閑話・アイディのパン占い
(特に意味のない日常回)
「コロネは良いわね」
「メロンパンも良いわよ」
その日、アイディとロクコは食堂でモグモグとパンを食べていた。最近のゴレーヌ村ではこの2人が揃ってパンを食べているのも珍しくもない光景だ。
ロクコはオーナー、アイディはお客様として認知されている。
ロクコはケーマの良い人として、アイディはこの村最強の戦力ことニクを軽くあしらう実力の持ち主ということでどちらも一目置かれる存在であった。
「……私が思うに、好きなパンには性格が出るのよ」
ぽつりと、チョココロネを齧りつつアイディが呟いた。
「ほほう……続けて」
ロクコはそれを受け、適当に話を転がす。
「例えば、私のコロネ。これは攻撃的な性格ね」
「私のメロンパンは?」
「その盾みたいな表皮。防御的な性格が出てるじゃないの」
「なるほど、一理あるわ」
一理あるというかなんというか、ただ「一理ある」と言いたかっただけなのかもしれないがロクコはそう答えた。
ちなみにロクコの腰の剣は飾りなので、アイディにかかれば紙のような防御力しかないことは既にお互いの共通認識だった。ただし、ロクコの真価はダンジョンバトルにあると視ているアイディはロクコを侮ることはしない。
実際、ロクコには魔国には無い「後方から指示を飛ばす指揮官」の才能が有るとアイディは認識していた。そして、それゆえに手前に防御に足る兵力を配置するだろうということも。……それを考えれば、まぁ、間違いではないだろう。こじ付けに近いが。
「パン診断……いえ、パン占い的な感じかしら? 他のも聞いてみたいわね」
「あらそう? それじゃあ――」
キョロリと食堂を見回すと、ウェイトレスをしているニクが目に入った。ちょい、と手招きして呼び寄せると、ぴょこぴょこ走ってくる。
「ちょっと子犬。貴女は何が好き?」
「……?」
唐突な質問に首をかしげるニク。
「あ、パンの話よ。アイディ、ちゃんと主語を言いなさい」
「む……面倒ね。では改めて問うわ。子犬。貴女は何のパンが好き?」
ロクコの補足及び言い直したアイディの質問に、ニクは何故それを今聞くのだろうかと少しだけ考えつつも、すぐに答えた。
「……ハンバーガー、です」
「ふむ」
「アイディ先生、これはどういう性格ですか?」
「待ちなさいロクコ。今考えてるわ」
と、少しだけ時間を取り、アイディは答えを導く。ハンバーガー、あれは確か肉を挟んだパンだ。ということは――
「……肉食系ね! 犬だし」
「なるほど!」
「案外、飼い慣らされた子犬かと思っていたら、野生の獣かもしれないわ」
「やるわねニク!」
「? はい……?」
ふっ、と鼻で小さく笑い、褒めるアイディ。ニクはなぜ褒められたのか分からず、頷きつつも再び首を傾げた。
「よし、次に往くわよロクコ」
「はーい」
そう言って次の犠牲者――もとい、次の獲物を求めてロクコとアイディは食堂を後にした。
2人はオフトン教教会に来てみた。理由は特にない。
とりあえずここにはシスターのサキュバスなりオフトン教の聖女とされているレイが居るはず――と、聖女の方を見つけた。早速好きなパンを聞いてみる。
「好きなパンですか? 食べ物だったら血なんですが」
早くも例外――好きなパンが特に無いパターン――がやってきた。ちっ、空気の読めない奴め。といってもシスターのサキュバスに聞き直したところでもっとダメな答えしか返ってきそうにない……場所の選択を誤ったか。
「まぁ吸血鬼だものね。どうするのアイディ? この際好きな食べ物でよくない?」
「否。パンに拘るわよロクコ。というわけで捻り出しなさい」
「えぇぇ……あ、じゃあジャムパンですかね。イチゴジャムとか。赤いですし」
