答え合わせとご褒美と。
(正解者多数により(特に告知もなく)あの書籍版限定だった大人気キャラがついに登場!)
翌日。ロクコ2回目の回答。
「ケーマ、『冒険者は実はアンデッドで、最初から死んでたから無事で済んだ』っていうのはどうかしら」
「……と、扉は開かないな」
「それはつまり最初にケーマが想定していた答えとは違う、ということかしら? 念のため最初に想定していた答えに対して正解か不正解で答えてくれるかしら」
「……」
俺は回答に詰まった。なぜならロクコの手には嘘発見器の魔道具があったからだ。
そしてロクコの回答はまさに俺が最初に想定していた答えである。
ついでに言うとロクコの質問も地味に嘘や誤魔化しを封じている。聞かなかったことにしない限り誤魔化せない。
うん、詰んだ。
「……正解だ」
「やたっ、私の勝ちね!」
くそう、まさか嘘発見器持ち出してくるとは。
これが無かったら『トラップにかかっても即死ではなく時間差で死亡するからその間に入手した』とか『一度死んだけど復活した』とか『囮や道具を使って罠をあらかじめ発動させて回避した』とか、最悪『罠にかかったが死体が宝の元まで吹っ飛び、偶然手の中に宝が収まった』なんてのも用意したのが使えたのに!
あと叙述トリックで「『凶悪なトラップ』と『越えないとお宝がとれないトラップ』は別物です」なんてのも……
あ、でもロクコの最初の回答『命と引き換えにお宝を手に入れた』が「いいえ」ってのがあるから使える内容は絞られるか? 囮の命と引き換えに、とかもこれに影響を受けるし……
「そこまで俺を信用していないだなんて……パートナーとして悲しいぞ!」
「信用してるわよ、ケーマならこれがないと延々と答えをはぐらかしていくだろうって」
「くそ、良く分かってるじゃないか!」
「なにせパートナーだもの」
ふふん、と鼻高々に自慢げなロクコ。よくもまぁ数ある回答の中で俺が最初に想定してたやつを言い当てられたもんだ。……思考パターンを読まれてるのだろうか。ダンジョンのコアとマスターの絆的システムでも隠されてたり? 単にロクコの俺観察の結果か?
「それにしても、扉が開くか開かないかで回答内容を『はい』『いいえ』の判定するのは止めた方がいいわね。これ今のままだと『冒険者は無事に宝を持ち帰った?』って質問したら、答えが『はい』だから扉開いちゃったりしない?」
あ、確かにそうなってたかも。危ない危ない、改善しとかなきゃ。
ノーヒントで正解出るまで回答しなきゃ扉が開かないようにしたら、いくら時間稼ぎが目的でも流石にダンジョン側の『突破不可』判定くらって機能不全起こしそうだから、ヒント装置も併せて設置だな。
…………この判定ってあの『父』がいちいち判定してたりするんだろうかね? それともゴーレム探して破壊してスイッチ押せば突破可能ってことで引っかからなかったりするかも? うーん不可思議でファンタジー。ま、深く考えるだけ無駄か。
「そんじゃ、回答権と引き換えに『質問に対し「はい」か「いいえ」か「無関係」で答えてくれる装置』を置いとこう。少なくとも質問を1回するたびに1日時間が稼げるし」
「そうね。それでいいと思うわ」
さーて、それじゃ俺は早速その装置を作って取りつける仕事をしてこなきゃな。ああ面倒だ眠い眠い……
と、珍しく仕事に向かおうとしている俺の肩をロクコががしっと掴んだ。
「まってケーマ。ご褒美については忘れてないでしょうね?」
「くっ……覚えてやがったかチクショウ」
「むしろ忘れるわけないでしょうが。……そうね、例の指輪サキュバスをケーマに憑依させた状態で一晩私の抱き枕になってもらうなんてどうかしら」
おいなんだその拷問は。殺す気か。それともハクさんに殺させる気か。
「……男の娘になるやつだろうがそれ」
「でもコストもかからないし余裕で実行可能な範囲でしょ? 何の問題もないじゃない」
「俺が嫌がることもしないって言ってなかった?」
「見るのは私だけだし、本気で嫌ならサキュバスの憑依だけでいいわよ?」
そっちが嫌なんだけどなぁ……
「あと『あまり嫌がる事もしない』と言ったのよ、私は。痛い事するわけでもないし、ちょっと恥ずかしいだけで何の問題もないことでしょ?」
「ぐぬぬ……まぁ、少し女装するようなもんか……わかった、じゃあ後でな」
そうだ、たとえ抱き枕をしたとしても、そういえばハグの許可は出てるんだからそのちょっとだけ長い版と考えれば問題ないはずだ。ロクコだってその辺ちゃんと分かってる、はず、に違いない、だろう、と思いたい、んだけど、どうなんですかね。
