村長会談
(あ、感想でちらちら言われてますが、シド君は以前書いた短編『悪役令嬢だけど先手を打って婚約破棄してみた。』とは全く関係ないですよ。ホントですよ)
「しかしシド、様?」
「呼び捨てで構わんぞ、ケーマ殿」
「ではシド殿と呼ばせてもらおう。シド殿はパヴェーラ訛りが無いんだな? 少し意外だった」
「む、うむ。訛らないように気を付けているのだ。帝都の学校へ入学した時に恥ずかしくないようにな」
微妙に気になっていたことを訊ねると、シドは腕を組みつつ答えた。
あれか。上京して方言丸出しだとなんか恥ずかしいって感覚か。別に方言とかいいと思うんだけど。
「あと、なんでドラーグ村を作ったんだ? それもこのタイミングで」
「確実に儲かるからだ。ダンジョンのあるゴレーヌ村程ではないが、父上の計画でな」
どうやらドラーグ村はパヴェーラ領主の肝煎りで作られた村らしい。
商人の通行が確実に見込める道で、トンネル手前のパヴェーラ側拠点。なるほど、金が落ちていくニオイがぷんぷんするというわけだ。
もし俺が商人で金が目当てなら迷わず村を作らせてただろう。だが俺はダンジョンマスターで、寝るのが目的だからそんな管理が面倒になるようなことは願い下げだった。むしろドラーグ村ができてシドが勝手に村長してくれるのは願ったり叶ったりだ。
「時期としては、トンネルができた時から準備はしていたのだ。ケーマ殿のドラゴン退治の話があったことで少し前倒しして作ることになった」
「そうか。まぁ、ツィーア側ばかりが儲けるのもなんだもんな」
でもドラーグ村もウチのダンジョン領域内に入っててDP収入になるから、俺が一番儲かってると思うんだ。ウハウハだね。
ちなみにドラーグ村の名前はツィーア山に住むレッドドラゴンにあやかってとの事らしい。……レドラがこのあたりの地域の守護神みたいな存在だとか初耳。
「逆にこちらも聞きたいことがあるのだが、なぜ従者があのようなメイド服に仮面の姿なんだ?」
「メイド服はウチの宿の制服だ。仮面は……パヴェーラの人間で会いたくない奴がいるんだろ」
特に隠すことでもないので答えておく。下手に隠すと逆に詮索したくなるものだしな。
「ふむ……良ければ顔を見せてくれないか?」
「1号はともかく、正体のバレてる2号はいいか。クロ、仮面をとってやれ」
「はいご主人様」
ニクが仮面を取る。といってもそれだけだ。特になんということもない。
なにせ黒髪黒耳黒尻尾、あと褐色肌というニクの特徴的なところはそのまま出てたもんな。むしろ表情も鉄面皮というかなんというかで、仮面をつけててもそんな変わらないし?