「ジャムパン……ふむ」
そしてアイディは答える。
「視得たわ。貴女は愚直ね」
「ぐ、愚直ですか」
「なるほど、的を射てるわ。でもなんでジャムパンだと愚直なの?」
「血と同じ赤だからとかいう単純な理由だからに決まってるでしょう?」
それもうパン関係ないんじゃ、とレイは思ったが言葉を飲み込んだ。主のお客様なので。
とりあえず笑顔でやり過ごすレイだったが、十分満足したのか次の獲物を探しに二人は教会を出て行った。
*
「好きなパンですか? ウグイス餡のアンパンでしょうか」
次の回答は存外まともだった。質問先は宿で洗濯物を干していたシルキーズの一人だ。
もっともどれも見た目がほぼ同じなので見分けがつかないが。多分ハンナだろう。
「まさか緑だから?」
「いえ、キヌエ姉さまの色だからです」
理由を聞いてみたらそんな回答が返ってきた。
ちなみにシルキーズはキヌエのことを姉と呼んだりメイド長と呼んだり隊長と呼んだり、気分次第で呼び方が変わる。今回は姉という気分だったようだ。
「やっぱり緑だからじゃないの」
「単に緑だからというのとキヌエ姉さまの色だからというのでは天と地ほどの差があると思います。ロクコ様も『黒いから』というのと『ケーマ様の色だから』というのとだと違いませんか?」
「一理ある。OK、言い分を認めましょう。で、アイディ。判定は?」
ハンナの主張を認め、アイディにバトンを渡すロクコ。果たして回答は――
「私、ウグイス餡のアンパンというのを食べてないのだけど」
「あらそう? ……これよ」
アイディが食べたことのないパンであった。ロクコがDPで出してアイディに渡す。割ってみれば、確かにアンパンのように餡が入っており、その色は緑であった。
……一口食べてみるが、良く分からなかった。
「ふむ。……まぁ、独特の拘りが有るという事で良いのではないかしら?」
「なんか適当ですね?」
「いいのよそれで。本業じゃないんだし」
ロクコも半ば投げやりだった。そろそろこの遊びに飽きてきたのかもしれない。
ついでに再び食堂に戻ってキヌエにも聞いてみる。ハンナを連れて。
「え? 私の好きなパンですか……ワッフルですね」
「当のキヌエはこんなこと言ってるわよ」
「ま、まぁキヌエ姉さまの色がそれで変わるわけじゃないですし」
それもそうね、とロクコはキヌエに何故ワッフルなのかを聞いてみる。ワッフルはアイディも食べたことがあった。柵みたいな格子のヤツである。
「で、なんでワッフルなの?」
「凸凹が多くて掃除しがいがありそうじゃないですか」
「独特の拘りが有るということで」
「さっきもそれだったわよ?」
「占いなんて所詮いい加減なものよ。寧ろいい加減だからこそ占いは成立するのだから」
「一理あるという事にしときましょうか」
というわけで、そろそろこの遊びにも飽きてきたので切り上げることに――
「なーロクコ様。アイディ様。パン占い、ウチは? ウチ、カレーパン好きなんやけど!」
と、どこで聞きつけたのか非番だったはずのイチカが顔を出してきた。
「あらイチカ。もう終わった所なんだけど」
「えー!」
「仕方ないわね……視てあげる。で、カレーパンというのは?」
「これよ。食べたことなかったっけ?」
ハンナの時と同じくカレーパンを出し、アイディに渡すロクコ。
「……これは辛いわね?」
「そうね、カレーだもの」
「じゃあ……カレー好きね」
「雑ぅ!」
こうして、なんか飽きたのでアイディのパン占いはしめやかに終わった。
(ちなみに私はコッペパンのつぶあんマーガリンとか好きです。故に小倉トーストとかも好き
あ、別作品、人形使いも土曜水曜の12時に更新されてますのでヨロシク)