留学準備
ミミックマ、もといミミックパンダ召喚の後、改めてダンジョン管理用のモンスターを召喚することにした。
パンダの入った小箱をパカパカ開け閉めするロクコと共に、候補を検討する……やめなさいロクコ、パンダが困ってるでしょ。開け閉めするたびににゅるっと出入りするのが面白いのは分かるけど。
「なんかこう、ダンジョンの運営を淡々とこなしてくれるようなのってないかな」
「今の所レイが適任だけど、レイはレイでオフトン教聖女の仕事があるものね」
「いきなり新人に任せるというのも怖いから、最初はレイの部下ってことで……」
というわけでカタログを見つつ相談する。
「鬼繋がりってことで……『オーガ』って知性あるタイプかなぁ」
「そっちは微妙だけど、こっちの『鬼』の方ならありそうじゃない?」
「『悪魔』も良いかもしれん。これはむしろあるだろ知性。無かったら困る」
「564番コアみたいなのだとそれはそれで困るわよ? あ、でもカスタマイズ項目多いわね」
「『賢者ウサギ』ってどう思う? これミカンの影響だよな絶対……知能は実際どうなのかな」
「ウサギにしては賢者、という可能性も……」
そんなこんなで色々話し合った結果。
「とりあえず『妖精』にするか……」
「そうね……」
ダンジョン運営に大きさは関係ない。むしろ下手にボスモンスター代わりになれない方が前線に出て自爆とかしない。外に出ないから知性だけあれば問題ない。
というわけで、できるだけ安くて頭が良さそうなの、を探したら『妖精』という結論になった。
吸血鬼との関係? えーと、ほら、羽とか? まぁもういいよ別に。うん。
が、今から召喚するというのはやめておく。
「レイの部下だし、レイにDP渡して召喚しといてもらおう」
「その方がレイのいう事聞きそうな気がするわ。なんとなくだけど。……今度は強化に使わないように使い道を指定しないとね」
3体分くらい召喚できるDPを渡して、後はレイに召喚・教育を任せてしまおう。そうしよう。
このあとでレイにDPを渡しておけばいいか……いやその、『妖精』のカスタマイズ項目が『吸血鬼』以上に多くてこれ以上は任せた方が効率良いかなって。
性別に身長に羽の有無、伸縮率とか言う訳の分からない項目もあった。属性とかも色々山盛りだ。
……【クリエイトゴーレム】とか使うだろうから、魔法の才能は欲しいよな、うん。
「まぁ、迷いすぎて召喚できないまま私たちの留学が終わる可能性もあるわね」
「そこは、俺達が留学に行く前に召喚してもらおう。ついでに命名も。メニュー権限の付与もしないといけないし」
「あ、そうか。それもあるのよね。ダンジョン管理用だし」
権限を付与する権限、みたいなのは(少なくとも今の所は)付与できない。つまりこればっかりは俺かロクコがやらないといけない事なのだ。
マスタールームにレイを呼んで諸々を説明した。
「私に、直属の部下ですか……!」
「ああ。ダンジョン管理用のな。『妖精』をレイの采配で召喚してくれ。俺らが留学する前に頼むぞ」
「はっ! 心得ました!」
びしっとレイは敬礼する。ロクコはそんなレイに握手しつつDPを受け渡した。
1体分1万5000DPとして、4万5000DPだ。
「大体3体分渡しておく。『妖精』はカスタマイズ項目多いからな、ダンジョンの運営に向くようにお前の采配で調整しろ」
「責任重大ですね! お任せください!」
レイは凄く嬉しそうだ。
まぁ任せたよ。俺達は留学に向けて他の支度するからな。
*
そして翌日には妖精がダンジョンのマスタールームに飛び交っていた。
赤いの、青いの、緑の、黄色いの……あと他よりでかいの。と、露骨に3匹以上いる……これ10体くらい居ないか? オイ。
「……えぇぇ。なんか多くない?」
「多いわね……」
「マスター! ロクコ様! お待ちしておりました!」
ニッコニコの笑顔を浮かべたレイが俺達を出迎える。
「説明を頼む。俺は3体分と言ったはずだが」
「あ、はい。これは司令塔となる大妖精1体と、さらにその手足となる小妖精という構成です!」
「というと、お値段内訳は、大妖精が1万5000DP、残りを3万DP……3体セットで1万×3ってところか?」
「いえ! なんとこの妖精。元は1匹なのです!」
「ほほう?」
聞くところによると、『分化』というオプションがあり、それで分かれているのだという。
「1匹に戻ってスクロールを使えば実質全員分のスクロールになり、お得なのではないかと思いまして!」
