ちょっとした凱旋のようなそうでないやつ
(水曜更新再開宣言をだしていいのかどうかまだ迷うけど、水曜更新です。
まぁ今回は中身薄いけど)
温泉魔導具のレンタル料交渉をダインに任せた結果、『儲けの8割』ということで決まった。
最初はシドが「水使用料、浴場等の入浴料等、諸々考慮して支払う」と言っていたらしいが、ダインは徹底して「8割が譲れない一線」と主張したそうな。
まさか儲けの8割も、つまり山分けにした上で更に残りの半分以上もぶんどるとは。さすがダイン、交渉上手である。任せてよかった。
……えっと、本当に適正価格なんだよね? 貰いすぎてないよね? 怨みを買うのは嫌だぞ俺は。「ちゃんと恩を感じてくれる価格のはずや」って? ならよし。まぁ経費差っ引いた純利益の8割なんだからお互い損はないはずだよね。
さすがに赤字のときにこっちが金払ったりはしないらしいけど、そこまでは面倒みられないって。
で、明日いよいよ魔道具の取り付けが決まったってところで、ゴゾー&ロップ、シキナがゴレーヌ村に帰ってきた。ついでにマイオドールも。
「いやー、ワタルが居ないし帰りは結構しんどかったな……おうオメェ等元気してたか、帰ったぞー!」
「ケーマさん達も居なかったからね……だいぶ遅くなったか。ただいまだよ」
「やっと帰ってこれたでありますぅ! 自分の心のふるさと、ゴレーヌ村ッ」
「クロ様も帰ってこられてるのかしら? 別ルートで帰ったという話でしたけど」
村の入り口で思いのたけを叫ぶゴゾー達。
……あとそういえばツィーアにも帰還の連絡とか入れてなかったっけ、馬車借りてたんだし一言言うべきだったか。次は覚えてたら気を付けよう。覚えてたら。
尚、ゴゾー達はBランク冒険者に出世しての凱旋だったのだが、村人たちは「おっ。おひさー」「そうか、そういや最近居なかったよな」「よーしとりあえず酒飲もうぜ!」と軽いノリでのお出迎えしかしていない。
まぁこの村、勇者ワタルが頻繁に顔出すし今更Bランク程度で驚くこともないんだろうな。あと俺達はこっそり帰っておくことでお出迎え宴会の機会を潰していたし。
……とりあえずお飾り村長的に考えて顔見せるくらいはしておかねばならんか。
マイオドールはニクに会いに行ったのでそちらは任せるとして、俺はゴゾー達+シキナが酒場でいつもの酒盛りしてるところにそっと顔を出した。
「よぉ、おかえり。遅かったなお前ら」
「あ、ケーマ。先に帰ってたのか……やっぱ【転移】って早えんだな、まぁ俺達は結構寄り道もしてたから抜かされててもおかしくはねぇけど」
「師匠ぉ! 自分頑張ったでありますよ! あ、師匠と一緒に居なかった間の月謝は払わないでありますよぉ?」
「それは別にいいけど、べろんべろんだなお前」
木のジョッキを片手に軽い挨拶を交わすゴゾー。あとぐってり酔ってる残念エルフ。早くない? ついさっき帰ってきて酒場に直行してそんな時間たってないよね?
