道中2
(今回残念エルフシキナが出てくるため、下ネタ注意です)
ミーカンを発ってから2つ目の宿場町目指して移動中。
今は岩場で、そこかしこに物影があり若干見通しは悪いものの、主要な街道ということで治安はいいというところに差し掛かっていた。
……昨日の宿場は中々に良かった。ちゃんと個室で寝れたからな、野営のテントとは大違いだ。
と、トイレ休憩で止まる。物影があり、敵がいないのであれば丁度いいスポットだ。
少し休憩したらそのまま昼飯にしようということになった。
「ふぅ……」
……人間、生きてる以上は生理現象というのは仕方のないことだ。俺も例外ではない。ロクコはダンジョンコアなので例外である。
「あ、ケーマ師匠。お隣失礼するであります」
「うぉ!? なんでこっち来てんだよそ行けって、使用中だって!」
「まぁまぁ。連れションというのを騎士団で男共がしていてでありますな、自分もやってみたかったのでありますが、今こそ丁度よい機会だと思いまして!」
そう言いつつ俺の隣に立つシキナ。
「ってお前女だろ! できるわけ――」
「~♪」
……あ、そういえばこいつ今魔法薬『フタナール』をひっかぶったせいでアレが生えてるんだった。忘れてた。というかまだ生えてたのか。
「いやぁ、まっこと、便利でありますなぁ! おちん」
「言わんでいい、この破廉恥娘。女の子がそういうこと言うんじゃない」
「おっと、失礼したであります。しかしこれ、慣れるまでは大変だったでありますよ。なにせオシッコの穴が2つになってるわけでして、うまく力を入れないと両方から漏れるのであります。だから下半身にこう、ぐっと」
「だから詳しいところは言わんでいいから。女の子がオシッコとか言わない」
相変わらず放っておくと止まりそうにない奴だ。
「……えーっと。というかそれ、まだ生えてたんだ? いつ消えんの?」
「団長の見立てでは1年以内には消えると言ってたでありますが……もはや完全に自分の一部でありますな。いや、最初から自分の体なわけでありますが。……その、まるで自分の子供のように思えてきて。撫でてやると大きく育つとこ」
「あー、あー、まぁ、それはそれとして、お前帝都の家に一旦帰るって話だったよな? その、大丈夫なのか?」
一応預かった娘さんを傷物――というわけではないのだが、余計なパーツが増えた状態になってしまっているわけで。
親御さんにバレたら何かしら言われそうで、ちょっと戦々恐々としているわけだ。
「まぁ、短期間戻るだけなら隠しきれると思うが……」
「大丈夫でありますよ。なにせ……自分、男を知ったでありますからな! この身をもって!」
「だからそういうところが心配なんだっての!」
アレが生えたのをそういう言い方すんなよ、事実でも。いやホント、頼むよ? 面倒ごとは勘弁だからな。
「しかしまぁ、師匠ともこうして仲が深まった感じがするでありますな! これが連れションというものでありますか。感激であります」
「なんかこう……なんだろう。もう二度としないでくれ。色々精神が削れるから」
「えぇー! ……しかたないでありますな、なら次はワタル先生やゴゾー殿に交じるでありますよ」
次の被害者は俺じゃないようなので、それ以上は言わないことにした。
下手に藪蛇をつついたら困るからな……
*
食事後、ふと、先日フレイムドラゴンを退治する際に俺だけ仲間外れだったことを思い出した。少し気になったので、ちょっとそのあたりどうなのかをイチカに聞いてみることにした。
「おーいイチカせんせー。ちょっと聞きたいんだけど」
「なんや?」
んーと。なんというか、まず気になったのはイグニは警戒されていたのにイッテツがあっさり受け入れられた点だ。
「なんでイグニは駄目でイッテツはOKだったんだ?」
「そら、桁の問題やろな」
「桁?」
俺が聞き返すと、イチカは頷いた。
「格といってもええで。まず、イグニとイッテツやと、イッテツのほうが上な。で、イッテツは格が上すぎるんよ」
「……ますます訳が分からん」
上だというなら、ますますイッテツの方が恐れられるはずではないのか。
「んー、ご主人様にも分かりやすく例えると……小麦粉と畑の違いかな? イグニは小麦粉、イッテツは畑や」
あ、イチカの言いたいことが少しわかってきた。
要するに、一目見てその価値が分かるか、分からないかという違いがあるわけだ。
もっと別に例えるなら、トラックと高層ビル、ダンプカーと地球。当たってダメージがデカいのはどっち、みたいなもんか。……ちょっとちがうか?
