ゴレーヌ村見学
(硬さでいったらこの世界にも保存食用の固焼きパンがあります。
回転が収束してるのが良い感じのようです。……クロワッサン? あれは飛び道具っぽいからアイディの趣味じゃないようです。
あとすまん、ロスタイムな上に今回短いんだ。「年末の予定が乱れる!」状態)
というわけで翌日、俺はアイディに村を案内することになった。ロクコはハクさんがいる間はそっちの接待を優先させるため、必然的に俺がアイディの相手をすることになる。
「昨日は楽しかったわ。やはりロクコは私の仇敵として相応しいわね」
「そうか。ちなみに宿泊料についてはどうだ? ちゃんと金貨50枚払っても良いと思えたか」
「コロネもよかったけど……あの、ベッドが素晴らしいわね……」
そしてアイディはあっさりと陥落していた。
それはチョココロネだけではない。スイートルームの寝具についてもだった。
「沈み込むような……包み込まれるような? 火耐性があればもっと良いのだけれど」
「さすがに火耐性は無いな……焼いてないよな?」
「そんな素人みたいな無作法はしないわ」
なんの素人だよ。まぁ燃やしてないならいいけど。
「あれの耐火版とか無いの? 錬金術で耐性を付与させればできるんじゃないかしら」
「付与? 錬金術、ってそんなことできるのか?」
「……錬金術の基本よね?」
錬金術にそういうのもあるのか。魔道具作るだけだと思って……いや、燃えない布とかも魔道具かな?
「物体の境界を曖昧にして特性のみを移す……というのがあるのだけど、ラヴェリオ帝国では一般的ではないのかしら」
「へぇ、そんなのがあるのか。俺が知ってるのはなんか魔法陣を描くってくらいだけど」
「……帝国の錬金術は進んでいるのか遅れているのかわからないわね。勇者工房とかいうところが技術を独占しているのかしら」
あそこの製品を見せてもらったけど、あれは凄かったわ。とアイディは俺の前を歩きつつ言う。
勇者工房というのは確か、材料からA4用紙を1枚ずつ生産できるような魔道具や、無限に使える万年筆、コンロ不要の鍋とかも作っているところだ。帝都で見た。
そういやレオナも【超錬金】とかいうスキルがあったっけ。あれも関係あるんだろうか……あるいは、勇者工房がレオナの工房である可能性も……
やめよう。ここで考えても仕方ない。ハクさんに聞いたら分かるかもしれないけど、聞いたら知らなくていい事まで教えてくれそうな気がする。コワイ。
「とりあえず村を案内してやろう。どこが見たいかリクエストはあるか? 無いなら教会に行くけど」
「鍜冶場はあるかしら?」
魔剣なだけに、鍛冶が気になるようだ。「あるぞ、こっちだ」と答えて村の外れにあるカンタラの鍛冶場に案内する。
鍛冶場につくと、ウチの村の鍛冶師カンタラが小さな銅板にガリガリと魔法陣を刻み付けているところだった。集中しているようで入っても気付いていないようだ。
「おーい、カンタラ。カンタラ!」
「…………ん? おお、ケーマ殿いらっしゃい! あれ、そっちの人は?」
俺が声をかけてようやく反応したカンタラは、アイディを見てにこりと笑った。ドワーフらしい髭面の笑顔に対し、アイディは愛想笑いを浮かべる。
「ウチの村に留学してきたお嬢様だ。鍛冶場を見学したいんだと」
「アイディよ。魔国から来たの、初めまして」
「カンタラです。あー、ケーマ殿が良いって言うんなら鍛冶場の見学は問題ない。で、その、魔国? 本当に?」
魔国と聞いて、カンタラはなんかモジモジと尋ねる。魔国ってのはやっぱり珍しいのだろうな。
「どうしたカンタラ。トイレか? 集中してたのが切れたとたん尿意に気付く、あるあるだよな」
「いや、魔国っていったら魔道具とかの研究が進んでる国だろ? なんかこう、こっちも色々教えてくれないかなって思って。えーっと、どうだいアイディさん?」
「成程。研鑽を積む為に成り振りを構わない姿勢、好ましいわ。良いでしょう、私が気付く程度の事で良いのなら助言してあげる」
「本当か! そりゃありがたい! ちょっとケーマ殿、お嬢さんを借りるぞ」
「おう。どうぞどうぞ」
アイディが良いというのなら俺が断る必要もない。むしろ村の鍛冶屋の技術が上がるならありがたい。……俺は宿に帰って寝とこうか、というわけにもいかないのでのんびり待つとしよう。
「ここではこの魔法陣を使ったりしてるんだ。錬金術の師匠に教えてもらったヤツだ」
「ふむ。……口伝で伝わってるのね。魔国では教本があったりするけど」
「教本。どうにか取り寄せられないか……」
「村長経由なら可能よ」
ちらっと俺を見るカンタラ。アイディさんどういう事で……ああ、交換留学であっち行くんだっけ俺。お土産に買ってくればいいってことね。はい。ネルネの分も買ってやろうかな。
「分かった、今度行く予定があるからそん時に買って来てやる」
「さすがケーマ殿、頼りになる!」
「良かったわね……あら? 粗末なだけかと思ったら、この炉、もしかして不死鳥の卵が入ってる?」
「お! 分かるかお嬢さん! そうなんだ、こいつにはケーマ殿から貰った不死鳥の卵を混ぜてあって、炉としちゃ最高級なんだ!」
「へぇ、村長が。……私も欲しいわね?」
ちらっと俺を見るアイディ。在庫はたっぷりあるしタダでくれてやってもいいんだが……ハクさん曰く搾り取れだからな。お金はもらっとこう。でも魔国での買い物の時イチャモンつけられないように適正価格で。
「金はちゃんと払ってもらうぞ、適正価格で」
「あら、倍にしなくていいの? ……貸しにしといて頂戴」
はいはい、ハクさんに言っときますねーっと。
こうしてアイディ第一希望の鍛冶屋見学をじっくりたっぷりやって、この日は終わった。
写し身? とかいうアイディ本体に限りなく近い剣状態の整備を依頼したくらいだし、カンタラとかなり仲良くなった、のかな? 仲良くなったんだろうな。
(良いお年を)