「しかしなんというか、これで元通りって感じだな」
「そうか? なんかセツナたちがそろそろ村出てくって話聞いたぞ。あとなんかちっこいキヌエみてぇなのが3人も増えたらしいじゃねぇか」
「ああ、それな。バイトが居なくなるからキヌエさんの親戚雇ったんだよ。今から教育しておけばセツナたちが居なくなる頃には戦力になってるだろ」
「そういうことか。……でもその戦力ってのは冒険者としての話じゃねぇんだよな。ま、ケーマがその分頑張ってくれりゃダンジョンの方も問題ないだろうが」
あ、そっか。冒険者視点的にはセツナはニクと同じくらいの実力者。そういう戦力としても数えられてたのか。……いかんな、どうにもダンジョンマスター視点になってて冒険者側の考えがすっぽ抜けてしまう。
「……なんならあの3人にダンジョンの掃除もさせようか? 連携凄く取れそうだし」
「バカ言え、ちっこくて細い、いかにも女の子って感じの女の子なんだろ? そいつをダンジョンに突っ込ませるとか鬼畜かケーマ」
「ゴゾー、ウチの村の最高戦力が誰か忘れたのか」
「……クロの嬢ちゃんは特別、と思いたいところだが……まさかそういう感じなのか?」
「あー、いや、多分ほとんど見た目通りだな」
ただしウチのダンジョン限定で言えば危なげなく踏破できるだろうけど、それは言わない。
「そうそう。それとトンネルの向こうに村ができてたぞ」
「おお、聞いた聞いた。ドラーグ村だって? なんかケーマ、早速やらかしたらしいじゃねぇか」
もうゴゾーの耳に話が入ってるのか、俺のやらかし。いやまぁこの酒場のマスターは副村長だもんな。ゴゾーも村の幹部だし、そこの連絡はさっくりすませたのかな。
「ちょっとやり過ぎたかなと今なら思うよ」
「本当にそう思ってるかは怪しい所だ。まぁいいさ、そもそも喧嘩ふっかけてきたのはあっちだったんだろ? なら問題ねぇさ」
「ししょぉぉお、自分もパヴェーラの勇士ハーヴィ殿と手合わせしてみたいでありますぅ!」
急に話に割り込んでくるなよシキナ。あと酒臭いから顔近づけないで。
「……じゃあ今度頼んでおこう。なにせ友誼を結んだからな、それくらいなら問題ないだろ。あ、そうだ。明日温泉の魔道具設置に行くけど、一緒に来るか?」
「行くでありますとも! 自分、この旅で色々成長したであります。その成果を師匠にお見せするでありますよぉ!」
ほんとぉ? まぁいっか。軽く頼むくらいで、あっちも嫌なら断るだろ。
「あ、セツナ殿も誘っていいでありますか? 予定が空いてるかどうか分かりませんが」
「そうだな。あれも大概バトルジャンキーだしそういうの好きそうだ」
断られたらシキナ一人でポツンってのもなんだしな。もう一人いれば暇も潰せるだろ。
「ねぇケーマさん。その温泉の魔道具ってなんだい? 私そんなの初めて聞いたけど」
「おいおいロップ。そりゃ温泉が出てくる魔道具に決まってるだろ。だろ? ケーマ」
「ああ。ゴゾーの言う通り、魔道具から滾々と温かい水が湧いてくるだけの魔道具だ。ほとんど水差しのやつと一緒だし、そう珍しくもないだろ。ダンジョン産ってだけで」
「ふぅん、確かに言われてみれば珍しくないかもね」
実のところ『水源』というダンジョンのオブジェクトなのだが、出てくる水の成分も少しだけなら弄れるオプションあったし、出てくるのはちゃんと『温泉』だぞ。
最悪『水源(下剤)』みたいに調整もできるようだが、今回は適当に温泉らしい成分にしとこう。
「んじゃ俺は明日の支度しないといけないから戻るわ」
「おう、飲んできゃいいのに相変わらずつれねぇな。どうせ寝るだけだろ? なら寝酒に一杯」
「だが断る」
ダンジョンとかの秘密暴露したら怖いからうっかり酔えないしな。あと苦いから好きじゃないんだ。ぶっちゃけジュースの方が好き。甘い物って脳に栄養行ってる感あるよね。
「ケーマはそこらへん結構貫いてるよな……ま、無理に飲めとは言わねぇよ、そういうのは酒に悪いし」
「そうだな。酒は酒を楽しめるやつが美味しく飲めばそれでいいと思うんだ」
「おう、んじゃ俺らは美味しく楽しむとしよう」
というわけで、挨拶も済ませた俺はさっさと帰って寝ることにした。
(今月25日がだんぼる9巻発売日ですよ。財布の中身は十分か?)