真・新たな力?
(今週は確定申告と書籍化作業のためやっぱり週1回更新です)
「此処が噂に名高いオフトン教の本拠地ね」
噂に名高いも何もここに来るまでオフトン教の「オ」の字も知らなかったアイディが堂々とのたまいやがる。
というわけで、アイディはゴレーヌ村への留学という名目でオフトン教教会を訪れていた。
日頃ロクコと特に何もしないかニクと模擬戦をする日々を過ごしているのだが、今日はどういう心境か留学という本分を思い出したようで。
「どうだこの快適な昼寝空間は」
「それで、早速だけどこの教会の闘技場は何処にあるのかしら」
「え?」
「え?」
こてりと首をかしげるアイディ。俺も訳が分からない言葉が聞こえたぞ?
「教会は昼寝をするところじゃないわよ?」
「なんで教会に闘技場が付くんだよ」
「え?」
「え?」
反対側に首をかしげるアイディだが、俺には何となく察しがついた。
「ああ、文化の違いだな」
「……文化の違い、ということは、帝国では教会は寝るところという事なのかしら」
「うん。それはオフトン教だけだな」
というかアイディはオフトン教の何を聞いていたのだろうか。多分ロクコからちょいちょい話を聞いていた程度だと思うが。
「魔国では教会に闘技場が付くのか?」
「当然でしょう。怪我をしてもすぐ回復できるじゃない」
「そういう利点があるのか」
バトルジャンキー国家の魔国ならではの思考だな。あっちに行ったら事あるごとに戦いを要求される未来が見える……なるほど。1歩歩くごとに喧嘩を申し込まれそうな国だ。
国の使者として行くことでちゃんと軽減できることを祈ろう。
「……まさかいつも模擬戦をしていたあの広場が闘技場だった?」
「その発想は無かったよ」
それと、俺達の中で回復魔法が使えるのは、俺とロクコと、ニク、イチカ、モンスター娘の幹部3人の計7名。前にロクコがガチャで出した分のスキルスクロールもあるので【ヒーリング】は覚えた、という感じだな。
あとは教会のシスター長、サキュバスまとめ役のスイラも回復魔法が使えるようだ。というか、他のサキュバス達も擦り傷を治せる程度の回復スキルが使えるらしい。
「こうしてみると、やっぱり教会らしい教会ってことだよなウチのオフトン教も」
「魔国では闘技場が無い教会は考えられないけれど」
「帝国内でという意味でだな。闘技場は……代わりに宿に遊戯室があるから」
闘技と遊戯で言葉が似てる……って、アイディには伝わらんか。あとダンジョン内の闘技場は紹介していないので秘密とする。
言ったら絶対そこに入り浸って戦いを要求してくるに違いないからな。
「遊戯室?」
「ああ。ネズミレース……賭け事ができる。ダイスとかカードゲームのためのテーブルも置いてあるぞ。ロクコと行ったりはしなかったか?」
「まだ行ってないわね。単に賽子や札遊戯がしたければロクコの部屋でもできるし……ネズミレースというのは?」
「何匹かのネズミ……グレイラットを並べて走らせて、どいつが最初にゴールするか賭ける遊びだ」
「なるほど、奴隷競走の鼠版というわけね」
魔国にも似たような賭け事はあるらしい。言葉の内容から奴隷を走らせるようだ。
「それはさておき、後ろの棚に無造作に置かれてるこれは……本、よね?」
「ああ。本だな」
「ロクコの部屋にも散らかってたけど、この村では本が安いのね」
言いながら本棚の本を手に取り、ぱらぱらとめくるアイディ。
「ふむ。良く分からないけど、これが聖典なの?」
「いや。ウチの聖典は門外不出でな、ミサでしか内容を伝えないんだ」
「……よね、これ、どう見ても農業の事しか書いてないもの」
言いつつ、さらに次の本を手に取りパラパラとめくるアイディ。
「速読術でもあるのか?」
「生憎、今は見てるだけよ。あとで見返すわ」
あ、そっか。アイディもダンジョンコアなんだし見た光景を正しく映像として記録できる機能があるんだよな。……ってことは立ち読みでカメラ撮影してるようなもんじゃないか。オイこら。
「ここの本を読むならせめてオフトン教に入信ってけよ」
「生憎私は魔神教なの」
「魔神教? 初めて聞くな」
「白神教の魔国版、といえば分かりやすいんじゃないかしら、その内容も」
……ああ、なるほど。大魔王を頂点とした宗教なわけね。はいはい、お察し。
「だがウチのオフトン教は白神教に入っていてもサブ宗教として信仰していい宗教なんだ。実際、食神教や白神教、鍛冶神やダイス神に信仰を捧げつつもオフトン教になってる奴は居る」
「……サブ宗教? 初めて聞く概念ね。そんなことして神様は怒らないの?」
「ああ。なにせオフトン教に神は居ないからな」
「そういえば、そんな事ロクコが言ってた気がするわ。何を言ってるのか分からなかったから聞き流したけど……オフトン教の神はロクコではないの?」
斬新な解釈だな。なんでロクコがオフトン教の神様になるんだよ。
「……オフトン教で、GPを集めてるものだと思ったのだけど」
「……GP?」
「まさか、GPを知らないでオフトン教なんてものを作ったの?」
まぁ吃驚、といった顔で目を見開くアイディ。
え、何? なんかあるの? GPって?
