知恵の門と四天王
(四天王とか強敵に違いない!)
#Side ケーマ
ダンジョンの攻略を進めるにあたり、俺の得意な人海戦術で突破できない関門というのはいくつもある。
そのうちのひとつが『知恵の門』だ。
俺がゴーレムを使って作った似非『知恵の門』と違って、こちらは解答が可能であれば、普遍的に回答可能であればあるほど強固な壁となり、立ちはだかる。
さすがに回答が不可能でもない限りリスごときでは破壊できない壁なのだが――
「ケーマ、『知恵の門』だけど」
「お。さすがにこれはリスじゃ突破できないか?」
「なんか普通に突破したから」
……俺が問題を見るまでもなく、ロクコが回答したらしい。
なんてこった。出番が無い、楽だ。
「え、どんな問題だったの?」
「普通にクイズだったわよ? 選択肢付きの。3回で突破したわ」
アホである。選択肢があったらその回数回答すれば必ず突破できる。
通常の冒険者相手なら、回答権は1回だけ。
だが、これはダンジョンバトル。手駒はいくらでもいるのだ。ロクコはこれを総当たりで攻め、リス2匹の尊い犠牲の元、特に問題の答えを考えるまでもなく突破した。
残りはまだ130匹以上いるのでさして痛くもない。
なお設問は、魔王派閥の地区特有の風習に基づいた内容であったようだ。風習を調べれば分かる内容であるというのもあるが、本来その風習など分かるはずもない冒険者でも選択肢があれば確率で突破できる。それゆえに『知恵の門』としてギリギリ成立していたようだ。
「すげぇっきゅね。ロクコ、躊躇なくリスを使い捨てたきゅよ」
「ふふふ、私ってば優秀なダンジョンコアだからね! なんたって182位だもの! 600番台だけなら2位よ!」
まったく、最下位から出世したもんだ。
「というかリス1匹だけで挑戦可能にした方が悪い」
「基本1人とか1パーティーとかで攻めてくるのを想定してたんだろうな……魔王派閥らしさってのが分かってきたよ」
……しかし拍子抜けすぎる。500番台コアが相手だからと防衛戦力に勇者まで借りたというのに、ウサギダンジョンの方、もう警報といても良いんじゃないかなぁコレ。
いつもより長い襲撃に警報タイムが解除されなくて原因を探しに出歩きそうだし。ワタルに奥まで来られたら正直面倒なことにしかならん。
一方ダンジョン攻略の方はさらにどんどん探索を進める。ダンジョンの探索は5層を制覇、6層へ。アイディも悠々と最短距離を歩いてダンジョンを進み、今『知恵の門』についたところだ。
開きっぱなしの扉と、付属の問題を見るアイディ。
『人間牧場の……ふぅん。こんな問題だったのね。これは正直魔王派閥でないと分からないと思うのだけど……ロクコ、良く正解が分かったわね?』
「ふふふ、私にかかれば楽勝だったわ」
『まぁ! 私に興味があって調べてくれたのかしら? 仇敵のことを知りたいと思うのは当然よね、嬉しいわ』
「と、当然よ! ふふん」
うん、それ今度魔王派閥の質問されて困るフラグだぞロクコ。
「おっと、今6層でボス部屋を見つけたわ。活躍を期待してるわよアイディ」
『ふふ、任せなさい?』
「早く行かないと私が倒しちゃうわよ」
『それはそれで楽しみね。ロクコの戦いが見たくもあるわ……どちらにせよ急がないとダメね』
戦闘が強い仲間は頼もしいな。
と、そこでニクが俺に何か言いたげな目線を向けていた。
「……」
「ん? どうしたニク」
「……わたしも、戦いに行きます、か?」
「いや、今は群体操作に集中してくれ」
普段の生活の中ではニクを頼りにしてるけど、今回はダンジョンバトルだしな。
リス100匹の群体操作とかそのあたり得意なニクはそっちで活躍してほしい。
と、ボス部屋の方はどうかなっと。
「あ」
「ん? どうしたロクコ」
「えーと、ゴメン、倒しちゃったわ。次の階層進めるわね」
えぇ……
「ちなみにどんなボスだったんだ?」
「ブラックミノタウロス。四天王の1人とか言ってたけど喉詰まらせたら楽勝だったわよ」
おう。俺がハクさん相手にやった窒息プレイを使ったのか。
だがミノタウロスなら仕方ない。倒し方を知っててそれをやっただけだ。何も悪くない。ブラックってことは闇属性だったのだろうけど息をしなければ死ぬ弱点がある方が悪い。
「四天王ってことはあとボス3つ居るってこときゅかね?」
「鋭いなミカン。俺もそう思う」
「あら、なんかすぐ次の階ね。というかほぼボス部屋しかない階層みたいよ? もしかしてあと3層それかしら」
6層目は休憩部屋とボス部屋しかなかったようだ。で、7層もボス部屋がすぐ見つかった。
……これは6・7・8・9層がそれぞれ四天王のボス戦のみフロアで、10層目に564番コアがふんぞり返ってるって感じかな?
