留学前
(ちょっと遅れましたがロスタイムです)
妖精の名前も決まったので、メニューから確認してダンジョン管理用のメニュー権限をいくつか付与しておいた。
さすがに可能なモノを全て付与するわけにはいかない。新入りだからな。
あとはレイに任せよう。なんかすごく懐いてるみたいだし、レイに召喚させた俺とロクコの判断は間違いじゃなかったのだろう。うん。
「……あ、そういえばミーシャが派遣されてくるのって明日だっけか? そこら辺の受け入れ準備もしっかりしとかないとな……あ、スイートに泊るのでいいんだっけかな?」
俺達はミーシャが到着するのを見届けてからダンジョンを出発し留学に行くことになる。そういう手筈だ。
尚、対外的には普通に留学なわけだが……そもそも辺境にある村のいち村長が国の代表として留学って色々おかしい。が、村の連中は一切疑問に思っていないようだ。
むしろ、
「お、村長! 新婚旅行の準備は済んだのか?」
「ちょっとまて。留学だ、留学」
「お、教祖様。奥さんと旅行だって? 楽しんでくるのもいいが、無事に帰って来いよ」
「おい。誰が誰の奥さんだって? 殺されるだろ、おい」
「ケーマ殿、これを。不要かもしれんが子宝に恵まれるというお守りだ、使ってくれ」
「ああ、余計なお世話をありがとうシド殿。だが生憎まだ独身でね」
と、何故か結婚式も上げていないのに夫婦扱いされていた。どういうことだ。
「旦那様ー、奥様がお呼びやでー!」
「こらまてイチカお前か!? お前の仕業か!?」
「冗談やてご主人様。最近よう言われとるからからかっただけや」
くっ、一体何故こんなことになったのか。
これ、ミーシャの耳に入ったら、ハクさんの耳にも入るよなぁ……くっ、どうしてこうなった。留学にはロクコだけじゃなくイチカとニクも連れて行くというのに!
「まー、ウチとニク先輩は精々メイド枠みたいな感じやろ? 主役はお二人やし、自然な発想やん。ハク様もしかめっ面で流してくれるんちゃう?」
「だが前に帝都まで行くときはこんなことには……」
「あんときゃワタルらチームバッカスにシキナもおったしなぁ」
それもそうだ。……ん? そういえばシキナって俺達が留学してる間どうするんだろ。アイディ来てた時は普通にニクと一緒にアイディと戦闘訓練とかしてたけど。
「あー、それならまぁ、マイ様の食客的な扱いでツィーア家に厄介になっとくっつっとったで? ロクコ様が手配しとったよ?」
「……なるほど」
すっかり頭から抜けてた。ロクコに感謝だな。
……あれ? 最近なんか俺の方がロクコよりポンコツになってる気がする……気を引き締めないと。なんかこう、だらけすぎててヤバい。
そうだ、この留学では、気を抜いたら死ぬかもしれないというのに俺はなに気を抜いてるんだ? 【超変身】で残機があるからって油断が過ぎるぞ、俺。
よし、ここは気を引き締めていくことにしよう。
と、ロクコの部屋の前までやってきた。えーっと、そういえばなんかイチカが「ノックはいらんで」とか露骨に怪しいこと言ってたな……
「……おーいロクコ、入るぞ」
「えっ、あ、ちょ、ちょっとまって!」
ガチャリと開けかけた扉を閉める。
フフフ、油断してないから助かったぜ。
「……ちょっと、何で入ってこないのよ」
「なんだ、待ってって言ったから待ったのに。入って良かったのか?」
「こう……ダメだけど! ダメだけど入っても良かったのよ?」
「うん、何言ってんだ頭大丈夫か?」
とりあえずしばらく待ってから、改めて入る。ロクコは正面で椅子に座ってこちらを向いていた。
「一体何を企んでたんだ?」
「あー、うー、うん、その、別にケーマには関係あるけど気にしなくていい事よ」
ホント一体何仕掛けてたんだ。と、部屋に転がる漫画がある。……あれ確かラッキースケベとかが良く出てくる漫画。そうか。そういう感じか。
……あ。まさか、夫婦云々の噂を流してるのコイツじゃないよな。ついでにカマかけてみるか。
「ロクコ」
「うん」
「夫婦云々の噂がハクさんの耳に入ると色々ヤバいだろ。何考えてるんだ?」
「……ケーマ、ハク姉さまは優しいからそんなヤバい事にはならないと思うわよ?」
「お前にとってはそうなんだろうけど、俺にとってはそんな優しくないぞ!」
むー、と頬を膨らませるロクコ。ほっぺをつつくとぷふぅと口から空気が漏れた。
うん、夫婦云々を否定しないか。高確率でロクコが噂の発信源だな。
「で、なんで夫婦扱いで旅行って話になってるんだ?」
「その……ハネムーンってのを漫画で見たのよ!」
エロ漫画はカタログに無かったと思ったので、純粋に旅行に行く感じの話のを見たという事か。
「行きたいじゃないハネムーン?」
「結婚してからだろうそういうのは」
「じゃ、ケーマ。結婚して」
「ハクさんが怖いのでちょっと……」
「ほらぁ! だから外堀から埋めてるんじゃないの! 分かる? 私の苦労!」
「ええい、お前が埋めてるのは内堀だ! 俺じゃなくて先にハクさんから許可をもぎ取って来い! そしたら結婚でもなんでもできらぁ!」
「言ったわねケーマ! つまり、ハク姉さまから結婚の許可もらったら結婚ね!?」
んん!? なんかとんでもない事になってないか?
「聞いたわねミーシャ!」
「はいにゃ。ばっちりこの耳で聞きましたよロクコ様」
と、扉の影になって見えなかった所からひょいとミーシャが現れた。猫耳をぴょこぴょこさせつつ。
いつの間に。いや、その、聞いてたって。何を。何で。何のために?
混乱はあるが、俺は、平静を装って挨拶する。
「お、おうミーシャ、もう来てたのか?」
「おひさにゃーん♪ ふふふ、ちょっと早めに来ちゃいました」
にゃん、と手を作って挨拶するミーシャを見て、俺は背中に汗をかいた。
「あ、ところでロクコ様。外堀とか内堀ってなんです?」
「日本語、異世界語の慣用句よミーシャ。説明が難しいけど、なんかこう……基本として堀が二重になってて。で、埋めて防御力を無くす感じ」
「ああ、城壁を崩す、みたいな慣用句なんですねー。勉強になりますロクコ様」
いやまぁ、そんなことよりも……ミーシャに聞かれたってことは、俺の結婚の意思がハクさんに伝わってしまうわけで……あ、でも今のだとロクコがプロポーズしたわけだからギリセーフ?
「一歩前進ね! ふっふっふ、あとはハク姉さまから許可をもぎ取ればケーマと結婚できるわけよ。どうミーシャ、私の華麗な計画は」
「あーはい、いいんじゃないですかねー。がんばっすロクコ様。私はそこ協力できないんで。ケーマさんはさっさと覚悟決めてねとしか?」
……あ。留学中に消されるのかな? 俺。
(だんぼる10巻&コミカライズ版1巻、今月25日発売! もう店頭に並んでるところもあるそうです。というかちらほら報告や感想も聞こえてきてたり。
ネタバレ有り感想書くところは活動報告に置いといたので、そちらへどうぞ。
しかしまさか10巻にして書下ろし率があんなことになるだなんて……正直書き下ろし過ぎた。うん。次の11巻こそは楽なはず……あれ、これ前も、その前も、そのまた前でも言ってたような……?
あ、それとコミカライズの更新も25日だかんね。よろしく!)