「GPは神に――父上に捧げる点数よ。爺様曰く、見返りにDPをくれるそうよ?」
「ほほう」
「DPカタログには無い、お願いを聞いてもらう時にも使えるそうね。ハク様はこれで他のダンジョンコアを狩ることを許していただいている、という話もあるわ」
なんと。お父さんポイントすげぇ。つまりゴッドポイントってことかなGP。
……うん、是非ともとっておきたいところだ。何かあった時に捧げて助けてもらいたいかもしれない。信仰を集めればGPが貰えるという事なんだろうか?
と、その時唐突に『ぴろりん♪』と音がして、メニューが勝手に開いた。
「……」
「あら、どうかしたの?」
「ああうん、メッセージがきただけ……ちょっと待って」
それは『父』からの手紙だった。
……『100GPでケーマ君とロクコの仲をハクに公認させてあげるよ』って。何、俺達の話を聞いてたの? 盗み聞き?
早速『盗み聞きは良くないと思います。慰謝料に100GP要求するのでそれを充てるとかできます?』と返事する。――1秒で返事が届いた。
『あはは、教会だったから偶々だよ。お詫びはメニュー内のGPの項目を参照できるようにしておいてあげるということで。あとGPは自分で稼いでね、じゃないと意味がないから』
うん。改めてメニューを見ると、DPを表示している下に「GP:25」という表示が追加されていた。
「あー、うん、GP出たわ」
「あら素敵。私もまだ見れないのに……魔神教の使徒として頑張って稼いでるのだけれど、ある程度溜まるまで見れないそうよ」
使徒、そういうのもあるのか。
そういう事なら、俺は教祖としてオフトン教のGPを稼げていて、その結果がこの25GPというわけなのだろう。
「ま、流石に魔神教の使徒たる私が他の宗教を信仰するわけにもいかないから、これ以上は読まないであげるわ。たとえそれが神の居ないオフトン教でもね」
「そうか……とりあえず、なんか開放された項目をチェックしたいから今日はこのくらいで良いか?」
「良いわよ。何か分かったことがあったら私にも教えて頂戴な」
「……それは約束できないが、オフトン教のことが聞きたかったらシスターにでも聞いてくれ」
「ええ。それじゃ勝手に見て帰るとするわ」
というわけで、アイディをその場に残して俺は村長邸に戻った。
早速GPについてチェックだ。
――と思ったのだが、実際調べてみれば『1GPを10万DPに交換する』という項目の他は、2つの自由入力欄があるくらいだった。
『GPを捧げる:(ポイント自由入力)』
と、
『要望:(自由入力)』
の2つだ。
しかもこれ、別々に分かれている。GPを捧げた後、要望が通るかどうかは『父』の気分次第ということだろう。精一杯貢いで機嫌を取っておいて、その上でお願いしろと。そういうことか。
……これは自由度が高すぎてどうしようもないな、と、俺はそっとメニューを閉じた。
(なんていうか、結局 書下ろし展開+加筆修正=95%↑とかさぁ。
そらWeb更新も週1になるわって。
あ、それとN-Starの『人形使い』の方はちゃっかり更新してます……見て! まだ1部見てない人はそっちも見て!)