留学準備(脱線)
(ろすたいむなう)
ハクさんは普通に(ロクコの部屋に)一泊したのち、アイディを連れて行くことになった。
「結局、勇者ワタルは来なかったわね」
「残念だったな、いつもなら1ヶ月に1回はくるんだが」
「それだけは心残りだわ」
ちなみに今月ワタルは来なかった。……アイディを避けてるようだと思ったが、ハクさんの差し金らしい。
戦闘狂のアイディはワタルと模擬戦したら普通に満足して帰ってしまうのでは、というのと、ワタルが来ると言っておけばそれまで滞在してるのではないか、という気遣いだったらしいが。その気遣い、俺たちにも教えてくれたらもっと良かったのに。
「でも、闘技大会にはワタルも出るって話だし……あれだな、その時のお楽しみってことにしとけ」
「そうよアイディ。逆にそれまでに手の内が分かってない方が楽しめるんじゃないの、アイディなら」
「……そうね。……大舞台で楽しく踊れる事を祈ってるわ」
とまぁ、そんなわけでアイディは帰るのはそれでいいとして。
「で、ハクさん。俺たちはいつ頃留学するんです?」
「あら、言ってなかったかしら。再来週よ」
ほう。再来週。
「だから来週の終わり頃には帝都に来て頂戴ね」
「分かりました」
半月後となるとまだ余裕があるが、本来ならこの世界で移動にはかなり時間がかかるものなので、ギリギリの連絡とも言える。【転移】とかダンジョンの機能でぴょーんとワープできない限り。
まぁハクさんもそこら辺の事情を色々考慮しての連絡だろう。実際余裕だし。
「あら? ロクコ達は帝都へそんなすぐに行けるの?」
「666番も知ってるでしょう、前にダンジョンバトルして私とロクコちゃんのペアが勝った、あのときのダンジョンを使えるのよ。あれは帝都の近くだからせいぜい1日で来れるわ」
「そう、そんなものも有ったわね。……私達が帰るのには使えないのかしら?」
「それは無理でしょう。ダンジョンの機能を使わないと行けないから」
ハクさんに言われ、「確かにそれは無理ね」と諦めるアイディ。
「早く帰って、私も此処に負けないお出迎えの準備をしないとね。迷うモノがあったら連絡を送るから、ロクコの希望も聞かせなさいな」
「そうね。メッセージの機能を試すいい機会になりそう」
そういえば便利な追加機能が増えてたんだったな。アイディは結局あのあとからずっとゴレーヌ村にいて使う機会なかったが、使い時だろう。
というわけで、アイディとハクさんを見送った。
……再来週にはいくということで、こちらの必要な準備とは何だろう。
「まぁ、DPあれば大体なんとかなるよな」
「そうね。……となると、キヌエの料理とか?」
前に帝都へ向けてワタル達と旅行したのを思い出す。あれみたいな感じで良いだろう。
丁度、俺達のメンバーは同じだし。
しかもワタルも闘技大会に参加するらしい。下手したら一緒に、という可能性も……うーん、ダンジョン関係ってことで分けられるかな?
「というか、神の寝具が賞品になってるんだったな……」
「どうするのよ。盗む?」
「いや、いっそワタルに勝ってもらって、交渉して手に入れるのが良いかもしれん」
「なるほど。……ネルネと交換かしら?」
……まぁ、ネルネと付き合う権利、くらいで良いだろうか。尚、本人の了承を貰えるかは別。本人の意思を尊重する。
ネルネに命じれば、何食わぬ顔してワタルとも付き合うだろうけど。ダンジョンモンスターの思考回路って人間のと結構違いがある気もする……。
「実際、命じれば笑顔で人殺しもするしなぁ」
「丁度いい表現があるわ。――狂信者っていうのだけれど」
オフトン教、いや、ダンジョンコアとダンジョンマスターを信仰する狂信者か。
……ロクコの表現、しっくりきすぎるなぁ。
「そうだ、またダンジョンを空けてくなら、店番ならぬダンジョン番のモンスターでも呼んでおいた方が良いと思わない?」
「ふむ」
一理ある。というか、レイはオフトン教の聖女として忙しいしキヌエさんとシルキーズも宿の仕事が。ネルネは研究に邁進している。指輪サキュバスのネルは対夢魔の護衛だし、あとは魔剣のシエスタやロクコのペット達とネズミと……
あれ。ウチのダンジョンのネームド、碌なモンスターいないな。テンさんこっちに連れてくるべきだろうか。
となると、ダンジョンの管理専用のモンスターが一人くらい欲しいところだが。
「ロクコ、ガチャ回してみるか? いいのが出たらダンジョン番にしよう」
「お、良いわね! じゃあやるわ! ……何DPガチャのにする?」
「うーん、1万かな?」
「ま、そうね。10万DPガチャ回してみたかったけど、それだったらレイ達みたいなの増やせばいいし」
というわけで、念のためコアルームに移動。ここならどんなモンスターが呼び出されても問題ない。
ロクコは早速メニューを開き、1万DPガチャに手を伸ばした。
キュイン! と魔法陣が広がる。いつもの演出。
果たして求めるモンスターは出てくるのか――
――魔法陣から、パンダがにゅいっと出てきた。
「……白黒の熊?」
「……パンダ、だな」
身長1m程の、パンダ。
……これはロクコのペット枠か。まぁ、熊の一種だし多少は戦力になるかもしれないが……なぜパンダがここに……?
「あ、ケーマこれ、ただの熊じゃないわ」
「うん? まぁパンダだけど、なにかあったか?」
ロクコの指差した先――その尻尾には、10cmくらいの小さな宝箱がくっついていた。
「……ミミックね!」
「ちょっとまて」
ミミックってあれだろ、宝箱に擬態して冒険者を襲う奴。なんでそれがパンダというか、宝箱小さすぎというか。なんだこれ。なんだよこれ。
「あ、見てケーマ!」
「……はぁ?」
と、パンダは俺達の目の前で宝箱に入っていった。……10cmくらいの、小さな宝箱に。しゅるんっと吸い込まれるように。そして、残された宝箱がことりと床に落ちた。
……時空魔法でも使ってんのかな。と、片手でつかめるほどの宝箱を拾う。……重さもそれほど感じない。でもそれだけかな。どうしろってんだコレ。
「ダンジョンで使うには異色すぎるな……まぁ、ロクコのペット枠か」
「お、やった。ふふふ、じゃあ今日からあなたは――パックよ!」
パンダ箱、略してパックって感じかな。詰め込むとも掛かってて良いんでないの。どっちも偶然かもしれんが。
こうして、ダンジョンの管理人はさておきロクコのペットが増えた。
……ダンジョンの管理用モンスターは別枠で何か呼ばないとだなぁ。あまり下手な奴に任せられないし……
(書籍化作業とか諸々終わったけど本業の方がいそがしいので水曜更新は微妙なライン。
人形使いと合わせて週2更新ではあるということで……
あ、10巻の試し読みとかができるようになってましたよ。アレってあんなページまで読めるんですねぇ)