運命は切り開くもの
(神の掛布団さんは所有者の幸運値を反映して都合の良いことが起きやすくなる効果があるんだぜ。
具体的には30%の確率に勝ったりな)
#Sideロクコ
ケーマが部屋から出て行った後、少し考えてロクコは「今日は絶対添い寝する、絶対にだ」と気持ちを新たに部屋を出た。
今日はもう完全に添い寝の気分になっていた。しかしケーマは帰ってしまった。もやもやする。ならどうすればいいか? そう! 自ら行けばいいのだ!
というわけで、夜這いをかけるべくロクコはケーマの部屋までやってきた。
「入るわよケーマ!」
「うお! ちょ、ちょっとまて!」
少し焦ったような声で待てと言われたので、たっぷり10秒待ってから部屋に入る。
ちなみにケーマに割り当てられた部屋は物置みたいな殺風景な部屋だ。ベッドなど洒落たものはなく、オフトンが1組敷かれているだけ。こんな部屋でも高級なガラス窓がついてるあたり、さすがは白の離宮といったところか。
そんな部屋で、ケーマはジャージを着たままオフトンに座っていた。
「ロクコか。どうした?」
「ええと、その……」
ここで素直に夜這いに来ましたとでも言えたら苦労はしない。無計画すぎた。
が、そこでロクコは閃いた。
「ケーマのせいで眠れないのよ。シエスタ使ってもらおうかと」
そう、眠気を取り除いてすっきり起きてしまったのなら、眠気をぶち込んですやすや眠ればいいのだ。そしてケーマはそのための魔剣シエスタを持っている。
これにはケーマも感心した。
「おお、その手があったか。んじゃあロクコの部屋に戻って」
「そこにオフトンあるじゃない。ここでいいわよ」
「えと」
「何か問題ある?」
「……たまたまなんだが、予備が無くてな。オフトンその1個しかないんだけど」
「……! へぇ、そう」
ロクコはピンときた。これは神の掛布団の効果がまだ生きていると。神(の掛布団)は言っている、ここで添い寝する運命と。
「ケーマ、シエスタを用意してそこに寝なさい」
「え? おう」
ケーマは枕元に魔剣シエスタを置き、オフトンに仰向けに寝転がる。
にやりとロクコは笑った。
「おーっとごめん躓いちゃったー!」
「ぐふぅ!?」
明らかにわざとケーマに向かって倒れこむロクコ。エルボーが見事みぞおちに入った。
これまた偶然にも、新品でまだゴーレム化していないジャージだったようだ。ダンジョンバトルに勝ったし気分一新、新調しようとしたのかもしれない。
「お、おごご……」
「あーごめんケーマ! 痛い? 痛いわよね、ダメージよね! 神の掛布団つかって回復しなきゃね! あ、それとシエスタ、出力最大!」
言いつつ、うずくまるケーマの隣に添い寝するように横たわり、枕元の魔剣シエスタに魔力を注ぎ込むロクコ。同時に神の掛布団を【収納】から取出し、自分とケーマにかかるようにする。
「ちょ、おまっ……zzz」
「お休みケーマ……zzz」
シエスタのばらまいた眠気がケーマとロクコを襲う。こうして、ロクコはケーマとの添い寝に成功した。
*
というわけで、夢の世界。
神の掛布団によって作り出された、ロクコのロクコによるロクコのための夢空間。
「お・ま・た・せ、ケーマ」
「おうロクコ。どういうことか説明してもらえるのか?」
「どういうことって何を?」
「はぁ……まぁ、いいか。どうせ夢だし、ここでロクコに聞いたところで正解が得られるわけなかったな」
ちなみに今回の夢については、前回から検討に検討を重ねた結果、『「あれは夢だった」としてケーマの記憶に残る』タイプにしてみた。(ロクコの方は当然ばっちり記憶に残る)
ゆえに、今回はケーマの着せ替えパラダイスは無しである。ただしケーマが自らする場合はその限りではない。
「それにしてもケーマ、この格好……」
「……」
ロクコの姿は寝る前と変わっていなかった。今回は『ケーマの夢』という建前のため、ケーマの思い描いた格好になっているはずなのに、だ。
「そんなに気に入ったの? ねぇ、ねぇ?」
「い、いいだろ別に。というか、そんな恰好で部屋まで来るんじゃない、誰かに見られたらどうする」
「別にみられたって減るもんじゃないわよ?」
そう言うと、ケーマは少し頬を赤らめてそっぽを向き、
「……他の奴にそんな格好見せたくないんだよ。ったく」
と呟いた。
なんということだろう。夢の世界故にメニュー機能で録画できないのが悔やまれる。
「ケーマ、ケーマ、今の。今のもっかい言って?」
「言わせんな恥ずかしい」
「えー? 良いじゃない別にー」
そう言ってケーマに抱きつくロクコ。すりすりと厚くもない胸板にすりついてから、ひょいと顔を上げてケーマを見る。
どくんどくんと胸の音がする。それがどちらの音かは、分からなかった。
意を決して、ロクコは口を開いた。
「ケーマぁ……ちゅーして?」
「足にか」
ケーマは殴られても文句が言えないと思う。
「なんで足なのよ唇に決まってるでしょ馬鹿なの? 馬鹿でしょ」
「いやでも俺は足にキスしたいんだが?」
「……」
「……」
しばし見つめ合――もとい、睨み合う2人だったが、はぁ、とロクコがため息をついた。
「じゃあ全身にキスする流れで足にもするなら許すわ。でも最初は唇で」
「わかった」
「んむっ……!」
言うや否や、ケーマの唇がロクコの口を塞いだ。
……
…………
「おいロクコ」
つんつん、と頬を突かれる感触に、意識を取り戻すロクコ。
「ん、ぁ、意識飛んでた? ……んー……」
「ロクコ? お、おい、んむぐっ」
目の前のケーマの頭を包むように抱き寄せ、何度目かわからないキスを交わす。
その感触に、自然と顔が笑みを作る。いろんなところにキスしたけど、やっぱり唇同士が一番好きだ。
「……ぷあっ、はふ……おいし……♪」
「お、おいロクコ? その、何寝ぼけてるんだ……?」
「……へ?」
裏返った声に目をしっかり開けて見てみれば、ケーマの顔は真っ赤になっていた。あれ、おかしい。こんな反応は最初の数十回くらいまでだった気がするんだけど。
というか後味がなんかしっとりしているというか。
あれ、というかいつの間にオフトンに移動したのかしら。
あれ、なんか窓の外が眩しい。
あれ。
……
……げ ん じ つ ?
ロクコは事態を把握した途端、顔を真っ赤にした。
「け、ケーマ!? ち、違うの! その、大きなメロンパンがね!?」
「おっ、おう! メロンパンか、そうか! いやぁ夢の中でそんなもん食べてたのかー!」
「そーなのよ、いやー、すごいメロンパンだったわ! あははこれは事故ね!」
「メロンパンなら仕方ないよな! うんうん」
ばばっと掛布団を弾き飛ばすように起き上がり、正座して言い訳するロクコ。
ケーマもそれを受け入れ、同じく正座してうんうんと何度も頷く。
2人揃って真っ赤な顔になっていた。ついでにロクコは涙目にもなっていた。
一通り言い訳しきったところで、気まずさに目を合わせられず、お互いにそそそっと背中を向けあう。
「……あとで姉様に100回キスしてくるわ」
「お、おう……」
こうして、今回のダンジョンバトルにまつわる色々なあれこれが終わった。
(次の日曜更新できる確率は40%くらい。
尚、N-Starの方は確実に更新されるもよう)