ドラーグ村へ二度目の訪問(4)
(はいはいロスタイムロスタイム)
よくよく考えたらシドから見て『ニクは男』という立場になってるんだから、嫁入り志願するのはごく普通のこと、なのか?
とはいえ、ニクが女の子であること自体はバレているのだろうけど。さすがに。
「というかさすがに俺だけで許可ができる話じゃないしな。ボンオドール様にも話を聞かないと」
「当然だな。まぁ、今回はただの軽い打診だ。俺は本気だが、断ってくれてもいい。契約書もこちらはいつでも準備ができているということを見せるために用意しただけだ」
うん、とりあえず却下だよ。せめてマイオドールに話を通せ。あと性別がこんがらがってわけわからんからこれ以上引っ掻き回さないでくれ。
「あー、その、村長。ちょっといい?」
「ん? どうしたセツナ」
「その薬、いつどこで入手したのかなって聞いてもらっていい?」
そうか、混沌神の作った薬か。孫としては気になるよね。
「というわけだが、その薬の入手元は?」
「うむ。これは3日前に旅の錬金術師が融通してくれたものだ」
「……その錬金術師ってのはもしかして黒髪で赤目だったりしたか?」
「ああ。黒髪赤目の女性だったぞ。まぁこの薬を持っていた時点で性別は信用できない情報だが」
セツナが「うわっ」と表情を歪める。
まさかレオナ本人かこれ。というか3日前? え、何? 近くに居るのアイツ。
「ああそれと、黒いスライムを連れていたな」
「……そのスライムの名前とかは」
「リンと呼んでいたな。黒いくせに白い物を好んで食べるそうだ。流石に白くても塩は嫌いだったようだが」
シドの回答に、セツナは目頭を押さえた。
……リンとレオナが合流したのか? うわぁ何それやばい。
これは今すぐ家に帰って迎撃態勢を整えなければ。ウチのダンジョンの天敵がセットになってすぐ近くにいるとか大人しく寝てられない。怖い。
「その錬金術師は今どこに?」
「パヴェーラに居るのではないか? 少なくとももうこの村には居ないぞ」
まて。ここにいたのかよ。これにはセツナだけじゃなくて俺もこめかみを押さえたい気分だ。
俺は首元にナイフを突きつけられたような気分だった。突き付けたのはシドではない、レオナだ。
よし、決定だ。この婚約はハッキリきっぱり断ろう。レオナが居るとしたらこんな些事に労力を費やしてはいられない。
「事情が変わった。ハッキリ言っておこうかシド殿、婚約はありえないと言っておく」
「……ダメか?」
「ダメだ」
「……」
「そんな目で見てもダメなものはダメだ」
俺がきっぱり言い切ると、はぁ、とシドはため息をついた。
「分かった。そこまで言うなら諦めよう。……だがそうなるとこの薬は持ってても仕方ないな。俺の未練を断ち切るためにも持って行ってくれないか? 友達として」
「……まぁ、そういうことなら」
シドが余計なことを考えないようにするためにも、引き取った方がいいだろう。
「あ、金払おうか? 薬代」
「いや結構だ。俺の未練を断ち切るためだからな。むしろタダで持って行ってくれた方がスッキリする」
「そうか」
シドのすがすがしい笑顔にそれ以上何も言えず、俺はレオナの手がかりでもある魔法薬『テイ・A』を受け取った。
*
そしてその後は特に何もなくゴレーヌ村に帰還した。
で、ウォズマの尋問もといウォズマへ報告というわけで……
「というわけでな、その後シドが話があるってんで断るわけにもいかずおよばれして……」
「村長。余計な仕事をしないようにと言いませんでしたか?」
し、仕事じゃねぇし。友達(外交上)の家に遊びに行っただけだし。
と、なんか頭痛そうな顔してたウォズマだったが、婚約を迫られて断ったというところで「ふむ?」と片眉を上げて口に手を当てる。
「では村長はその魔法薬を受け取ったわけですね?」
「ああ。色々な意味で危険物だし、あっちの手元に置いとくわけにもいかんだろ」
「そういう建前ですか……まぁ良いのではないでしょうか。ようやくバランスも取れてあちらも喜んでいるでしょう」
「うん? 婚約は断ったのに喜ばれてるのか?」
俺が気になった言葉に首をかしげると、ウォズマは少し目を見開いた。
「おや珍しい。これは神童の評価を上方修正しなければならないですね」
「どういうことだ?」
「村長が気付かないほど自然な演技ができる人物ということですよ」
自然な演技、か。ん? ウォズマがそう言うってことはニクと結婚したいって言ったのは演技だったって事になるのか? よくわからなくなってきた。
「恐らく領主様……ボンオドール様に話を聞いたのでしょうな」
「ふむ、それで?」
「自分の拙い見立てですが、その魔法薬は金貨500枚ほどの価値があると思いますよ。詳しくはどこかの魔法薬店に確認した方がいいですが」
急にコロコロ話が変わるな。……って、えっ? 金貨500枚。何それめっちゃ高い。
そういえばコーキーで売ってた同系統の魔法薬、効果永続のが仕入れ値で金貨1000枚とか言ってたっけ。末端価格で考えると跳ね上がるけど、金貨500枚って相当効果高いやつってことじゃないかな。
「……受け取ったら不味かったかな?」
「ええと、受け取りは問題ないですよ、あちらが受け取ってくれという話だったわけですし。実質村長への貢物とみて間違いないかと」
「そうか。ならいいか」
よくわからんが、もらっとこう。使い道はさっぱりないけど、返してシドがまたニクに求婚してきても話がややこしくなるだけだし。……ん? いや、演技だったんだっけ? ああもう、ややこしい。
とにもかくにも、今はレオナ対策にダンジョンの守備を固めねば……ああもう、レオナとリンが一緒になって攻めてきたら全く勝てる気しないぞ。オリハルコンゴーレムのリスポーンまだかなぁ。
「……でも高いもん貰っちまったな、お礼しなきゃ不味いか?」
「やめてあげてください、今頃本当に喜んでいると思いますから。まぁ、これであちらも村長の事が少しは分かったでしょうし、今後下手にちょっかいかけてくることもないでしょう」
「お、おう? ウォズマがそう言うならやめとくか」
なんなら、今後の付き合いでさりげなく返していけばいいか。
俺はそう思いつつ、曰く金貨500枚相当の性転換魔法薬をそっと【収納】に封印した。……手元に置いときたくないし、ワタルにでも売りつけてやろうかな?
(どあいんざふぇいす。
それと今月25日発売のだんぼる9巻特典情報きました。
http://blog.over-lap.co.jp/tokuten_danboru9/
色々忙しいのでオーバーラップ広報室ブログURL直貼りの手抜き! ……改めて限定版やばいね。まぁまっとうなヤバさで安心した。安心……でいいのかなぁ?
あとコミカライズはカレンダーの都合で22日の多分夜遅くに更新じゃないかなって話です。
そして次の日曜に更新できるかは半々だ! 色々忙しいのでな)