「イグニはまぁ、ウチでも分かるくらい分かりやすく強い。イッテツは……わけわからん。とりあえずご主人様と話してるの見て『いい人なんだろうな』くらいしか、な」
「そこまでなのか」
そう言うとイチカは俺の耳元で、俺だけに聞こえるようにこそこそ話す。
「ちなみにご主人様。……魔力限定で言えば、ご主人様もたぶんそっちやで?」
「え?」
「ご主人様って勇者なんやろ。それならそれなりに力があって当然ちゃう?」
「……でも俺、何の訓練もしてないんだが?」
イチカは肩をすくめてため息をついた。なんだよその「やれやれ、ご主人様ってば分かってへんなぁ」みたいなジェスチャーは。
「ご主人様がほぼ毎日やってる【クリエイトゴーレム】。これが魔法やって、忘れてない? あと、瞑想とか信仰とかも魔力を上げる要素になるって聞いたことあるなぁ」
「……まさか寝ることが訓練になってたのか?」
そういえば、最初にダンジョンバトルをやったころは魔力がよく切れてマナポーションを飲みながら【クリエイトゴーレム】を使っていたのに、今やそんなこと全くなくなっている。マナポーションは瓶に使い道あるし味も悪くないしでたまにのんでるけど。
「あと、魔力を使い切ったり、逆にため込んだりを繰り返して回復力や最大量を上げたりっちゅー話もあるな。こっちは真偽怪しいとこやけど」
なるほど、枯渇状態が続くと回復力がアップして、ため込むと最大値がアップする、と。真偽は怪しいけど。
「そんで、これはウチの推測なんやけど……勇者ってので100の才能があったとする。ワタルはこれを体力と魔力に50と50で振り分けたとするやろ? そこでご主人様は魔力に100。どや? 辻褄は合うやろ」
「おう。さすがイチカだ。納得できる話だな」
「あと、ご主人様自分がどれだけ魔法使えるかって分かる? 自分の上限ってヤツや」
「……」
やべぇ、想像つかない。だって、魔力さえあれば『想像できたことは何でもできる』のが魔法なのに、その上限?
そんなの、「はい」か「いいえ」の二択問題で、「あなたの答えは『いいえ』ですか?」みたいな矛盾した設問だろ。
……そういえば前に【サモンガーゴイル】の改編でイチカを召喚しようとして失敗してたけど、あれだって【転移】とかからの改編なら行けるはずだ。魔力が足りれば。
「即答できないんなら、そういうこっちゃ。実際、ウチもゴゾーもワタルも、ご主人様の強さがよく分からんよ。魔力的には」
「肉体的には?」
「服ゴーレム抜きならウチでも押し倒せるで? パヴェーラのチンピラといい勝負して負けるくらいやろ」
あ、負けるんだ。服ゴーレム抜きだと。まぁ魔法使わなきゃそうなる自信はあるね。
「なぁ、俺って実はすごいの?」
「今更?」
イチカがあきれたように言う。そして少し考える。
「そうやなぁ……戦闘については……ご主人様の魔力強すぎて、隣にいたイグニの魔力がかき消されて見えへんかったくらいやで? 魔法に関しちゃ余裕のSランクやろ。実際の戦闘では、服ゴーレムがなきゃ接近されて終わりやろうけど……服ゴーレムがあればBランクの冒険者とも渡り合えるやろうし……うん」
考えがまとまったのか、改めて俺の方を向くイチカ。
「客観的に見てご主人様は凄いで?」
「お、おう」
どうやら俺は凄いらしい。そりゃそうか、そうじゃなかったらBランク冒険者になんてコネ以外でなれるかって話だよな。
……いやまぁほぼコネだけど。今回のドラゴン退治もイッテツとのコネだけど。
「そや、今日の晩飯はニク先輩達が狩ってきたグレートボアの肉やで。ワタルが薄切りにした肉を茹でるっつっとったわ」
「しゃぶしゃぶか。タレもあるのかな?」
ちなみにこの世界にもしゃぶしゃぶはある。かの食の神、勇者イシダカが色々広めた中にあったそうな。……血抜きとかは広めなかったんだろうか。
伝えたけど広まらなかった可能性もあるな。金になる技術だから。
「……血抜きを一瞬でできる魔法とかどうだろうな?」
「ん? なんや急に。でもあったら便利やね。できるん?」
「時空系か、はたまた水系だな。全身の血を外に転移させるとか、傷口から血を思い切り噴き出させるとか……まぁ不可能じゃなさそうだ」
「それ、生きてる人間に使ったら一発で死ねるなぁ。おぉ恐ろしいご主人様や」
おい怖いこと言うなよ。便利魔法のはずが即死魔法になっちまうじゃないか。
……これがいわゆる、「使う人間次第」ってやつか。
(魔法特化の勇者)