シルキーセットとか
(1話の長さが短くなってる? それは錯覚ですね。
だんぼるが面白くてこの長さじゃ物足りなく感じているということです。
たぶん。きっと。おそらく。めいびー。
あ、今回は長めにしときました)
なんか俺の訪問はダメだったらしい。勝手にダインに交渉してもらうよう頼んだのはお飾りの村長としてやりすぎだったか。
ま、これでウォズマから村長失格の烙印を押されたことで仕事も減るだろう。現に何もしないでくれって頼まれちゃったしなー、あー仕事する気満々だったけど寝るしかないなー、スヤァ!
というわけで2、3日ほど寝てたわけだが……
「ケーマ、追加でシルキーを何人か呼びたいんだけど。最低2人」
「ん? 別にいいけどどうして?」
「食堂のバイトの2人がそろそろ辞めたいって。もうしばらくは居てくれるって話だけど、この機会に宿の仕事もがっつりできる人手が欲しいわ」
セツナとナユタか。……バイトだもんなぁ。本業はワコークのスパイなんだし、一ヵ所に留まり続けるのも問題というか、今まで良く居たなぁ。
やめるのはシフトの関係でもう数日先になりそうだが、居なくなるのは確定らしい。ダンジョン側への挨拶もあるかもしれないな。
「というわけでこれ試してみたいんだけど」
「シルキーセット、8万DPか……まぁいいんじゃないか?」
「……何か変なことに気付かない?」
「変な事?」
カタログの写真を見るに、シルキーが3人で8万DPという感じみたいだが……
と、ロクコの指が8万DPというところをつんつんと指差している。
8万……
ん? 3人で8万DP?
「シルキーって1人で1万DPくらいじゃなかったか?」
「そう! なのに8万DPもするのよ。これは絶対何かあるわ!」
ふんす、と鼻息を荒げるロクコ。
なるほど。何かあってもおかしくない。逆に何かなかったらおかしいDP値だ。
だがこのメニューってのはあの『父』の領分だ。「実は何もない」とかいうのもあり得る。
「ま、今のDPなら結構余裕あるし、いいだろう。んじゃマスタールームで召喚するか」
「やった! あ。あとキヌエの親戚ってことで宿のバイトに使うから名前考えといて」
「……イチカあたりに決めさせよう。幹部じゃないモンスターに俺が名前つけるのもなんだろうしな」
別に3人分の名前を考えるのが面倒というわけでは……いや面倒だな。というわけで、この世界的に違和感もない名前をイチカに付けてもらうことになった。
ニクの悲劇は避けるべきである。
*
「「「よろしくお願いします、マスター!」」」
「おう。今後ともよろしく」
というわけで、イチカを呼んで『シルキーセット(8万DP)』を召喚した。
なんか中学生くらいの幼さを残したシルキーがぽぽぽんと3人現れたが……まぁ特殊能力については追々しらべるとして。
キヌエさんと同じ薄い緑髪、緑のメイド服だ。……キヌエさんがワンオフ、こいつらは量産型って感じがする。うーん、この3人、見た目で区別付かないぞこれ。
「まぁイチカ。例によって新人教育は頼んだぞ」
「セツナ達の抜ける穴の補充やな、任しとき! 宿のお仕事、ウチがみっちり教えたるからなー、覚悟しいや!」
「「「はーい」」」
元気に手を上げて答えるシルキー達。息ぴったりだ。
「あ、ご主人様。色違いで髪飾りくれへん? この三つ子の目印にするから」
「ほいほい。んじゃイチカは名前よろしく頼むぞ」
というわけで、白赤黄色の髪飾りをイチカに渡す。名前はそれぞれハンナ、ナコル、ピオに決まった。イチカ曰く、何かの食べ物の名前から引用したらしい。
2人が抜けて3人が入る……まぁ、ちゃんと教育すればしっかり回るようになるだろう。人数も1人分増えるわけだし。
これで今すぐセツナたちアルバイトが居なくなっても――というわけにはいかないだろうが、家事全般に優秀なシルキーたちだ。すぐに大丈夫になるだろう。
もはや半村人化してたセツナたちだが、居なくなるとなると寂しい気がするな。特にセツナはよくニクの戦闘訓練相手になってくれた。おかげでニクは全身鎧の成人男性を「びたーんびたーん」できる程度に強くなってくれたわけで……。
……うん。やっぱりウチの子強くなりすぎじゃない? 若者の人間離れって怖いね。
と、ロクコが何かを思い出したかのようにパチンと手を叩いた。
「そういえばケーマ、ボススポーンの実験は進んでるの?」
「……それな」
実は俺もただ寝ていただけではない。
純オリハルコンで親指サイズの小さいゴーレムを作り、ボススポーンに登録してみたのだ。で、【クリエイトゴーレム】で鋳つぶした。
実験開始してから5日、まだ復活しない。親指サイズで時間どんだけかかるというのだろう……切り替え不可になってたからクールタイム中、つまりゴーレム復活中ってことは間違いないと思うんだが、せめて残り時間を表示してほしい。レッドドラゴン(2週間)よりかかる可能性とかあるかな?