とにもかくにもその日の晩。俺は指輪サキュバスのネルを手に着けて、ロクコの部屋へ呼び出された。まぁ気合入れて乗り切るしかない。
部屋に入ると、興奮気味で鼻息の荒いロクコが俺を出迎えてくれた。
「待ってたわよケーマ! ささ、早速見せてもらいましょうかサキュバスのケーマを!」
「よしちょっと待とうか。見ての通り一応準備はしてきたが、ロクコ。お前の準備はできてるのか?」
「……私の準備? 何か要るっけ?」
こてん、と首を傾げるロクコ。
「前ダンジョンバトルの時にもらった強心のブレスレット。あれつけとけ」
「なんで?」
「ほら、俺がサキュバスになったら魅了効果がヤバいらしいじゃないか。ネルもそう言ってただろ」
「むしろケーマに魅了されるなら本望なんだけど?」
そう言いつつ期待を抑えきれない様子で服のすそを引っ張り布団に誘うロクコ。抱き枕もしなきゃダメですかそうですか。
「……ニクがサキュバス化した時に周りが見えず突っ込んでったのを忘れたか。しかもニク自体も俺の姿に見えてたんだろ? つまり、サキュバス化した俺の本当の姿を見れなくなるぞ。いいのか?」
「……それは悩ましい。分かったわ、ブレスレットは着けておきましょ」
俺はホッと息を吐いた。『父』の作った超強力な精神耐性ブレスレットであれば、問題なくサキュバスの魅了を防げるだろう。これが無かったら俺がロクコにひん剥かれて襲われて、ハグの延長と言い張れない事態になって結果的にハクさんに殺されるところだった。
ロクコが腕に銀色のブレスレットを着けたのをしっかり確認し、俺は覚悟を決めてサキュバスを憑依させる。
「ネル、許可する。俺に憑依しろ」
『了解っす!』
指輪から体の芯に向かって熱が撃ち込まれた感覚。体内にある壁に門を作るイメージで抵抗せずに通すと、ドクンと心臓が鳴り、一瞬で視点が低くなり、ロクコと目が合った。
これは【超変身】でロクコに変身した時に似ていた。どうやらサキュバス化した男の娘な俺は普段の俺より小柄らしいな。
体内の熱から全身を巡るように力が流れている。これが、憑依か。
『ふあぁぁ……やべぇコレ。やべぇよコレ……今なら国も獲れる……ッ あ、嘘っす、私の意思じゃ指一本動かせねぇっす。でもこの万能感、気持ちいいぃぃ!』
「おおぉぉ……これがサキュバスケーマ……!」
ネルはなにやらトリップしていた。ロクコはくわっと目を見開いて何とも言えない顔で俺を見ていた。
……とりあえず胸を見てみる。少しぷにっと柔らかい気もするが、無い。股間に手を当ててみる。……ある、穴が増えたりもしていないようだ。身長は変わったけど性別はちゃんとそのままみたいだな、一安心。
「……あー、どうだ? 自分じゃ外形とかよくわからないけど……って声も高いな」
「凄く可愛い。うわー色々着せたい……あ、鏡見る?」
「おう」
と、ロクコが手鏡を取り出したのを受け取る。
服は……白いワンピースかな? サキュバスにしては布面積が多い。丈は短いけど。あと黒ニーソにブーツ。そして、ぷにぷにで細い二の腕まである白い長手袋。ストレートの黒髪。
そして、サキュバスの赤い目――
*
――朝だ。
おかしい、記憶が飛んでいる。酒を飲んだわけでもないのにどういうことだ。
いつの間にか知らんが、サキュバス化は解けていて、『神の掛布団』と『神の毛布』に包まれていて、ついでにロクコに抱き枕されていた。おう。本当に何があった。
鏡の中の美少女……いや美少年? 自分の変身した姿と目が合ったところまでは覚えてるんだが。
指輪サキュバスのネルに尋ねてみたが、『何もありませんでしたよ、何も無かったから記憶も無い、それでいいじゃないですか』とのことだった。
ロクコも「あ、うん」と言っていた。
「……いやまて、本当に何があった? 正直に話しなさい」
「…………」
「ロクコ」
「…………ひ、ひみつ」
秘密なら仕方ないなー……と思いつつ、顔を赤らめるロクコになんかこれ以上聞かない方がいい気がしたので、俺はこの件について全力で見なかったことにすることに決めた。
ついでに俺のサキュバス化も封印だ。二度とやらないことにしよう、そうしよう。
(というわけで、感想欄でも正解者は結構いました、おめでとうございます。
あ、サキュバス化ケーマことサキュマちゃんは封印ですよ。当然でしょ。書籍版での大活躍()っぷりを見てみろ、暴走するわこんなん。
それと、誤字報告機能とか超便利な機能が追加されましたね。
あと編集ページ開くのに10分かかってたのがすぐ開くようになったので修正作業も非常に楽になりました。やったね!
あと『人形使い』の書き溜め行うので水曜更新率が50%になる可能性大です)