「なるほど。そいつはお得そうなアイディアだ。良く見つけたな、レイ」
「はは! お褒めに与り恐悦至極に存じます!」
レイを褒めると、嬉しそうに目を輝かせた。きっとニクみたく犬の尻尾があったなら今頃ぶんぶん振られているに違いない。
「あ、その際少し、5000DPほど足が出ましたが、そこは私の貯蓄から補填したので大丈夫です!」
「……いや、それレイに給料で払ったヤツだろ。これはダンジョンの経費だから払うよ。ほら」
「いえいえいえ、私が勝手にやったことなので!」
「そこはキッチリしとかないと気持ち悪い。それにスクロールが節約できるならむしろ得だし、受け取っておけ。……ロクコ、やれ」
「はいはーい」
ロクコはレイを羽交い絞めにし、耳をかぷりと噛んで強制的にDPを付与した。
「ひにゃっ!」
「大人しく受け取らないからこうなるのよ? あむあむ」
DPの受け渡しって低周波マッサージみたいな、電気流れる感じがするんだよなぁ……慣れるとどうということないんだが。普段は手で受け渡してるのだが。
「はい、きっちり5000DP流し込んだわよ」
「くっ……ありがとうございます! 私が勝手にしたことなのに……」
「スクロールが節約できるならむしろ得だからな。なんなら褒美をやってもいいぞ。何か欲しい物とかあるか? あまり高いものは困るが、俺に用意できるものなら」
「そんな! い、いいんですか!?」
まぁ1万DPくらいまでなら良いだろう。
「で、では、私にもマスターの抱き枕になるという栄誉を……あ、いや! すみません調子に乗りました! その、マスターの使い古しのジャージなど頂けたらと……!」
「えっ」
「それなら私の方で保管してるから、1着あげるわね」
「えっ」
「はは! ありがたき幸せ!」
「ごめんちょっと待って」
俺はレイとロクコに待ったをかけて止める。
抱き枕が栄誉とかどういう事なの。ニクが自慢げに話してたりするんだろうか……
「もっとも無防備な状態のマスター、その側に仕えられる。これはもはや多大なる信頼が無いとできない仕事ですよね?」
あ、うん。そういうね。信頼を形にしてる感じね。そうね。
で、なんで俺のジャージなんだ。
「マスターの抱かれ枕を作るためですが? 予行演習には必要ですよね?」
あ、うん。なんでさも当然のような顔で。なんかもういいや。
で、ロクコはなんで俺のジャージを保管してたの? 捨てたやつだよね?
「…………黙秘権を行使するわ」
「あ、うん」
黙秘権なんて妙な事覚えやがって。まぁいいか。
「さて。まぁあとはこいつらにメニュー権限等々を持たせてやらないとな。レイ、あとは色々教えて、名前もつけてやれ。お前の部下だからな」
「は、はいっ! お任せください!」
よし、これで楽できるな。
「あ、その、実は名前、仮のものでしたが、先に考えていたのですが! それを付けてもよろしいでしょうか!」
「ん? 仕事が早いな、何て名前だ? 言ってみろ」
「はい! 『エコ・レ・アルファ・ファントム・クイーン・オブ・フェアリー・クリスティア・ファルミナーゼ・トロルキラー・ホブ・ゴブ・メッザルーナ・クインテット・セル・ディビジョン・ネテロ・パルゼッセ・ドリアーノ・ドレアーノ・ポルカ』です!」
「……それは分化した分それぞれの名前か?」
「いえ、1体分ですが」
「うん、却下だ! 長い!」
なんだその寿限無みたいな名前は。
「う……た、確かに自分でもそんな気はしていました」
「……レイ、あなた徹夜したわね?」
「う! す、すみません! オフトン教聖女としてあるまじき行いを……!」
そうかそうか。徹夜しちゃったならそういう事もある。仕方ないよな。
「まったく、ちゃんと睡眠とらないと大変なことになるのはケーマに似たのかしらね」
「……じゃあ、ジャージ欲しがるのはロクコに似たのかな」
「はいやめ! この話終わり!」
自分からふっといて。まぁいいけど。
「レイ、名前が無いとメニュー権限付けられないから、早めに決めてくれよ。……あ、でも最終決定前に教えてくれ。いいな?」
「は、はい」
とりあえず、そういうことで。これで妖精の名前も決まればダンジョンの備えはまぁまぁ万全になるだろう。
いよいよ留学が目前に見えてきたな。
(25日にだんぼる10巻&コミカライズ1巻が出るのです……
そろそろ10巻の特典情報とか出るころじゃないかなぁ。いつも大体1週間前くらいだし……編集さんも、もっと早く情報出してくれればいいのに)