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ドラーグ村へ二度目の訪問


 さて、ドラーグ村に温泉魔導具をさっさと設置して帰るとしよう。

 今回の面子は、俺、ニク(メイド仮面2号)、セツナ、シキナだ。


 ……出発前に副村長のウォズマにもがっちり釘を刺されてしまった。他に余計な事しないでさっさと帰ってきてくださいって。

 まぁ、魔道具設置してる間にこっちのバトルジャンキー共がハーヴィと手合わせするくらいはいいだろ、うん。きっと。そのくらいは。あ、セツナとシキナは今回魔道具の護衛として同行してるぞ。名目だけだけど。ニクは俺の護衛な。


「おおきい魔道具だねー」

「そうでありますなー」


 というわけで、馬車で魔道具になる石ブロックを運んでいる。1メートル立方あってかなり重く、そう簡単には盗みにくい、防犯性の高い代物である。

 まぁこれ自体はダミーで、実際は現地で本物のダンジョンの『水源』付きを設置するんだけどな。


「こうして馬車でないと運べないとか、師匠はどうやって持ち帰ったのでありましょうか……」

「【収納】じゃない?」

「おお! ……あれ? でもならなんで今回は【収納】を使わないでありますか?」


 あっ。……ま、まぁいいか。【収納】はそれなりにレアなスキルだし、犯人も絞れるってことで。


「んー、実はこの魔道具を見せびらかすのが目的だとか!」

「なるほど! ちゃんと持ってきましたよーってアピールでありますな!」

「あるいは、これは偽物で、本物は別にあるんだけどそれをごまかすためとか!」

「おお! この魔道具を狙う不届き者に、本物と思わせた偽物を盗ませるため、とか? 師匠っぽい策略でありますな!」


 その手もあったな。いいかも、採用……いや、当初の予定のままにしとくか。そもそも不届き者とか居ないだろ。



 そんな事を話しつつ、トンネルの中で特に襲撃があるはずもなく、普通にドラーグ村に到着した。

 待っていたのかシドが村の入り口で出迎えてくれた。護衛のハーヴィも一緒だ。


「ケーマ殿、良く来たな」

「おうシド殿。持ってきたぞ、どこに運べばいい?」

「さ、早速か? ええと、じゃあこっちへ来てくれ」


 戦いたそうに目を輝かせている護衛二人をさておき、俺達は村の中の設置候補地に向かった。……うん、ここならダンジョン範囲内だから余裕で設置できるな。しかもちゃんと水が流れていく水路も整備されているようで、適当に水を垂れ流しにしても問題なさそうだ。これ俺がダメだって言ったらどうする気だったんだろうかってくらいにしっかり工事されている。

 そんな場所にシキナとセツナにも手伝ってもらって目隠しのテントを張り、魔道具を運び込む。

 用意されていた台座に1辺1メートルの巨大なサイコロみたいな白い『柱』をどんと置き、あとはダンジョン設備『水源』を設置するだけとなった。


「それじゃ儀式するとしようか。俺とクロ以外は出て行ってくれ」

「ああ、分かった。ところで他に俺達に何かできることはあるか?」

「ん? そうだなぁ……あ、そうだ。シド殿、少し頼みがあるん――」

「いいぞ何でも言ってくれ!」


 食い気味でシドが言う。お、おう。なんかすごい協力的だな。そんなに温泉の魔道具が楽しみなんだろうか? まぁ、気持ちは分かる。お風呂ってさっぱりするもんな。『浄化』とは違う気持ち良さがあるよね。


「今回護衛で付いてきた二人なんだが、そっちの護衛と手合わせしたいって話でな。相手してもらえないか? 模擬戦な感じで」

「それだけでいいのか?」

「いいぞ。ま、少なくとも片方はそんな強くないけどな。色々とポンコツだし……」

「ほう。……別に、倒してしまっても構わんのだな?」

「ああ。むしろその方が喜ぶんじゃないか? いわゆる『自分より強い奴に会いに行く』ってタイプの人間だし……」

「ではハーヴィにも油断なく本気で挑むように言っておこう」


 そんなわけで護衛二人の子守をシドに任せ、俺とニクはいよいよ魔道具設置の儀式に挑むことにした。


 といってもやることは特に難しくない。メニューさんからカスタムした『水源』を設置すればいいだけだ。ビバダンジョン。ダンジョンマジ便利。あ、これ間接的にロクコ褒めてることになるんだろうか?


