テンさんとケーマ
(リクエストであったテンさんとケーマです)
青い海、白い砂浜。そこに一匹のテンタクルスライムがたたずんでいた。
テンタクルスライム。
『白の砂浜』のボス的存在にして、物理無効のスライムだ。触手の名に恥じない、イソギンチャクのような触手を持っている。
またネームドモンスターであり、「テン」という名前がある。もっぱらこの名前を呼ぶのは『白の秘め事』(ダンジョンと言う名の別荘)の管理人であるシルキーくらいだったのだが――最近はダンジョンマスターのケーマが【転移】のスキルを覚えたとかで、『欲望の洞窟』から帝都や『ウサギの休憩所』に行くのに頻繁に顔を出してくれており、顔を合わせると名前を呼んで挨拶してくれる。
「おっ、テンさん」
噂をすればというやつか。ダンジョンマスターであるケーマが突然現れた。
テンは、にゅるんと触手を持ち上げて挨拶を返す。
今日も『ウサギの休憩所』に様子を見に行くのだろうか? と、ぷるんと体を震わせるテン。
「ん? ああ、今日は別にこれといった用があるわけじゃなくてな。たまには昼寝する環境を変えてみたらどうかと思っただけなんだ」
なるほど。とテンはにゅるりと体を動かした。
そして、昼寝ならそこの木陰が丁度いい、と触手で指す。
「おう、確かに昼寝に良さそうだな。ありがとうテンさん」
いいってことよ、と触手部分を親指を立てるようにぷくりと膨らませた。
……この2人(?)はどういうわけか意思の疎通ができているようだ。
言葉はケーマが一方的に喋っている。知性の感じるテンがこれを理解できるのはまだ分かるが、テンタクルスライムの言いたいことを寸分違わず理解できているケーマは一体なんなのか。
まぁ、普通のスライムに比べて触手がある分表情豊かという風に言えなくもないのだが……流石はダンジョンマスターと言うべきなのだろうか。
ちなみに翻訳機能は使っていないそうだ。無くても分かるから。
「(ぬるんっ)」
「お、魚か。そうか、そういやここ海だもんな。魚も獲れるし塩も作れるか」
「(ぷるん?)」
「塩の作り方? 作りたいの? うーん、スライムって塩かけたら水分失って萎れない?」
「(……ぷるっ)」
「なるほど、海の水は大丈夫ってんならまぁ多少は……まぁ、海水から水を抜いたら塩が残るよ。大量の海水を煮詰めたり、天日干しして蒸発させたり。要は水を抜けばいいんだ」
「(……)」
「ん? どうしたテンさん」
「(……ぷるん!)」
「えっ、そんなことできるの? 分からないけどやってみる? お、おう」
テンは触手を1本海に突っ込む。ぎゅぽんぎゅぽんとポンプのように海水を汲み上げ、ぎゅっぎゅっと飲み込んだ。触手の一本が放水車のホースの如くぴゅーっと水を海に向かって戻している。
……凝縮して、余分な水分を放出していた。そして、吐き出しきれず水分が増えたのか若干ぬめりが増した気もする。
10分くらいそれを続けていると、体内でビー玉サイズの四角い結晶ができていた。おそらく塩である。……魔法も併用しているのだろうか?
「(ぷるる)」
「もういいのか? どれどれ」
(触)手招きして、ケーマの手の上に結晶をぺいっと吐き出す。
とろりと絡みついている粘液を指で拭って、うっすらピンク色のその結晶をぺろりと舐めてみるケーマ。しょっぱい。間違いなく、塩の結晶であった。
「……テンさんすげぇや! これ塩作り放題じゃないか!」
「(ぷるぷる♪)」
ただし、このピンク色はおそらくテンさんの色。粘液が混じってるのではなかろうか。
テンさんの粘液入りの塩……あまり進んで食べたいものではないような、そんな気がする。が、食べられないことはないだろう。なぁにかえって耐性がつく。
「そういえばテンさんってスライムなんだよな」
「(ぷるん?)」
「いやなに、スライムベッドってどうなのかな? と思ってさ。普通だと溶かされたりしそうじゃん?でもテンさんならいけるんじゃないかと。それなりにデカいし」
「(にゅるん、ぽゆん)」
「え、いやまぁ、気になるけど。テンさんもダンジョンの見回りとか忙しくない?」
「(ぽゆんっ)」
「あ、そうなの。暇なの。……まぁ、このダンジョン人来ないもんなぁ……来るとしても野生のサハギンくらい?」
「(ゆらゆら)」
「……悪いね、なんか催促しちゃったみたいで」
「(びっ、へにょーん)」
「ははは、そうかそうか。なら遠慮なく」
というわけで、木陰でスライムベッドを試すことになった。
……『ダンジョンマスターの護衛という名目があれば堂々とサボれるから』ということらしい。ケーマはなぜか、本当になぜか、これを正確に認識しきっていた。翻訳機能なしで。
ガチャで呼び出された者同士で何か通じるところがあるのだろうか。
にゅるんと、テンの触手に捕まえられて、ケーマはテンの上にぽゆんと寝転がった。
そのまま、砂浜から木陰までにゅる、にゅると移動する。
「いやぁ、しっかしこっちのダンジョンはテンさんに任せられるから楽でいいなぁ」
「(にゅるにゅる)」
「あーうん。いつも助かってるよ。むしろこっちはダンジョンバトルの時くらいしか使わなくて丁度いい……だろ……zzz」
ケーマは簀巻きにされているように見えるほど触手に絡まれていたが、何気にひんやりとしつつも弾力のあるベッドのようで快適だったので、遠慮なく寝た。
ヌルヌルしてはいるが後で【浄化】すれば何の問題もない。
ただ、この粘液には美容によかったり色々と血行が良くなる効果があったりするのをすっかり忘れていたので、後々ちょっと大変なことになったりならなかったり。
あと塩はサキュバス達の村に『血行が良くなる健康食品:テンタクル塩』として差し入れしたところ、結構好評だった。
~後日、ロクコが聞いてみた~
「……ケーマ、よくあれと意思疎通できるわね」
「え? だって表情豊かだし何言ってるか大体わかるだろ?」
「表……情……?」
「ほら触手とかあるじゃん。……ニクの尻尾や耳みたいなもんだよ。それに触手の方が数が多いからその分分かりやすさもアップだ。何の不思議もないだろ?」
「不思議でしょうがないわよそこ単純に足し算や掛け算で増える内容じゃないんじゃないかしら」
曰く、下手な人間より話しやすいそうな。
(ちなみに、現在の移動事情としては、ゴレーヌ村と砂浜がケーマ達のみダンジョン機能で移動可能(イチカ、ニクもアイテム扱いで移動できるものとする)で、あまり遠くなければケーマが【転移】が使えます)
(さて、というわけで書籍化作業です(N-Starの『人形使い』)
あと書籍化作業です(だんぼる)
……うん、もう1話くらい閑話やろうか。ちょっと新章やるには立て込み過ぎててまだ話がしっかり練れてない感じだし)