勝利者の特権
(ロスタイムだからセーフだよ!)
「んきゅ。それダミーコアっきゅか?」
「ん? あー……」
そういえばミカンとアイディには俺が異世界の勇者であることを言っていない。
って、大魔王も見てるんじゃないかコレ。あんまり俺が『勇者』ってのを教えたくないんだが。……いや、さっきハクさんの時にノイズが入ったのから推測するに、こっそりちゃんと隠してる可能性が高いが。
ミカンとアイディに言うかどうかは――よし、言わないでおこう。別に言う必要無いし。
レベル上げは帰ってからこっそりダミーコア壊してもいいし。
「そうだな。ダミーコアじゃないかな」
「んきゅ、そっか。おまけっきゅね! さすがパパ、太っ腹っきゅよー」
「そうだな。太っ腹だな。……ロクコ、預かっといてくれ」
「あ、うん」
と、俺はダンジョンコアをロクコに渡した。別にコアを壊すのは今じゃなくていいだろう。むしろダンジョンコアの『父』の顔を確認すると、それも想定内と言わんばかりの平然とした顔をしていた。
『さて、それじゃあそろそろ564番コアを起こそうか』
そう言って、『父』がパチンと指を鳴らす。564番コアとアイディへの通信が開いた。
『はっ!? あ、え、あ……? ……あ!?』
「――ッ! あっは♪」
意識を取り戻して狼狽える564番コア。そして、やたら楽しそうなアイディ。いい笑顔だ。
『な、な、な……!? 負けた? 俺様が? なぜだ!? 600番台が500番台に勝てるわけないだろう!? 何をしたクソガキぃ!!』
「いいわよ負け犬。素晴らしい遠吠えだわ」
『がぁああああ!』
「あっはははっ! あはははは! 愉快、愉快だわ! 教えて? どんな気持ち? 悔しい? 悲しい? 情けない? ねぇ、年下の子供に手加減されて生かされて、恥ずかしくて自害しちゃいたい? だめよ、勝者は私。分かるわよねその意味が」
『くそ、くそ、くそぉおおお!! どうして、どうしてぇえええ!!』
「惨め! なんて惨めなの、凄く良いわ!」
せせら笑うアイディ。とても楽しそう、いや、愉しそうだ。
「……おー、アイディノリノリね」
「ロクコ。お前がたきつけたんだろ、どうにかしろよ」
「……ああいわないと564番殺して勝利だったじゃない? さすがに殺す必要までは無いと思ったから言ったまでよ。結果として564番も生きてるし、アイディも楽しんでる。Win-Winっていう奴よ」
「片方思いっきり負けた結果がこれなんだけどな」
モニターの向こう側で『がぁあああ!? 殺す殺す殺す!』と吠える564番コアに、「完璧な小物発言ね! 雑魚の才能が有るわ!」とたまらなく嬉しそうなアイディ。
うーんヒートアップしてるな。まぁ別にいいけど。俺に関係ないところで好きにやってくれ。
『はいはい、2人とも一旦ストップ。僕の話を聞いてくれるかな?』
『……!? ……は、ははっ……!』
「ああ、申し訳ありません父上。564番が愉快すぎてつい揶揄ってしまったわ」
ここで564番コアはようやく『父』の存在に気付いたのか頭を下げて静かになった。
ちなみに土下座かってくらいに頭を下げている。そりゃまぁダンジョンコアから見て頂点の存在の前で醜態を晒していたんだもんね。仕方ないね。
『いやぁ、今回は残念ながら負けちゃったね564番』
『はっ……大変申し訳ありません! まさか父上が見られているとも知らず、このような失態……!』
『6番、どう思う?』
『はっ。それ以前の問題かと。おい564番。父上に見られているから以前に、儂が見ていることを知らなかったとは言うまいよな』
『…………』
黙り込む564番コア。そりゃそうだ、開始時点に挨拶してたもん。しかも勝利を捧げるとか言ってなかったっけ? こりゃ言い逃れ出来ないな。
『大変申し訳なく……!』
『フン。まぁ元々貴様には期待しておらんかったわ。なにせ、相手が666番――アイディだからのぅ。そこに、ハク一押しのマスターが手を貸すとなれば、それこそ500番台であろうとこうなることは目に見えておった。400番台、いや300番台ですら危ういだろう。のう、ケーマとやら』
「え、あ、えーっと。アイディのお蔭ですよ。ははは」
『うむうむ。裏切者の派閥の者にしては分かってるじゃないか。どうだ、こっちに来ないか?』
『まちなさい6番。ウチの派閥から引き抜きとかふざけてますか? 死にたいようですね』
『ククク、替わりに564番コアをくれてやるぞ?』
『いりませんよそんなゴミ。ケーマさん、ダメですからね? あなたの才能は私の元で使い潰、発揮させるべきなのです』
ハクさん。今、使い潰すって言ったよね?
