キス100回
(要望のあったキス回だぞごふぅッ(吐血)
くっ、慣れないイチャコラシーンを書いた反動が……!)
ダンジョンバトルが終わり、ケーマ一行が帰る少し前。
さらに具体的には、ケーマとロクコが添い寝してしまった翌日のことだった。
「姉さま。キスしましょう」
「えっ?」
帰り支度を進めていたはずのロクコに不意にそんなことを言われて、ハクは驚きにびくんと体を震わせた。そして、動揺してその時見ていた書類をうっかり破ってしまった。
「き、ききき、キス? キスってあのキスよね」
「? ええと、他にキスってあるんですか? 姉さま」
「ううん!? 無いわ、無いわよ。……え、何? 夢かしら。お父様のソファーの特殊効果か何か?」
昨日は確か祝勝会で酔いつぶれて、今朝気が付いたら執務室に置いてあった『父』から貰ったソファーに横になっていた。目覚めはとてもスッキリしていた。
つまり、あのソファーの特殊能力か何かでロクコがこんなことを言い出した可能性が微粒子レベル、いや、50%の確率くらいで存在していた。
「んっ、んんふん。げふん。えーっと。その」
「じゃ、失礼しますね姉さま」
「んむぅ!?」
机に乗りつつ、むちゅぅ、と執務室の椅子に座ったままのハクの唇を、おもむろに唇で塞ぐロクコ。唇と唇を重ね合わせるだけの、正真正銘のキスだった。
「……っ!?」
「まず1回、と。んー」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってロクコちゃん! 10分、いえ、5分待って!」
2回目のキスをしようとしてきたロクコに手のひらを向けて、ハクは一旦席を外した。
「(何何何!? 何が起きてるの、これは、え、えええええっ)」
混乱しつつもハクは洗面所へ走り、しゃこしゃこしゃこと歯を磨く。仕上げに『浄化』もして、鏡を見て顔が大変なことになっていたりしないかをチェック。――耳と頬が赤い以外は問題なし。息、大丈夫。
念のため手櫛で髪を気持ち整えて、ロクコが待つ執務室の席に戻る。
「……お、おまたせ」
「おかえりなさい姉さま。それじゃ、続きしましょうか?」
「う、うん……あの、ロクコちゃん? なんで急に?」
ハクがそれを訊ねると、ロクコはこてんと首を傾げた。
「姉さまが、100回キスしたらケーマとキスしていいって言ったんじゃないですか」
「……言ったわね、そういえば」
うん、言った記憶があった。つまり、ロクコがケーマとキスするために自分に100回キスしようとしている、と、そういうことであるとハクは状況を正しく認識した。
「というわけであと99回です姉さま!」
「うん、わ、わかった、わかったけどんむぐっ!」
またしても強引に唇を塞がれるハク。なんという積極性であろうか。あまりの事態にハクは意識を持っていかれそうだと感じる。同時に、ここで意識を持っていかれる訳にも行かないと。意地でも、死ぬ気で意識を保たねばならないと覚悟する。
「ぷは、そういえば、唇以外でもキスはキスですよね? 姉さま」
「ちょ、んぅんっ! きゃ、や、あ、そ、そこはっ!」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と頬から首筋にかけてキスを連発するロクコ。こんなテク、いったいどこで覚えてきたのかとハクは体を震わせながらそれを身に受けて思う。
こんなこと、ハクは教えた記憶がない。
――教えたのはせいぜい、(万一の間違いが無いように)性教育として『生殖行為とは汚い汁を出してスッキリするための行動で、相手をゴミ箱のようなものと見る行為。男が女にする行為としては最低最悪の行動、絶対に拒むこと。そもそも人としては排泄行為で十分なのでしてはいけない獣じみた行為』ということくらいしか教えていなかったはずだ。あと『キスは好き合ってる者がするもので、男女とかは関係ない。そして姉妹はいくらでもして良い』とも教えていた。
それが、どこでこのような情熱的で熱烈なキスを覚えてきたというのか。
考えられるのは、ケーマや、ゴレーヌ村だろうか? もしや、ダンジョンにレオナが置いて行ったというサキュバスの仕業だろうか。うん、これ以外にあり得ない。おのれレオナ――
と、そこで耳にぬるりとした温かく柔らかい感触が走り、ハクの思考がびくんと中断された。
「ひゃいっ!? ろ、ロクコちゃん、そこはだめぇ……」
「綺麗な、んちゅぷ、耳、ですよ? 姉さまの味がします」
鼓膜が超至近距離のささやきで擽られ、直接耳穴をちゅぷちゅぷと舌でほじくられる音に思考がかき乱され、脳が快感に震える。愛しいロクコのささやき声が、可愛らしい舌の奏でる音が、これほどまでに脳を揺さぶるとは知らなかった。
耳穴、やば、あ、あ、舐め、ひゃぐ、あ、う、じゅぼって、じゅるって、凄い……ッ! 舐められる音で何も聞こえなくなって、耳が支配されてるよう――!?
「だ、だめロクコちゃん……耳、耳弱くてっ、これ以上舐められると……!」
「ああ、弱点だったんですか? じゃあ、こんなのはどうでしょう……あむ」
「にゃひっ!? み、耳噛んじゃ、あぁぁああ……!」
蕩けさせられる。ロクコに、脳が、とろとろにされてしまう。
すっかり赤い顔と耳に、切ない顔を隠すこともできず、ハクはロクコにされるがままにキスされていく。やばい、これは、なんというか、自我が保てなくなる勢いでヤバい。
「……100回、っと」
「……ぁ……」
そして、約束の100回が終わると、ロクコはハクから少し恥ずかしそうな顔をして離れる。……100回のキスを受けたハクは、イスに座ったまま完全に脱力してしまい、天井を見上げたまま腕が上がらない程になってしまっていた。
「……姉さま、よだれ垂れてますよ?」
「ひゃ、ひゃう。ろ、ロクコちゃん……い、いつのまにこんなに成長して……っ」
「ふっふっふ、私だって成長するんですから!」
ドヤ顔で答えになってない回答をするロクコ。
と、ふとロクコはひとつあることを思いついたようだ。
「……もう100回しとこうかしら。いや、200回、いやいや300回……?」
「ひゃっ……!?」
結局、その日ハクはすっかり骨抜きにされてしまい、帰宅するロクコ達を見送ることができなかった。
最終的にロクコがハクに何回キスしたのかは、二人だけの秘密である。
(100回が1セットだけとは一言も()
あ、コミカライズ2話目が更新されました。ゲロメロンやゴブ助が見せ場すぎる。ランキングタグでリンク貼っといたのでよければどうぞ。
……ゴブ助の顔について? うん、私も絵ができてから描写してたの思い出したんだよ。コミカライズ版はこのゴブリン顔な世界線なんだよ。
それと、書籍化作業期間突入のためまたしばらく週1更新になります。N-Starの方は引き続き週2更新です。……冷やし中華はそろそろ外す時期だろうか?)