鍛冶の町コーキー 1
とりあえず、盗賊どもは途中の宿場町で売り払った。
臨時収入が入ったため懐は温かい。とはいえ、元々全く寒くないので全額お小遣いだ。
……いやまぁ、安く買いたたかれた感はあるけど、歩きで連れてくのは面倒だったからな。盗賊の歩く速度に合わせて移動が遅れるのも嫌だったし。
「で、ゴゾー。コーキーってのはどんなとこなんだ?」
「ああ、鍛冶の町と呼ばれてる。俺やカンタラの実家もあるから、少し長めに滞在するぞ」
「ほほう。……鍛冶の町とか、ドワーフ多そうだな」
「別名を『ドワーフの里』っつーくらいだからな。元々のドワーフの里はもっと山奥にあるけどよ」
そうか。ゴゾーやカンタラの実家があるのか。それなら1週間くらい滞在してゆっくり寝て行ってもいいかな?
「あと酒場も多い。ツマミはマメとイモばかりだが。……カラアゲと揚げポテト食いてぇな」
「揚げ調理できる料理人はいるのか?」
「町を探せば1人くらいはいるんじゃねぇかな……いや、いたら話題になってたよなぁ。知らなかったけど揚げができるとか宮廷料理人クラスだもんな……」
ゴゾーたちは盗賊の臨時収入を酒場で使い果たすつもりのようだった。
あと揚げ調理なんだが、食の神イシダカの教えでは免許制だ。
焚火で自在に揚げ調理ができなければ免許は発行されない。おそらく火事になりやすいからあまり広めないようにしたかったのだろう。
高価な油をふんだんに使って練習できる環境が必要なので、そこでもう必然的に数が絞られる。独学ではできないのでより絞られる。結果的に、食神教の秘儀となっていたらしい。
ウチの村ではキヌエとウォズマが免許取得済みだったりする。パヴェーラから検定員がきて試験して発行してったからな。
「実家へのお土産とかはあるのか?」
「私の方でニホンシュを1本もってきたから、それで十二分だよ」
「おお! 気ぃ使わせちまったなロップ」
「まったくだよ、こういうことはガラじゃないんだってのに」
やれやれ、と肩をすくめるロップに、ロクコが割り込んでくる。
「……ロップってば見た目はガサツっぽいのに案外マメなのよね。これがきっと『いいお嫁さんになる』ってやつなのね?」
「およッ!? か、からかうんじゃないよロクコっ」
「別に冗談を言ったつもりは無いわよ、ぜひ見習わせてほしいってだけで」
ロップとロクコ、だいぶ打ち解けてるな。あれ、ロクコって案外コミュ力高い?
気付かないうちにシキナとも仲良くなってるもんなぁ……ホントいつの間に。って俺が寝てる間か。
*
そんなわけでコーキーの門までやってきた。
こう、帝国内の大きな町は大体作りが似てるよな。石造りの大きな壁に囲われてる。ラヴェリオ帝国の建築様式なのか、時代的な技術力によるものなのかは謎だ。
あるいは魔法で作ると一様にこういう壁になるとかもありうるな。
門については護衛依頼の依頼票もありすんなり入る。商人は荷物の検査があるそうで、門の時点で依頼完了ということになった。
依頼達成のサインと報酬を受け取り、ワタルが戻ってくる。
「よぉ久しぶり」
「久しぶりじゃないですよケーマさん! 本当に道中ずっと僕を商人の馬車の方に追いやって、ひどいじゃないですか!」
「お前が受けた依頼を存分にこなせるよう協力してやったんだ、仲間思いと言ってくれ」
「ふん、まぁいいです。ケーマさんについてあることないこと誇張して吹き込んでおきましたから、『勇者でも勝てない最強の冒険者・ケーマ』の噂も広がるはずです」
何余計なことしてくれてんのお前?
