帝都再び 2
ミーシャに先導されて移動する際中、チームバッカスの面々がロクコにこそこそと(幌馬車内なので特に内緒話にする必要はないのだが)話しかけていた。
「なぁ、嬢ちゃん。今後は様付けで呼んだ方が良いのか?」
「え? なんでよゴゾー。気にする必要は無いわよ?」
「ロクコ様ー……うん、イチカとクロが普段そう呼んでるしあんま違和感ないね」
「もう。ロップもからかわないでよ」
「僕はいつも通りロクコさんとお呼びしますね!」
「あ、ワタルは別に様付けでいいわよ」
なんでかワタルだけ対応がひどいのは、多分俺の影響か。それでこそ俺のパートナーよ。まぁワタルも嫌がってないしいいよね。
そして、皇城へやってきた。
ハクさんの離宮とは違い、石レンガの灰色が目立つ実用性重視の城壁があった。もっとも、実際にこれが活躍した時にはもはやピンチどころではない気もするけど。
ミーシャの先導ということもあり、スムーズに城の中に迎え入れられる。
……そういえば、ツィーア家の紋章つき馬車のままなんだけど、これで良いんだよね?
なんかツィーア家とズブズブに癒着してます的な印象を与えそうだけど、実際ツィーアとよろしくやってるわけだし。
と、外側から2番目の門を入ってすぐのところでミーシャは止まった。馬車も合わせて止まる。
「はーい、そんじゃ馬車はそこらへんで降りてくださいねー。えーっと私も騎獣を預けて……あ、サリー。丁度いいところに。この子宿舎までよろしくー」
「ミーシャ、いきなり手綱を押し付けないでください。……お、ケーマさん。お久しぶりです」
おっとハクさんのパーティーメンバーでリビングアーマーで騎士団長のサリーさんだ。というかまんま鎧なんだけど大丈夫なのかな。いや、大丈夫なんだろうけど。
……あ、サリーさんなら隠れる必要は無いよな。サリーさんは嘘つくまでもなくウチの宿に来てたし。
「お久しぶりです。シキナもいますよ」
「ご、ご無沙汰しておりました、サリー様!」
「シキナではありませんか。帰ってきたのですね、御父上にはもう挨拶したのですか?」
「い、いえ、今着いたばかりでありまして! 後ほど顔を出すであります!」
びしっと敬礼して言うシキナ。そこにワタルがぺこりと頭を下げて入ってくる。
「サリーさん、休暇はもういいんですか?」
「おや、ワタルではないですか」
ミーシャと顔見知りだし察してたけど、そもそもハクさんから依頼を受けている都合上、ハクさんのパーティーメンバーと知り合いなんだなぁワタル。
「ええ、十分休んだので復帰しました。また稽古をつけてあげましょう」
「……サリーさん本気で殺しにかかってくるから怖いんですよねぇ」
「その方が効果があるではないですか。勇者のワタルはそのくらいで丁度いいでしょう?」
何か問題でも? と言わんばかりに胸(ただしプレートアーマー)を張るサリーさん。地獄の特訓でも受けてそうだな……主人公ムーブしてるなぁワタル。
「まぁサリー、そろそろ私のお使いをお願いできますかにゃー」
「は? 騎士団長を顎で使おうとはいい度胸ですねミーシャ」
「えー? 私とサリーの仲でしょ?」
ごろにゃーん、とすり付くミーシャを、サリーさんは頭を掴んで引きはがした。
「ハク様から伝言です。ここからは余計なことはしないで私と交代するように、とのことですよ。どうせまた余計な気を回そうとして失敗したんじゃないですか? さっさと帰ってギルドマスターの仕事でもしててください。……どうせ、溜まってるんでしょう? 仕事」
「うぐっ……わ、わかりましたよぅーだ。そんじゃケーマさん、また今度手合わせでもしましょう! 次は負けませんので!」
そう言って騎獣に乗りなおし、ミーシャはブンブンと手を振って帰って行った。
……あいつ、余計な事しか言わなくないか?
