かしましい。
部屋の片づけが済んだのか、ロクコが戻ってきた。
「お帰り、早かったな」
「私にかかればこんなもんよ」
マスタールームに全部ひっこめただけとか言わないよな?
「ああそうだロクコ。少し良いかしら?」
「ん?」
見ると、アイディがロクコに手を差し出し握手を求めていた。ロクコはそれをなんとなしに握り返す。DP交換のような光景だ。
ぱりっと静電気が走るような音がしてロクコがビクンッと震える。
「な、な、なにこれ? DPとはまた違う感じのが」
「……通信機能の複製と接続番号の交換をしたから、これからはいつでも連絡できるわよ」
「通信機能? あ、そっか。これこの前のダンジョンバトルでアイディが父様にお願いしたやつ? なになに、メニューで確認すればいいの?」
「ええ。そのはずよ」
俺も見ると、メニューに『通信』の項目が増えていた。
ちゃんと俺の方にも反映されてる、というかメニュー機能はダンジョン単位だもんな。
「まだ正式版じゃないから、直接会って機能をコピーしないといけないのですって」
「ふぅん、面倒ね」
「正式に出来上がったら、皆に配布するらしいけど……早くて次の集会だそうよ。今のところは私だけが複製権利を持ってるから、特別感があるわね」
ベータテストとかプレオープンみたいな感じか。そしてコピーガード付き。
「ちなみに最初に交換するのはロクコと決めていたから、まだハク様や爺様にも渡してないわ」
「あら、じゃあロクコちゃんに渡したし次は私に貰えるのかしら?」
「ハク様は何を言ってるのかしら? 次は爺様に決まってるじゃない」
「……あらそう」
残念そうなハクさんだが、別に俺達とハクさんの間には『白の砂浜』のホットラインがあるから別段要らなくもある。電話と手紙くらいの差はあるだろうけど。
「でもアクセスコードなんて必要なの? コアの番号だけで十分じゃない?」
「コア番号だけだと悪戯でメッセージを送りつけたりすることも考えられるし、コアとマスター、それぞれのメニュー機能を使えるマスターやモンスターにも分けたりとかいうのも検討してる……らしいわ? まぁ、よく理解らなかったけど」
アイディが自身のメニュー画面を見せると、そこにはパソコンのメール機能のような画面があった。そして、父からのメッセージが届いている。
絵文字や拒否機能とかも検討中だとか。……やっぱりメールっぽいな。
「なるほど」
「ちなみに機能についてロクコのマスターにも相談したいってあったから、ロクコも父様から連絡いただけるかもね?」
「おおお……なんかすごいわね。どういう仕組みなのかしら」
「知らないわ。とりあえず1通50DPで送れるみたいね」
「あ、DPかかるんだ。というか60メロンパン。高級版なら10個か……結構かかるわね。いや、手紙送ると考えたら安いかしら?」
「距離を無視して一瞬で、かつ確実に届く、となれば破格じゃないかしら。通信経由でDPを譲渡したりもできるように、とも考えているみたい」
通信機能でDPのやりとり……する意味はあるんだろうか? 他のコアに何か依頼するとか? ……ん、なんかDP送りつけられて依頼される未来が見えたような。気のせいだな。
……と、早速『父』からメッセージがきた。
何々、『見た目とかケーマ君の世界にあるメールってのを参考にしてみたんだけど、意見を聞かせて欲しい』とな? 『報酬は貰いますよ』と返信しておこう。
速攻で返事返ってきた。『いいよ! ところで僕があげた目覚まし時計ちゃんと使ってる?』……うん、使ってるよ? 使ってるに決まってるじゃないですかやだなー……え? 目覚まし機能? ナニソレシラナイ。
「ところでメロンパンって何かしら? パンなの? それとも果物?」
「ええっと。菓子パンのひとつよ!」
「菓子パン?」
「おいしいパンなの。実物を見せた方が早いわね……あれ? 前に食べさせたことなかったっけ?」
「剣や武器以外の事ってどうにも記憶し辛いわよね?」
ロクコが慣れた手つきで『各種パン詰め合わせ(5DP)』を交換。6個入りでコスパが良いからとだいぶお世話になったヤツだ。中身も選べる。