ボスラッシュだけど探索が不要ってことか。あれ。これあとアイディに任せていいんじゃないかな。
「とりあえず四天王の2人目がどんなんか覗きに行こうか。さっきの四天王は見逃しちゃったし」
「そうね。ニク、イチカ。とりあえず30匹ずつで様子を見に行きましょう」
「はい」「了解やでー」
「ぼ、ボクも10匹くらい動かすきゅよー!」
この後の探索が無いのであれば、もう全部使い切ってもいいのではなかろうか。と思って特に指示を出さず見守ることにした。
リスをぞろぞろ進めてボス部屋に足を踏み入れると、そこには幽霊――ゴーストが居た。
『よっ……よ、よくぞ来たな! 我こそは四天王が1人、怒のヒニィール!』
少し噛みながら、ゴーストはリスたちを相手に言う。
いや、これはリスを通して俺達に言ってると見た方が良いだろう。じゃなきゃリスの集団に話しかける寂しいゴーストということになってしまう。
『トンデは四天王の中では……力自慢のバカではあったが、まさかあのような倒し方をするとは思わなかったぞ! だが、我には効かぬ、ゴーストだからな!』
……ゴーストが相手か。確かにこれはリスでは勝つ手段が無いな。
「一同、手前の休憩部屋まで退避!」
「はい」「わかったでー」「んきゅー」
『えっ、あ、ちょ、お、おい!? どこへ行く!?』
ロクコの判断は素早かった。リスたちは一糸乱れぬ動きで手前にある部屋まで戻る。
『逃がすかぁ! 壁すらすり抜ける我から逃げられると思うなよ畜生共!』
そして、それを追いかけてくるゴースト。
休憩部屋まで追いかけてくる――
――ボス部屋は、ボスが不在だと用をなさないのになぁ。
「間抜けねこいつ」
「バカなんきゅよきっと」
二手に分かれたリスたちは、片方は追いかけられ、もう片方はこっそりとボス不在のボス部屋を素通りした。
……1人とか1パーティー相手なら、壁を突き抜けてボス部屋の外にすら追いかけてくるゴーストとかすごい厄介な敵なんだろうけどさぁ。これダンジョンバトルだってこと完全に無視してるというか、意識されてないというか……
まぁ、どうせゴーストとかアイディが炎の魔剣でずんぱらりんと切り捨てるだろうし、先に奥を見に行くくらいの気持ちで進んでしまおう。すすめーすすめー。
次の階層もやはりすぐボス部屋。3人目の四天王がそこに居た。
『ヒニィールをかわしてここまでよく来たわね。私は四天王が1人、哀のナツノ。でもリスを喉に詰まらせての窒息死は嫌だから大人しく道を空けるわ! 許してください!』
3人目の四天王はサキュバスだったが、まさかの戦闘拒否。
ここを死守せよとか言われてるんじゃないんだろうか……命令無視とかダンジョンモンスターがしていい事じゃないぞ。
『……正直、勝ち目ないんで……ニンゲン相手なら魅了でなんとでもできるけどリスとか……群れとか……あ。それと実は私ダンジョンの外からきたモンスターなんでダンジョンから離反しちゃえば別に命令従う必要ないんで。むしろ離反するんで。ささ、どうぞどうぞ』
ま、まぁそう言う事なら無駄に命を奪う必要も無いだろう。お言葉に甘えて素通りさせてもらった。
……しかし離反かぁ。そういうのもあるんだな。
笑顔でニッコリ見送られつつ次の階層へ。サクサク進むぜ。次で四天王の4人目か。まさか5人居たりしないよな?
そして9層目。四天王の4人目。
「まさかここまでたどり着くとはな……俺こそが四天王が最後の1人、楽のムーシ! 蝙蝠の群れに変化できる俺に喉への窒息攻撃は効かんぞ、さぁ掛かってくるがいい! この爪と牙で薙ぎ払ってくれようぞ!」
吸血鬼! 吸血鬼だ!
なるほど、蝙蝠の群れになられたら喉へ詰まっても大丈夫に違いない。
うちの幹部と違って攻撃力0オプションなんて確実についてないだろうし、これは強敵だぞ。
「ねぇケーマ。蝙蝠の群れとリスの群れってどっちが強いかしら。この、室内で」
「……試してみたらどうだ?」
「そうするわ」
なんか少しだけ吸血鬼を応援したくなってきちゃったな。
564番コアが所有し四天王を名乗るほどの吸血鬼とあらば蝙蝠だけじゃなくて霧になったり狼になったりするオプションもつけてあるに違いない。……つけてあるよね?
(あ、新作、N-Starの方、週1更新かと思ったら週2更新(日・水)でした。
だんぼるに被せてくるとは……これが商業戦略というやつか。
あ、それと冷やし中華の方は完結しました。サクサクと軽くよめるコメディ18話完結。「完全にタイトルが出オチしてるコレをむしろどうやって18話まで!?」と気になった方とかは是非どうぞ。
しばらくはランキングタグでリンク貼っときますので。評判よかったら続くかもしれません)