だが、シドの反応を見るとニクを見て目を見開いていた。何か驚くようなことでもあったのだろうか。
「……素顔を見ても、クロイヌ殿は女にしか見えないな」
「そりゃ――」
女だからな、と言いかけて、そういえばマイオドールの婚約者ということなら相対的にニクは男ってことになることに思い至る。
『女にしか見えない』という発言から、ツィーア領主のボンオドール様はシドに『ニク・クロイヌは男である』と伝えたのだろうと推測できた。
ゆえに、俺は言葉を選び直した。
「メイドだからな」
「メイドだからか……」
いや、まぁ、性別の部分は正直に言っても良いだろうか。魔法薬も現物あるし。なんなら買ってくるし。帝都に行く途中の町、コーキーで売ってたし。
……でもまた『ニク』の名前で女の子で、ってなって色々面倒くさいことになるし、説明はしないでおくか。ただ、いざ女ってバレてもいいように伏線は張っておこう。
「……まぁ、性別をどうこう言う必要はないだろう。そういう魔法薬もあるんだし」
「魔法薬。そうか、そうだな、そういうのもある……」
いまだにシドにじっと見つめられているニクがこてんと首をかしげる。
「……わたしの顔になにかついてますか?」
「え、あ、いや、そういうわけではないのだ! ……その、綺麗な肌だな」
「はい。温泉で磨いてますから」
「温泉か。良いな、俺も入りたいところだ。ドラーグ村にも温泉が出れば大衆浴場を作れるのだがな」
そういえばパヴェーラには大衆浴場がある、と以前イチカから聞いた記憶がある。パヴェーラは『浄化』に頼らない入浴文化のある町なのだ。
ということは、温泉目当てにこっちの宿まで足を運ぶ村人とかが居てもおかしくないが……うん。徒歩で来たら絶対湯冷めするな。トンネルで。
色々面倒そうだし、揉め事の種になりそうでもある。それを考えたらドラーグ村に温泉なり浴場が欲しいところだろう。
そこでティンときた。
「貸してやろうか、温泉の出る魔道具。ダンジョン産のやつ」
「何……!? そんなものがあるのか?」
よし、食い付いた。
シドが俺に向き直り、真面目な顔をして質問してくる。
「いやだが……それはどういうものだ? 温泉を掘り当てる物なのか? それとも魔道具から湯が出るのか?」
「魔道具から湯が出るタイプだな。ただ、妙な制約が多そうでここで使えるかは試してみないと分からない。うちは天然の温泉があるから使わないし」
ちなみに貸す予定の魔道具は、インテリアの石柱なりに『水源』をカスタムして貼り付けた代物を想定している。高くても2000DPには収まるだろう。ドラーグ村からのDP収入1日分で十分賄えるレベルだ。
インテリアにトラップやらを張り付けた代物は、設置したダンジョンのフロア内から外に出たら使えないのでこのドラーグ村フロアの中で設置する必要があるが、そこは特殊な儀式が必要だと言ってテントなりで隠して設置すればいいだろう。儀式の内容を秘密にするのは貸す条件に含めてもいい。
そして、あくまで『貸し出し』。これが重要だ。
レンタル料を取ることで、トンネル通行料に代わる不労収入を得ることができるのだ!
さらに所有権がこちらにあるので、村同士の間で何か問題があれば「じゃあ温泉の魔道具返してね」と脅すことができる。ククク、これであればわざわざ問題を起こしたりはしまい。つまり俺がぐっすり寝れる。
「……色々と怖いな。ドラゴン退治の英雄は交渉も得手であったか」
「むしろ戦闘は苦手なんだがな」
シドは苦笑いだ。恐らくこの『弱み』についてすぐに気付いたのだろう。
マイオドールといい、貴族の子供ってやっぱ頭いいんだな。
あと万一返却を求めた時に「返さない」とでも言おうもんなら、ダンジョンからの操作で『不具合』が発生して温泉は出なくなるだろう。修理のための儀式は俺達しか知らない。完璧だ。
「対価はいかほどを?」
「応相談だ。といっても俺は魔道具レンタルの適正価格を知らん。ので、ウチの村の財政を管理してるダインって商人と交渉してくれ、支払いもダイン経由で」
そして仕事はダインに押し付ける!
こういうのは詳しそうなヤツに丸投げするのが一番だ。ダインにも手数料を払えば嫌とは言うまい。俺は俺が楽をするための出費を惜しんだりはしないぞ?
「これも友誼ってやつだ。仲良くしようか、シド殿」
「……是非、借りさせてもらおう。もちろん、適正価格で」
俺がそういうと、シドは複雑な感情がこもった笑みを浮かべた。
(次の水曜は50%の確率で更新できるかも。でもその次は分からんです。
……しかし、書籍化作業2つが被るとか兼業作家のすることじゃないなコレ。しかもだんぼる9巻の書下ろし率はまた大体9割↑で加筆修正を含めるとほぼ10割というね。もうね)