『さてと。それで564番の敗因は、自分で分かるかな?』
『……も、申し訳ありませぬ! どうして敗北したのか……俺様のダンジョンは完璧だったはず、100年以上の間、腕自慢を自称する冒険者どもを返り討ちにしてきた実績があるというのに!』
ああ、まぁ、そりゃ冒険者相手ならね。でもこれ、ダンジョンバトルだから。
『ケーマ君。教えてあげてくれるかい?』
「……タダでですか?」
「ちょ、ケーマ!?」
ロクコが横から口出ししてきたが、これは譲れないな。俺はロクコを手で制す。
『さっきおまけをあげただろう? それくらいサービスしてあげてもいいじゃないか』
「うーん。でもここで敗因を教えたら、次から対抗してくるという事じゃないですか。折角気付いてないのに勝てなくなりますよね? しかもこの場でということは魔王派閥全体に洩れそうです。で、その場合の損失を考えたら明らかに割に合わないので教えられません。答えても良いんですが、それに釣り合う十分な見返りを要求したいところです」
『なるほど。一理あるね』
そう。大魔王である6番コアがいる場で「ダンジョンバトルに向いたダンジョンじゃないから」と答えを言ってしまっては、それが魔王派閥全体に広がってしまう――というのは建前だけどな。
6番コアが優秀だというなら、その弱点くらい見切ったはずだ。今言ってるのはできるだけ高く売ろうというただの値段吊り上げである。むしろ6番コアに広められて価値が暴落する前に売り抜けたい。
『じゃあボスモンスタースポーンとかどうだい?』
「……ボスモンスタースポーン、ですか? うちのカタログには載ってないですが」
『登録した任意のモンスターをスポーンさせてくれるという、まぁネームドの復活機能を無料で使えるようなものだよ。まぁ1体ずつしか存在できないし、ボスの強さに応じて復活までのクールタイムがあるけどね。で、これの対象のモンスターを自由に設定できる特別なやつを1つあげよう』
……! これは凄いものが出てきたな。例えば、ウチのダンジョンのドラゴンゴーレム。あれを設定して使いまわせるってことだ。壊されたとしてもわざわざ手作業で作り直さなくていいってことになる。
あるいは、ミスリル――いや、オリハルコンの塊でゴーレムを作ったとして、それを倒したらスポーンで増やせるということ。まさにオリハルコンの鉱床だ。
「えーっと、それは設定したモンスターを切り替えられるということで?」
『そうだよ。あ、でもクールタイム中は切り替え不可なのと、ネームドの復活と違って記憶は引き継がないからね』
なるほど。つまり教育した分はリセットされると。オリハルコンの複製には使い放題だな。クールタイムがどのくらいかは気になるが……
……ん? って今さりげなくネームドの復活って言った? 普通に知ってるような感じで言ってたから、普通にできる事なんだろうか。後で調べてみるか。
「ちなみにドラゴンとかを設定した時のクールタイムはどのくらいで?」
『ただのドラゴンなら1週間、レッドドラゴンなら2週間くらいかな。ゴブリンキングとかなら8時間とかで復活すると思う。よっぽどのモンスターじゃない限りは心配してることにはならないと思うよ。DPを注げばその分復活も早くなるし』
かなりいいものだな。よし、これを貰うとしよう。
「中ボスと大ボスの分で2つください」
『ケーマ君の心臓、毛が生えてるって言われない?』
少し呆れられつつも、くれた。いよっ、お父さん太っ腹!
(実は今日はN-Starの方の更新を待ってたという(ことにした)のはここだけの話。
オッサン主人公の方、更新されました。↓にランキングタグでリンク貼ってあるから是非どうぞ)