親指サイズのアイアンゴーレムは5分でスポーンしたんだけど、やっぱり純オリハルコンってのが時間のかかるポイントなのだろう。
「というわけで、『これでオリハルコン量産して使い放題だぜひゃっはー!』とはいかないらしい」
「DP注げば早く復活するって言ってたけど、それもどのくらい早くなるのか分からないわよね。……というか、よくよく考えてみたら純オリハルコンの親指サイズゴーレムって普通にヤバくないかしら、倒せなくない?」
「ん? ……言われてみれば、オリハルコンだもんな」
髪の毛ほどの太さしかないワイヤーでも曲げることがほとんどできない金属、オリハルコン。それこそ程よい長さのワイヤーに柄を付けるだけで超強いレイピアになるレベルだ。
それがゴーレムで、しかも親指サイズである。
純オリハルコンなので運動性能がやたら良く、小さすぎる体に攻撃はまず当たらないし当たっても硬すぎて破壊不可。ついでに魔石つけてないから魔石破壊によるショック死もない。魔法攻撃は効くんだろうか? オリハルコンって魔法にも強そうな感じするなぁ……
「倒すには殴ってマナを散らす……にしても、オリハルコン製の武器がないと話にならないんじゃないかしら」
……やべぇ、ウチのダンジョンのラスボスが産まれてた。
と、そこでロクコがニヤリと口端を上げた。
「ねぇケーマ。ケーマの作れるゴーレムって、最小でどれくらいなの?」
「……おいロクコ、お前とんでもない事考え付きやがったな?」
「ふふふ。広いボス部屋で豆粒みたいなサイズのオリハルコンゴーレムなんて、まず探すのが困難よね! ……どーよ。褒めても良いのよ?」
ドヤ顔のロクコ。だが今回のはさすがにドヤってもいいレベルで凶悪なギミックだ。
さすがに豆粒サイズとかは作ったことないから分からんが、指輪サイズならいけることは間違いない。それが石畳のスキマとかに隠れてたら見つけられる気がしないぞ?
しかも仮に見つけたとしても討伐は極めて困難ときたもんだ。
「……うん、今回は普通に素直に褒めてやろう。すごいぞロクコ」
「ふぇ!?」
頭をなでなでしてやる。金髪がさらさらで良い撫で心地だ。
「ちょ、ちょっとケーマ……いつもなら本物かーとか言ってからかうところじゃないのこれ。こ、こんな普通に褒められるとかっ、私、そ、想定してなかったんだけどっ」
そういうロクコの顔は、真っ赤になっていた。そんな、もじもじと身をよじるロクコの頭を引き続き優しくナデナデする俺。
「いや、マジで凄いぞ。成長したなロクコ!」
「あう、あうあう」
「ロクコも一人前のダンジョンコアってことだな、さすが俺のパートナーだ。鼻が高いぞ」
「~~ッ! ま、まぁ、ケーマのパートナーだもん、当然よねっ!」
「しかも可愛い。よーしよしもっとナデナデしてやろう」
「きゃわっ!? そ、そぉ? って、や、やっぱりなんかからかってない!?」
「失敬な。こんなにも褒めたたえているというのに何が不満なんだ? 両手か? 両手使って欲しいのか? 今なら両足付けて撫でてやってもいいぞ」
「足で撫でられて嬉しいのってケーマくらいじゃないかしら……」
「さすがに足は冗談だ」
足フェチの俺としては足で撫でられたらちょっと嬉しいけども。
まぁ褒め殺しでからかうのはこれくらいにしておこうかな。と、切り上げようとしたその時。
「ね、ねぇケーマ。そんなに褒めてくれるっていうなら、その、ご、ご褒美にぃ……」
「ん? ご褒美に?」
「……してもいいのよ? キス、とか」
頬を赤く染めてもじもじしつつ言うそれは、思わず「うぐっ」と胸が詰まるくらいの破壊力を伴って俺を突き抜けた。
「そ、それは、また今度な」
「ん、分かった。約束ね」
誤魔化した俺に、そう言ってにへっと小さく笑うロクコ。……うん。うん。
……もう覚悟決めた方が良いかなぁ。色々。
(25日に別作品の1巻が発売されました。続刊あるかはこの初動にかかっているそうな。
で、同じく25日にコミカライズの方も更新されました。
ちょいちょいニクの首輪が消えてるのは単行本になったら修正入るはずなので、ある意味今しか見れないバージョンですよ!(目そらし)
あと来月25日にはだんぼる9巻発売なんだけども、メロブとゲマの特典付きがヤバいですわ。でも8巻の時のよりはある意味まっとうなヤバさなので少し安心した今日この頃。
追記:メロブのは特典付きじゃなくて普通の書下ろしブックカバーだった。こっちはスケジュールの都合で前のイラスト、つまり平和なB2タペストリーだったな!)