「あ、いや、冗談ですって。ケーマさんがそういうの嫌がるのは知ってますからね。僕らの関係についてはしっかり濁しときました」
「まぁそれならいいけど……んじゃ、ギルド行くか」
と、冒険者ギルドに馬車を向かわせる。
普通にカンカンと鍛冶の音も聞こえてくるあたり、まさにドワーフの里らしい環境だ。
ちなみに女性ドワーフは人間から見たらロリである。合法ロリだ。個人的にだけど、髭モジャじゃないタイプで良かったよ。……まぁドワーフからしてみたらちゃんと区別つくらしいけど。
あと、通りを進むとき、昼間だというのに屋台で立ち飲みしているドワーフや、乾杯している冒険者パーティーもいた。ドワーフが多いが、人間やらエルフやら獣人やらその他やら、とにかくワイワイ酒を飲んでる感じだ。
他の人よりふた回りは大きいのは大体巨人? へぇ、普通の人間かと思ってた。あっちの羽が生えてるのは……翼人なんてのもいたのか。鳥系獣人とは違うんだな、初めて見た。ウチの村にはいないよな。……どっちももっと南の方には多いんだ、へー。人類の分類どうなってんだろ。
「ねぇイチカ。ここは何が美味しいのかしら」
「んー、一応、酒やな。肉やイモやマメもあるけど、みんな酒の肴って感じやね……ロクコ様酒飲めるっけ?」
「あんまり好きじゃないわね。苦いから」
ロクコや、食べ物に興味が出るあたり、イチカに毒されてないか。
というかロクコは見た目が大きくなっても15歳程度。酒を飲んでいい年齢かどうか怪しいぞ? そういえばダンジョンバトルの打ち上げで飲んでたっけ? 記憶にない。
「なら果汁割りとかあるでありますよ? それならロクコ殿でも飲みやすいのでは?」
「シキナ。私思うんだけど、果汁は果汁でジュースとして飲んだ方が美味しくないかしら」
「……まぁ嫌なら無理して飲む必要はないでありますな」
ロクコがシキナを流したところで、冒険者ギルドについた。
「じゃ、荷物下ろしてくらぁ。ワタル、馬車頼むぞ」
「ん? ここはゴゾーが行くのか。……実家があるくらいだし、顔なじみだったりするのか?」
「おう、そういうこった」
配達依頼の荷物を持ってギルドに入る。
酒盛りしてる冒険者とかいるんだろうな、と思ってたのだが、意外にもここの冒険者ギルドには酒場自体が無かった。
「ドワーフの里の冒険者ギルドなのに酒場付きじゃないのか」
「ギルドに併設しなくても周りにいくらでもあるだろ? やる意味がねぇよ。持ち込んで騒ぐことはあるけどな」
それもそうか、無理に酒場を併設して余計な仕事を増やすこともない、と。
荷物をカウンターに持っていく。そこにいたのはぷっくりした幼女……多分女ドワーフだな。うん。化粧してるし、受付嬢としての風格も年季を感じる。
「よぉアニータ! 配達依頼だ、確認頼むわ」
「おっ、久しぶりだねゴゾー! 1年ぶりくらいじゃないかい?」
「ちょっくら他んトコで色々あってな。今度Bランクになるぜ」
「B!? ちょっとギルマス! 来とくれよ、ゴゾーがBランクだって!」
「何ィ! そいつは本当かゴゾー、めでたいな! こうしちゃおれん、酒盛りだ!」
ギルドの奥から受付嬢のドワーフに呼ばれて別の髭もじゃドワーフが。ギルマス、って名前じゃなくてギルドマスターってことだよな。昼間から酒盛りする気満々でいいのか。ギルマスにはサボり癖があった方がいいとかいう規定でもあるのか。
「おうケーマ。ちなみにアニータはギルマスの嫁だから手ェ出すなよ?」
「出さねぇよ。俺を何だと思ってるんだよ」
「幼女キラー。……ああそうか、ドワーフは人間からみたら幼女に見えるって話だけど、ケーマはちゃんと区別つくのか。さすがだな、違いの分かる幼女キラーか」
「いや、え、うん。まぁ、多少はつかなくはないけどその言い方だと俺が変態っぽいからやめて? ちなみにあれで実年齢は何歳くらいなんだ」
「ん? そうだなぁ確か」
俺とゴゾーがそんな風に話していると、受付嬢、アニータにばしばしと肩を叩かれる。
「ちょっとちょっと! あんたゴゾーのパーティーメンバー? ひょろっこいわねぇ」
「え、あ、いやちょっと違」
「アニータ。そいつぁケーマだ。ゴレーヌ村の村長で、パーティーメンバーじゃねぇが俺らの隊長みたいなもんだ。見た目はひょろいが、ケーマのおかげで俺もBランクになるようなもんだからな」
「あらまぁ! ケーマ君っていうの! じゃあゴゾーの恩人みたいなもんじゃないの! まぁまぁウチのゴゾーがお世話になって。ケーマ君も飲んでくでしょ?」
「いや、俺は酒はあまり飲めないんで、ツマミだけで」
「お酒が飲めない!? 何か重い病気にかかっているの? そんな髭もないくらい若いのにかわいそうに……」
「ああうん、もうそれでいいや……」
あ、これおばちゃんだ。見た目ロリだけど中身完全におばちゃんだ。やたらテンションの高いロリおばちゃんに、とりあえず俺は折れた。
結局、実年齢何歳なんだろう。……女性の年齢を聞くのはタブーか。今は諦めよう。
(あけましておめでとうございます。書籍化作業中です。1月7日といえば七草がゆの日ですね。
セリナズナ、ゴギョウハコベラホトケノザ、スズナスズシロ。呪文っぽいですね)