対レオナ対策のダンジョン強化
(だんぼる9巻、好評発売中!)
ドラーグ村は今後いい関係を築いていくとして、今は対レオナ&リンを想定してダンジョンを強化しよう。
「というわけで、何か凶悪なギミックを追加しておこうと思う」
「確かにあのレオナが近くにいるって言うならもっと強力な仕掛けが必要よね……ケーマ、なにか案はあるの?」
「そうだなぁ……」
そりゃあ無いわけでもないが、無いわけでもないんだが、それがレオナとリンに通じるかどうかと言われたら怪しいところがある。
なんかこう、レオナ相手に武力ごり押しは効かないだろう。あいつは勇者スキルを多数揃えたチートキャラだ。何かよく分からない勇者スキルであらゆる罠を無効にしてくる気がする。
さらにそこにリンのサポート。日本人になぜかある「最弱種族であるスライムを育てたら最強になる」という某ゲームの影響のアレを実際にやったかのような、黒スライム。(実際この世界ではスライムは強い種族で、ゼリーというのが最弱なのだが)
……仮にリンがレオナの魔改造を受けてるものとしたら、その性能は俺が考える想像よりもさらに一回り斜め上を想定するべきだろうか。
そんな相手に、果たしてどういう罠が効くものだろうか。
「……うーん」
「やっぱりケーマでもレオナ対策は一筋縄じゃいかない感じ?」
「そりゃな。しかもリンまで一緒だからな」
うん、やっぱり何か攻撃を仕掛けても効かない気がする。
ここは精神的に攻めるトラップを作るしかない。
以前レオナが来たときはバラエティ番組のようなセットを作って思いっきり遊ばせ、満足してもらったところで遠いところに追い出した。また同じ手で上手く行くだろうか。全く同じ内容だと二番煎じと鼻で笑われてしまうに違いない。新しいネタをつくらねば……
「ここは謎解きで足止めする方向でいくか……ルールを横紙破りするようなことはしないだろ、レオナ」
「……まぁ、ルールは守るみたいよね、レオナ」
前回の教訓というか実績から、その点については信用しても良いだろうとは思う。
……俺だけがそう思ってるんだったら洗脳されてるかが怪しいところだけどロクコもそう言うなら大丈夫だろう。
「というわけで、謎かけ部屋を強化することにした」
「ほほう。どんな?」
「問題文を用意した」
俺は用意した問題文を読み上げる。
「『回答が不正解の場合、24時間後に再チャレンジ可能です。ダンジョンで、凶悪なトラップがありました。そのトラップにかかると確実に死亡します。トラップを越えないとお宝をとることができません。しかしある冒険者は、トラップにかかりつつもトラップを越えてお宝を入手できました。さて、冒険者はどうやってトラップを越え、お宝を手に入れたでしょうか?』」
ロクコはくてりと首を傾げた。
「……? トラップにかかると確実に死ぬのよね?」
「そうだな。死ぬな」
「じゃあ、命と引き換えにお宝を手に入れたとか?」
「はい、これで1日時間が稼げる」
「……つまり命と引き換えではなかったということね」
「そう言う感じだ」
「扉が開けば正しくて、そうでなければ間違いってことね。なるほど」
と、これは答えを知っていれば一発で通れるようになってしまう1回こっきりの使い切り問題だが、このように回答に時間のかかるギミックを複数用意したりする。それでひたすら時間を稼ぐわけだ。クールタイムについては『強欲の宿屋』の時に作った長時間用砂時計を用意して、回答されたら自動でひっくり返すようにすればいいだろう。
そして、さらにオマケを用意した。
「そもそもこれを部屋の前に貼っておく」
「……日本語ね。『工事中』――って、ケーマ、これは?」
「工事中なら入ってこない。なぜなら工事中だからだ」
「ふむ。そういうものなの?」
そして『日本語』であることが重要なのだ。これを書いて貼っていても通常の冒険者はこれを無視して入るだろうが、日本語の分かるレオナならどうしても気になる内容だろう。あるいは、中のギミックや謎かけが未完成である可能性を考慮するかもしれない。
唯一の心配はレオナ以外でワタルも『日本語』が読めるので、仮に来たら何かしらの反応があるかもしれないという点だが……まぁいい。今はレオナ対策の方が重要だ。ワタルならきっと常識的な反応をしてくれるだろう。
……そもそもワタルとレオナって会ったらどうなるんだろうな? 一応ワタルも日本人だしネタも通じる相手だとは思うけど……ダンジョンと勇者、という立場にこだわるレオナだしなぁ。けど予想しても無駄か。実はもう顔見知りという可能性もあるし。
「問題文は他にも作っておこう」
「ところでケーマ? さっきの問題の答えって何よ?」
「正解できたらご褒美をやろう。クリームメロンパンとか」
「ご褒美……他のがいいなー?」
ロクコがメロンパンにつられない、だと……!?
「分かった。じゃあゴブリンで」
「うーん、ケーマってば根本的に間違ってるわね。……そもそも私が自由に使えるDPがある時点でメロンパンやゴブリンは出し放題じゃないかしら?」
「! ……そ、そういえばそうだった」
なんてこった。ロクコは既にメロンパンとゴブリンではなびかない女に成長していたのか! ……いやまぁ薄々は気付いてたけど。
「というわけだから、ご褒美はケーマに何かしてもらうようなことを頼むわね」
「ま、答えられたらな」
ちなみに1回こっきりの問題だが、同じ問題文で違う答えにするというのが可能というのがこの出題形式の特徴だ。それを利用すれば答えを差し替えることにより1日は確実に時間を稼げる。この手の問題では反則に近い処置だけど、ゴーレムで操作してるからこっそりズルすることも可能だ。
「言質取ったからね?」
「……俺ができる範囲にしてくれよ?」
「分かってるわよ。ケーマができる範囲で、あまり嫌がることもしないわよ」
若干不安だが、ロクコの良識に任せるとしよう。
「で、他にレオナ対策はあるの?」
「……検討中だ」
……うん、とりあえずこれだけでなんとかなるだろうかと言われると甚だ不安だが、他にいい案も思いつかない。むしろリン相手の対策がさっぱりだ。まぁ、リンはレオナが止まってたら一緒に止まるだろうけど。ペット的に考えて。
オリハルコンゴーレムもレオナ相手だとむしろ簡単に突破されそうな気がするのは……気のせいだと思いたいところだ。
「あ、ケーマ。さっきの問題の答え思いついたんだけど」
ロクコの回答はルールに従って1日待ってから聞くことにした。
(そういえば、人形使いの続きも書かねば……)