んだ。
問題があるとすれば戦いの果てに死ぬのはむしろ良いと思っていることだろうか。
そんなわけで、鍛冶屋や錬金術師は勝手に競い合い、時に手を取り合い、より戦いに便利な道具を生み出していった。それが魔国の歴史であるとかなんとか。
「……言われてみれば、超高速で悪路走行できる馬車とか戦車だもんな……魔国が作らないはずもないか」
「それに揺れが少なければ弓や魔法の攻撃もし易いものね」
「ふふ。理解ってくれた様ね?」
戦争が技術を発展させる、とはよく言ったものだなぁ。
と、そんなことを考えたところで馬車は止まる。どうやら目的地に着いたようだ。
馬車から降りると、そこは石造りの屋敷だった。
夕日で赤く染まった壁が、まるで燃える炎のようで、アイディにピッタリな屋敷だなぁと思ったり思わなかったり。
……うん、綺麗な夕焼けである。当然だが魔国でも夕焼けは変わらないんだなぁ。
「夕餉は早めにした方が良いかしら。まだ寝るのでしょう?」
「ああ、移動で疲れたからな」
「移動中ずっと寝てたのに、ケーマはホントよく寝るわね……まぁニクたちも眠そうだけど」
移動はそれだけで体力使うもんだからな……ああ眠い。
「この町の主食を出してあげる。……数分もあれば用意できるわ」
「魔国の飯、楽しみやなぁ! ウチの分もあるんやろ?」
「そういえばイチカは食べ物が好きだったわね、勿論あるわよ」
「ひゃっほう! ありがとうアイディお嬢様!」
喜ぶイチカ。だが待って欲しい、戦闘狂たちの魔国の主食である。
消費期限ぎりぎりの戦闘糧食とか出てきそうだよな……
*
……そう思っていた俺の予想は、斜め上の方向に裏切られることになった。
「小麦粉を練り、細長く切ったものを、干しキノコ等で作ったダシ汁に入れたものよ」
「うどんだコレ」
「好みで刻んだネギを入れなさい」
「うどんだコレ」
そう、うどんだった。改めて名前を聞いてもウドンだった。
「ネギ……」
「ほー、美味いやんこれ。ずるるるる……」
おいニク、あんまりネギ入れると体調悪くなるぞ、犬耳娘なんだから。
イチカも気に入ったようだなぁ。
「これ、パスタに似た感じだけどスープに浸かってるのが面白いわね」
「ふふふ、パスタのようなねっとりしたソースをかけても美味しいわよ」
それはそれでソフト麺みたいな感じになりそうだな。
「……で、アイディ。これはどういう由来なんだ?」
「小麦粉に水を混ぜたら殴るのに丁度いい感触になるでしょう?」
「それならパンでも良いだろう」
「勿論パンも有るわ。ついでに、この丁度いい細さに切るのが鍛錬になるのよ」
「スパゲッティの方が細くて鍛錬になるんじゃないか」
「ソーメンもあるわよ」
「ソーメンもあるんだ……」
もしかして魔国には醤油とかの調味料もあるんだろうか……
コメは魔国にも無いって話だったけど、魚醤はパヴェーラとかにあったって話だし、どこかに醤油があってもおかしくないかも知れない。
「ああ、ウドンは食の神イシダカが広めたレシピよ」
謎は全て解けた。勇者イシダカ、魔国まで来てたのか。フットワーク軽いなぁ。
「ロクコのマスターが居た異世界にもあるのね?」
「まぁそういうことだ。イシダカはやっぱり勇者で日本出身っぽいなぁ……」
「ところでそれが何か関係あるの?」
「……いや、特にないな」
まぁ魔国にウドン(とソーメン)があると分かっただけだ。魔国の歴史を少し知ったってくらいかな?
「まー、留学としては勉強することで正しいんちゃう? ずるるるる……ちゅるんっ」
「イチカ、ウドンが気に入ったようね。どう? 魔国に永住しない?」
「おいアイディ、ウチの奴隷を引き抜こうとするな。無駄だぞ」
「それもそうね。持ち主の方に交渉しないと……で、どう?」
「駄目だぞ」
うちの大事な奴隷なんだ。渡すわけないだろうが。
「イチカ。良いことを教えてやろう。ウドンにカレーをかけた『カレーうどん』というモノがあるぞ」
「……なん……やて……!? ウチ、ご主人様についてく!」
(書籍化作業はいるので週1更新になります。(既になっているとは言わないお約束)
あとコミカライズ9話が更新されてますのん)
(感想で言われて思い出したけど、書籍版ではちらりとウドンが出てた模様。ありがとう、ここ書籍化するときには忘れないようにしないとな……!)