魔国の馬車
(ろすたいm
そういや400話やん)
豪邸にプールがある感覚で、ここ魔国では個人邸宅に闘技場くらいある。
一つの町に必ず1個は共同闘技場もある。
そんなわけで決闘も日常茶飯事のこの国において、ハクさんと大魔王というある意味トップ会談のドリームマッチはさして目立つこともなく――というはずはないのだが、なんかこう、自然に人払いさせられた気もする。
あ、覗こうとしたヤツが飛ぶ斬撃に吹き飛ばされた。
「ところで私たちが留学するのはこの町でいいの?」
「否よ。此処より南にある私の領地になるわ」
「へぇ、アイディは領地とか持ってるんだ、大人っぽいわねー」
「ロクコだって村があるじゃない。まぁ、私も任されてるのは小さなところなのだけど」
そしてそれらを一切無視して、何事もなかったかのように話をするロクコとアイディ。
……俺とニクとイチカはどう口を挟んだものかと。
と、思ってたらアイディがイチカを見た。
「ところでイチカ」
「ん? なんやアイディ様?」
「貴女は私の招待という事になっているのだからこちらに来なさい」
「あー、まぁ、そうなるんか?」
俺に許可を求める目線を向けるイチカ。まぁ、そう言う話なんだし良いだろう。
「アイディ、ウチの子なんだから傷とかつけちゃダメよ?」
「勿論よ。……しかし大きいわよね、少し削って良い?」
「ダメって言ったばかりでしょうが」
「まぁいいわ。イチカ。ネズミレース、期待してるわ」
どうやらアイディ、建前だけじゃなくて本気でネズミレースを魔国でやろうとしてるのかな。……まぁ、いっか。
とりあえず屋敷の部屋で一休みさせてもらおう……と、アイディに連れられて行った先には馬車があった。馬の足は6本脚だったけど。これスレイプニルってやつじゃね?
「……屋敷に部屋、って言ってなかったか?」
「ええ。ウチの領地の屋敷に用意したわよ」
なんじゃそりゃ。こちとらようやく休めると思ったのに……と、がっかりしつつも押し込まれるように乗り込む。俺達が全員乗るや否や、馬車はアイディの領地に向かって出発した。
お、結構揺れるな……いや、ハクさんの馬車と比べたらさすがに揺れるか。あの馬車が揺れなさすぎるだけか。
「飛ばすわよ」
「領地はどのくらいの距離なんだ?」
「普通の馬車なら3日、この子なら半日で着くわ」
なにそれ。6本脚だからって6倍のスピードが出るとかおかしいだろ。普通の馬だって足は4本あるんだぞ。
ともあれ、揺れる馬車から窓の外を見ると……もう町の外に出ていた。緑が少なく荒野に近い。あまり舗装されていないようにも見えるのだが、それでもお構いなしにガンガンスピードを出している。
……スピードの割には、殆ど揺れていないと言っていい気がする。
「この馬車、魔道具か?」
「正解よ。帝国にある馬車よりも、これは更に高性能なの」
曰く、低速ではそこそこ揺れるが、超高速になってもそんなに揺れないという仕様の馬車らしい。ファイヤーアロー仕様とかなんとか。
「これに勝るのは帝国の皇族仕様くらい、だそうよ。ロクコ達が乗ってきた馬車ね」
「やっぱりあの馬車は特別仕様だったのね。まぁ、なんとなく分かってたけど」
「あれは希少素材をふんだんに使い、採算度外視で作られた最高級品。その点、こちらはもう少し安上がりで普及させやすいわね。領主レベルなら使える代物で……車輪が壊れやすいのと、馬の確保が面倒なのが欠点かしら」
車輪は特殊なものを使っており、壊れても揺れがひどくなるのが第一段階、完全にぶっ壊れて走れなくなるのが第二段階、と段階的に壊れるものを使っていた。超高速で走ってる最中に第二段階、つまり本格的にぶっ壊れると、横転からの大事故不可避だからな。
つまりこの特殊な車輪は大事故にならないための保険。……悪路を走破するためのギミックもあるらしく、その値段も高いらしい。
そして肝心の超高速で走れるスレイプニルの確保は結構面倒なようだ。DPで出せばいいのではないだろうか? と思ってDPカタログをチェックする……うわ。高い。俺はそっとカタログを閉じた。
「つまり領主クラスの資金は必要……ってことか。大変だな」
道路を整備しないで、強い馬車と強い馬でどうにかする。ある意味とても魔国らしい。個人の武力を重視している魔国ならではと言っても良い感じだ。
「そういう事ね。今回は爺様が負担を持ってくれてるけれど、私自身ではまだ手が出ない、というのが実情かしら。餌代もかかるのよ、スレイプニル。この速度も半日持続が精々だし」
「まぁ、アイディがまだ自分の力でこの馬車が使えないって言っても……私達もハク姉さまの馬車で来てるもの。同じよ、同じ」
ロクコがふふん、と何故か自慢げに笑った。アイディもニヤリと不敵に笑っている。
……何か通じ合ってるんだろうか、コア同士。
まぁ仲が良くてなによりだ。ハクさんと大魔王のように決闘にならないだけでも安心して見ていられる。
「しかし留学って実は結構頻繁にやってるもんなのかね」
「ん? 如何してそう思うのかしら、ロクコのマスター?」
「お互い慣れてるみたいだったからな。あの手際の良さ……既に何回か行き来してるレベルじゃないか?」
「御明察、ってところかしら。まぁ、私達が別行動なだけで、あの後さっきの場所で色々説明とかもする手筈だったはずよ」
俺達は別行動なのか。色々と特別扱いなんだなぁやっぱりロクコだからか……
「ロクコのマスターは闘技大会に出るんでしょう? その子犬も」
「……あぁ、うん。そうなってるらしい、ね……?」
「はい。出ます」
微妙な返事をする俺に対し、当然とばかりに頷くニク。
そうだった。そういえば、そういう事になってるんだった。闘技大会の賞品になってる神の寝具を手に入れるために。
……神の寝具、欲しいけどどうやって手に入れたものか。……一番効率が良さそうなのは手に入れたヤツと交渉して手に入れるか、手に入れたヤツだけを倒して手に入れるかだろうな。
闘技大会の賞品として手に入れられるなら一番いいんだけど、相手がアイディみたいなニク以上に強い奴らだと勝てる気がしない。というか、アイディが出てきただけで詰む。
うん、まともに賞品として手に入れるルートは既に詰んでる気もする。アイディはこの国の頂点ではないのだから。
「そだ、アイディのマスターはどうしてるのよ」
「ん? ああ、私の領地で会えるわよ。私のマスターも闘技大会には出るから……仲間ね?」
そういえばアイディにはマスターが居るんだった。ウチの留学には来なかったけども。
……どんなやつだったっけ。前に一度顔を見たよな? 全然覚えてないけど。
(平成あと10日切ってるってマ?
あ、そろそろ25日なのでコミカライズ更新するのではなかろうか。
……新元号の前にはもう1回更新しそうだな?
ラノベニュースオンラインアワード2019年3月刊のアンケート投票開始
http://ln-news.com/archives/91348/post-91348/
してて、だんぼる10巻も入ってるのん。よかったら投票してきて……あ、規約で良かった作品の重複は3個までらしいからそれに気を付けて())