「……とりあえず、水量は蛇口最大まで捻ったくらいの水量にしとくか。温度は、うちの温泉よりも熱くしとかないと冷めるだろ。……成分は温泉的なのにしてーっと……」


 一応ニクに周囲を警戒させつつ、俺はメニューを操作する。もっとも他からは見えない設定にしてるから柱というか石ブロックに向かって指をぽちぽちしてるだけなんだが――

 よし、これで準備完了。あとは決定ボタンを押すだけだ。


 だがここですぐに終わらせてしまっては「儀式とかホントはしてないんじゃ」とか言われてしまうところ。適当に時間を潰さなければ。

 ……俺はモニターを開き、外の様子を確認することにした。丁度シキナとハーヴィが模擬戦を開始するところのようだ。


 丁度いいので、見物させてもらおう。前回のニクとハーヴィの決闘はニクの「びたーんびたーん」でハーヴィの実力もなにもなかったからな。今度はまともな試合になるんじゃなかろうか。


  *


 木剣を構えるシキナ。相対するはパヴェーラの勇士、ハーヴィ。

 ハーヴィは、今日は全身鎧を脱いだ身軽な格好をしていた。当然防具として革鎧程度は着けているのだが、防御より素早さを重視したのだろうか。


「ハーヴィ殿といえば、全身鎧だと聞いていたのでありますが」

「本気を出せっちゅーことやからな。いやもちろんいつだって本気やけど、木剣じゃ斬られても死なんやろ? つまり、」

「木剣相手なら余計な重りになる鎧こそハンデになるということでありますな。望むところであります!」


 ぎゅ、と両手で木剣を握りしめ、正眼に構えるシキナ。正面のハーヴィは両手にそれぞれ木剣を持つ二刀流だ。相当な筋力が必要とされる二刀流だが、日頃から全身鎧を身にまとっているハーヴィであればこの程度軽いものだろう。


「ほな、いこか」

「応でありますッ! てぇい!」


 先に切りかかったのはシキナ。ザッと土埃を上げつつ一足で距離を詰め、同時に振り上げた剣を垂直に振り下ろす。が、ハーヴィはこれを右手の剣だけで受け、同時に左手の剣でシキナの胴体を狙う。


 が、その剣はするりとシキナの体をすり抜けるように空振りした。

 シキナは元の場所に戻って、最初と同じように正眼に剣を構えていた。


「……ふっ、はぁ……」

「ほう、中々素早い」


 軽く息を切らしているシキナを見るに、幻影を飛ばしたというわけではなく、距離を詰めたのちに逆回ししたかのように元の場所に戻ったということだろう。2人の間にたちこめる土埃がその事実を証明しているようだった。


「ほほう、シキナさん人相手に戦えるようになったんだ?」

「ふぅーははは! 弱点克服したでありますよぉ!」


 横からのセツナの問いに、自慢げに答えるシキナ。

 さらにもう一度、シキナはハーヴィとの距離を詰め、今度は斜め上から切りかかる。

 が、これもカィンと木剣同士がぶつかる音を響かせて防がれ、ハーヴィの反撃――だがその前にシキナはまた元の場所に戻っている。


「やるやないか、嬢ちゃん」

「で、ありましょう? これであれば師匠からも一本とれるに違いないであります」

「師匠?」

「ケーマ村長でありますよ。自分、師匠に鍛えてもらってるのであります」

「つまり、あの一見ひょろいのがお嬢ちゃん以上に強いってことか……ううむ、ゴレーヌ村のんはほんま見た目で判断できないなぁ」


 そう言うや否や、今度はハーヴィがシキナ相手に距離を詰める。そして、


「ぐぶっ!?」

「おっと、スマンな」


 こちらは突きであった。速度の乗った、勢いの良い突き。しかも二刀流で、二か所同時の攻撃。それでもシキナは木剣で1か所防ぐことができたのだが、腹に一撃良いものを貰ってしまった。


「つ、突きでありますかぁ……うぐぅ」


 シキナは一撃で撃沈した。……防御力については今後の課題といったところか。あるいは、今回はシキナも素早く動くために最小限の鎧しか身に着けていなかったというのもある。

 ……もしかしたらシキナが1か所防げたのは、ハーヴィがわざと剣を狙って、動きを止めたからなのかもしれなかった。


「シキナちゃん、覚えとき。線よりも点、つまり突きの方が防ぎにくいで? ま、相手のいいとこに当てるにはコツが要るんやけども」

「べ、勉強になったでありますぅ……」

「スジは良いから精進するこっちゃ」


 ハーヴィの感想に、シキナは蹲りつつ返事をした。仮に戦場であればとどめを刺して終わりなシーン。この試合は、ハーヴィの勝利であった。


 セツナは、その試合を見てうずうずしていた。ニクには負けたというハーヴィだが、その実力は確かにパヴェーラ有数の勇士として相応(ふさわ)しい。

 次、自分ならどうするか。突っ込んできた場合の対応はどうするかと頭の中が楽しい事で一杯になっていた。


「じゃ、次ボクだね! あ、それとも少し休む?」

「いや、ええよ。このままやろうや」


 次は、セツナとハーヴィの戦いだ。



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