忘れ去られてそうな奴ら
(ロスタイムですよ。急いで書いたからあとで修正入るかも?)
「なぁ、俺らはいつケーマさんの村に行けるんだろうな、ウゾー」
「……さぁ? でもそろそろ金は返せるんじゃないかな、ムゾー」
Cランク冒険者ウゾームゾー兄弟。彼らは今、魔国にあるとある町でハンターをやっていた。
ハンターとは、冒険者の魔国版の存在だ。冒険者ではなくハンターと呼ばれる所以は、モンスターを狩る仕事しかないからだ。
大抵の雑用は『魔族』――帝国でいう貴族のようなものと思われる――がアンデッドを使役してこなしているため、特別な技術が必要な職人や接客業以外には、モンスターを狩る仕事くらいしかないのだ。
ウゾームゾー兄弟も最初こそ町中で荷車を引くスケルトンや郊外で畑を耕すスケルトンに驚いたものの、そのおかげで人々がだいぶ優雅な暮らしをしているというので、慣れと共に受け入れた。
で、今日もウゾームゾーは自分の狩れるモンスター、アイアントード(50cmくらいの硬い肌を持つカエル)を狩って町に帰還してきたところだった。
約1年ほど前、ケーマに魔剣を渡したのち、依頼で魔国領にやってきたウゾーとムゾー。
彼らはその依頼中にたまたま魔族のお坊ちゃんを助け、その魔族が治める町で食客扱いとなって暮らしていた。
助けた際にウゾーが怪我を負ってしまい、その治療費を肩代わりしてもらった。そしてそれを返すまでの間厄介になるという話だったのだが――無理のないペースでということで、かれこれ1年近く掛かっている。
……尚、依頼の方は魔国にあったハンターギルドで達成報告ができた。冒険者ギルドとは別組織ではあるものの、提携関係にあるらしい。
「それにしても、魔国の人も帝国の人間とさほど変わらないんだな、ウゾー」
「ああ。体に魔石があるだけで話ができる『人間』だものなぁ……時に、あの魔女さんと飲みに行ったと聞いたんだが、ムゾー?」
「少しだけだ少しだけ。それに、見事にフラれたよ。魔法にしか興味ないってさ」
「ハハハ、いい気味だ」
相方のムゾーがフラれたのを笑うウゾー。ちなみに彼は前に酒場で働くハーピーの給仕さんにアタックして見事にフラれており、その時笑われた仕返しである。
と、そこに近づく一人の人狼が居た。
「おう、帰ってきたか新入り」
食客の先輩、スクジラだ。彼は相方である人虎のシロナガと2人組を組んでいる。
ちなみに最初こそスクジラ達が人狼・人虎であることに驚いたウゾームゾーだが、人間が狼獣人(獣色強め)に変身できるだけの存在だと気づいてからは殆ど抵抗なく受け入れることができた。
人狼の魔石は心臓にあり、外部に露出していないのも要因であるといえよう。
「おい、聞いているのか、新入り」
「……もうここにきて1年近くにはなってるんだが。なぁウゾー?」
「ああ。いい加減名前で呼んで欲しい所だな、ムゾー」
「む、そうだったな。いいかげん新入りっていうのも可笑しいか。ええと、ウゾーとムゾー? でいいのか?」
もふっとした顎に手を当てて訊ねるように言うスクジラ。
「合ってるぞ。というか俺らの名前が分からないとは思わないんだが。なぁウゾー?」
「そうだな。こうしていつも俺ら名前言い合ってるもんな、ムゾー」
「いやなに。文化の違いっつーもんがあるからな。親しい人にしか呼ばせない名前とかある奴もいるんだよ」
そういえば貴族なんかは大体が長ったらしい名前で、愛称で呼び合うのは親しい人とされているということをウゾーとムゾーは思い出した。似たようなものだろう。
「なるほど。安心してくれ、俺達はこれが本名だ。一文字も略しちゃいないさ。なぁウゾー?」
「えっ、俺実はウゾルダートって名前なんだが……冗談だ。俺もそのままの名前だぞ、ムゾー、スクジラ」
「ならいい。シロナガが呼んでたからな、付いてこい。ウゾームゾー」
一体何の用なのかと、心当たりを思い浮かべて付いて行く。たぶんまた、稽古をつけてくれるという話だろう。
帝都とさほど変わらない立派な町並みを抜け訓練場までやってくると、そこで錘を付けた木剣を素振りしているシロナガが居た。
「おお! きたな貴様ら!」
「来たけど、また稽古つけてくれるのか? シロナガ」
「それもあるが、今日は別件だ!」
別件と言われ、稽古以外に何か話すことがあるのかと身構えるウゾーとムゾー。
「今度、武道大会があるだろ……あれ、お前らも出ろ!」
それは2人にとって唐突な話題だった。
「は? いや、ちょっとまて。武道大会って、あの、凄い奴がたくさん出てくるって話してた武道大会か? おいおい、俺ら単なるCランク冒険者だぞ。なぁウゾー」
「ああ。スクジラでも手も足も出ないような奴がゴロゴロ出てくるんだろ? 俺らが勝てるわけないじゃないか。なぁムゾー」
「馬鹿もんッ! やる前から負ける気でどうする!! だが別に優勝しろとは言ってない、貴様らなら2回戦突破でもできれば、御の字だろうよ」
「なら、どうしてだ?」
改めて聞くウゾーに、シロナガが答える。
「まず、貴様らが食客なのに功績がほぼない。これじゃぁ坊ちゃんのためにならん」
「うぐ」
「そ、それはまぁ、なんとなく分かるな」
実際には自分たちで働いた金で生活しているのだが、ウゾーとムゾーはこの魔国において食客として身分を保証してもらっていた。
功績らしい功績といえば最初に魔族の坊ちゃんを助けただけ。それは公式に何かの記録が残るようなものではなかった。
身分を保証している方からしてみれば、ウゾームゾー兄弟がそれに見合う存在であるとアピールしてくれた方がやりやすい、というわけだ。
「それに、いい経験になると思うぜ? なぁスクジラ。オメェ前回出てみてどうだった」
「ん? そうだな……確かにいい経験になった。それに、怪我しても死なねぇ限りは大会運営の方で治してくれるからな。あと勝てば金が出る……3回戦突破で、金貨5枚だったかな」
「っつーことだ。2回戦突破でもすりゃ、貴様らの借金くれぇは全部返して釣りも出るんじゃないか? もう残りもそんなにないんだろ?」
参加することで、腑抜けではないとアピールできるとのことだ。そして怪我も心配しなくてよい。勝てばファイトマネーも出る。
色々と好条件だった。これはもう、ウゾームゾー兄弟に断る理由も無かった。
「……まぁダメ元だしな、やってみるか。なぁウゾー」
「……別段失敗しても死ぬわけじゃないもんな、ムゾー」
こうして、ウゾームゾー兄弟は、武道大会への参加を決めた。
(N-Starの方で連載してる『人形使い』は来月発売だそうな……
うぐぐぐ、コミカライズの色々や2作品の書籍化作業やらがやべぇや。でも連載はストップしたくないでござる)