ロクコの指定した中身はメロンパンを含むバラエティーパックだった。アンパン、ハンバーガー、カレーパン、チョココロネ……そしてメロンパン2個。自分の分とアイディへの布教用か。
早速アイディもパンに興味を示す。
「これ、妙な包みね。中身が菓子パンかしら?」
「あ、縦に破くと破きやすいわよ。これがあると湿気にくいから便利なの」
「水気を弾くの? なら剣を包むのにもいいかしら……どうやって作るものなの?」
「さあ?」
それと前まではロクコが出した場合ビニール包装は無く剥き出しだったのだが、いつの間にかつくようになっていた。何だろう、理解度が上がったとかビニールがあるのが自然であると認識したからとか? 実際ゴミは増えるのだがダンジョンが吸収すれば消えるので問題ない。
……ゴミのビニールを吸収しまくったから体が覚えた、というのも考えられるな。
「総菜パンってのもあるのよ。こっちのハンバーガーとかカレーパンとか。ま、私は断然メロンパンだけどね!」
「なるほど……あら、このグルグルして尖っているのが良いわね」
「あ、それはチョココロネよ。見た目が面白いでしょ!」
「ええ、この中では一番強そうだわ」
「パンに強そうって感想持つ人初めて見たわ」
俺的にはフランスパンがパン界では攻撃力最強な気がする。知名度・硬度・量の3点からして。
「まぁいいわ……ああ、ハク姉さまもよかったらどうぞ」
「あら。それじゃあロクコちゃんとお揃いのを頂こうかしら」
「あ。……まぁいいか、アイディも食べたかったらまた出してあげるわ。ケーマも食べて良いわよ?」
「俺はさっきオニギリ食ったしいいわ」
「そう? まぁあんまり食べると寝る時気持ち悪くなるものね」
ロクコがメロンパンの包装をぴりっと開けると、アイディとハクさんもそれに続いて開ける。
「メロンパン、メロンクリームソーダに似たニオイがしますね」
「メロン繋がりだからだと思いますよ?」
……くんくん、とメロンパンの匂いを嗅ぐハクさん、ちょっと可愛い。
「それがロクコのメロンパン。ふむ、チョココロネが槍ならそちらは盾かしら。丸盾に似てるわ」
「メロンパンを盾に例える人も初めて見たわ。……クロワッサンとかも気に入りそうね。あとで出してあげる」
「楽しみだわ」
と、アイディがチョココロネを片手に持ち、くるくるひっくり返したりしている。
「……ところでこれどっちから食べればいいのかしら? 頭? 足?」
「チョココロネに頭とか足ってあるもんなのかしら。好きに食べれば良いんじゃないの、パンなんだし」
「考えるな、感じろ……ということかしら?」
「いいんじゃないそれで」
コロネ、どっちが頭でどっちが足なんだろうか。
「……ふふ、この回転がいいわね。螺旋と収束……ふむ。素晴らしい形……」
「メロンパンだってこの模様が良い感じでしょう? ねぇ姉さま」
「あ、これは好物で張り合う流れかしら。なら私もメロンクリームソーダで対抗するので出してくださいケーマさん」
アッハイ。俺はハクさんから代金を貰い、メロンクリームソーダをいくつか出した。【収納】に入れておけば時間が止まるのでぬるくなったりもしないだろう。ハクさんもそれを分かっているので、1個を残して【収納】に納める。
「パンではありませんが、この静と動を併せ持つメロンクリームソーダは素晴らしいですよ?」
「サクッとしたクッキー生地とふんわりした中身、ほど良い甘さのメロンパン! この、なんていうかヌクモリティよね?」
「やれやれ、この中でも最も強いのはチョココロネに違いないわ。ロクコ、もっと出してもらえるかしら? 沢山持って帰りたいのだけど」
仲良さそうでなによりだ。うん。
「ではまぁ、ごゆっくり?」
やいのやいの。女3人寄れば姦しい。それを証明するような光景を後に、俺は自分の部屋に寝に戻った。
(はい、書籍化作業期間です。というか既に入ってたのに気づいてなかった! どうりで水曜更新できないわけだ……というわけで恒例の週1更新になります。ご了承ください。
尚、10巻は文章たっぷりあるから作るの楽だし書下ろし率も少なくていいだろーとか思っていたらとんでもない罠が待ち構えていたのである――え? 今回もやっぱり書下ろし率UPUPですか?)