「ケーマさん、ミーシャさんにも勝ったんですか。僕でも勝率半々なんですが」
「お前と同じような感じでな」
「さすがケーマさんですね!」
「……ふむ。俺もロクコと同じように様付けでいいんだぞ?」
「さすがケーマ様ですね!」
「ごめんやっぱやめて。ワタルに様付けされるとか鳥肌立つわ」
「自分で言っといてひどいですね」
はっはっは、と笑うワタルを隣に、サリーさんの先導で城の中へ入っていく。
……いよいよかぁ。というか呼ばれたはいいけど、結局どうすんだろ。今更だけどこんな普通の冒険者の格好で良いんだろうか?
と思っていたら、謁見室とかではなく、普通の客室っぽい部屋に案内された。
「とりあえずは男爵用の客室です。1人1部屋用意しましたので今日のところはここを使ってください。謁見と授爵は明後日になります」
「あれ、今日この後ってわけじゃないのか」
「ケーマさん……皇帝陛下がそんな暇なわけないでしょう? 聞いていた予定よりだいぶ早く着かれて調整が大変なんですよ? それでもこの一行だからこうして優先してるんです」
そういえばコーキーは予定を切り上げてきたんだったっけ……なんかゴメン。
「って、皇帝?」
「ええ。皇帝陛下です。一応、ハク様の子孫ということになっていますね、もちろん謁見にはハク様も立ち会いますが、授爵は皇帝の権限で行うべきことなので」
そうか、言われてみればハクさんは離宮の方に引っ込んでいる存在と言っていた気がする。そうなると実際は頂点がハクさんとして、皇帝という看板が別にあることになるのか。ウチの村で俺がお飾りの村長をやってるみたいに。
……ちょっと一方的に親近感湧いちゃうな。いやまぁ村長と皇帝じゃ大違いなんだけど。
「それに、明日は衣装等を選んで謁見の手順を覚えてもらいますので覚悟しておいてくださいね。まぁ、今日のところはゆっくりお休みください」
あ、そういう準備やリハーサルはしてもらえるんだ。というか、そのために明後日にしてるのか。しっかり気配りが行き届いてるな。
「食事は食堂で食べますか? 運ばせますか?」
「あ、じゃあ運んでください」
「分かりました。伝えておきましょう。後ほどメイドを派遣しますので、他に用があればそちらにお申し付けください。……あと、迂闊に出歩かないよう。許可なくうろついてると密偵として逮捕されますので」
そう言って頭を下げ、サリーさんはガションガションと去って行った。
「……ちゃんと準備期間がもらえるのはありがたいな。ロップ、おめぇドレス着るのか?」
「あー、そうなるのかな? ゴゾーもかしこまった服着るんだよね……?」
「まぁそう気負わずとも大丈夫ですよ! 皇帝陛下が話してる最中にくしゃみしても別に処刑になったりはしませんから」
処刑されないけど、投獄まではされるのかな? と、ゴゾーとロップに対してつまらない冗談を言うワタル。
とりあえず俺達は、廊下を挟んで4対、計8つの部屋からそれぞれ好きな部屋を選ぶことにした。別段部屋ごとに違いはないんだけどね。オフトンと机と壺と。割とシンプルな部屋だ。
寝具がオフトンなのはありがたいね。
「にしても、ロクコの部屋も同じ部屋なんだよな。てっきりハクさんの離宮に呼ばれるもんかと」
「夜に呼び出しがきたりするかもね?」
「あり得るな」
ともあれ、明日1日の休養にならない休養を挟んで、明後日はいよいよ謁見だ。
……俺が何で呼び出されたのか、ちゃんと思い出しておかないとな!
いや、覚えてるよ? ホントホント。
(来月、3月25日に7巻発売予定!(絶賛書籍化作業中)
今回はもはやほぼ書下ろし。約9割は新規に書いてますよ、ハハハ、ふぅ……)