ドラゴンバスター
「いやぁ、そんなに酒とツマミが気に入ってくれたか。それじゃあ言葉も通じるようだし遠慮なく交渉といこうか、ね?」
「おみやげはとってもごちそうさまでした!」
俺は4回目のスイッチを押しそうになったがとどまった。今度はよく考えたら問題ないな。うん。たしか次からは石のつららが突き刺さるはず。
「さて、混乱しているようだし状況を理解してもらおうか。まずお前は俺に捕まった」
「え? あ、逃げなきゃ?」
「待て。よく見ろ、ほら。話しようか」
俺は指を3本たててイグニだけに見えるように動かす。分かるだろ、状況3番だ。3番。
アドリブで話を合わせてくれよ?
「……えっと」
「動かないで話を聞いてくれるかな? お嬢ちゃん」
「分かった!」
いい返事だ。あとはちゃんと空気読んでくれるかだけど、イグニに演技はできるだろうか。
「それで、なんで俺の村の畑を襲ったのかな?」
「えっと、ひまつ、じゃなくて、い、いたずらです! びっくりして面白いかなって……」
よーし、暇潰しなんて答えてたらまたスイッチ押すところだったぞ。にっこり微笑んだらちゃんと分かってくれたようだ。
俺がイグニを捕まえた場合は子供っぽさを周りにアピール。NO暇潰しYESイタズラ。これも事前の打ち合わせの内容だ。
だが目が泳いでるな。ギリギリでセーフといったところか。
「いたずらかー。でもあれは畑だから駄目だぞ。俺達のご飯だったんだ。それを焼いてダメにしたら、ご飯が食べられなくなってお腹がすく」
「お腹がすくのはよくないです!」
「そうだ。だからもうしちゃだめだぞー?」
「はい! ごめんなさい!」
……しまった素直過ぎて逆に説得力がない! 表情もどこか固いし。
俺はワタルとゴゾーを見る。
「……どう思う? 2人とも」
「は、はぁ」
「お、おう」
一応返事をするワタルとゴゾーだが、あんまり納得していない様子だ。当然だ、俺も嘘くさいと思う。
「どうやらこの2人はまだ納得していないらしい。ほら、こっちの2人にも謝りなさい」
「え? なんでこの下等種にあだっ! えーと、ごめんなさい」
無事スイッチの4回目が発動した。円錐型は鉄球よりチクリと痛かったようだ。
「ケーマさんすごいですね」
「うん? なんだよ急に。子供のやったことだ、大目に見てやろうぜ。な」
「アタシ子供じゃないもん!」
ビキィ! と固まっていたトリモチにヒビが入った。
ワタルを先頭にチームバッカスが戦闘フォーメーションを取る。ニクとイチカも俺とイグニの間に割り込み構えた。俺をかばうように。
……とても素早い動きだった。これは警戒されてる。間違いない、信用されていないな。
もう少し子供さをアピールさせるべきか。
「子供と言われて怒るのは子供だぞ」
「あっ、じゃあアタシ子供じゃないから怒らない」
「おー、偉い偉い」
俺は、イグニに近づき、ぽんぽんっと頭を撫でた。
「ケーマさん、危ないですよ!?」
「は? ……あー、うん、そうだな。フレイムドラゴンだもんな。でもほら、謝ったしもうしないって言ってるし、大丈夫だろ? なぁイグニちゃん?」
「もちろん! アタシは大人だから約束は守るし!」
バキン! とトリモチが砕けた。このガキめ、多分大人っぽいポーズを取ろうとしたのだろう。
反射的に武器を構える一行(俺は除く)。事情を知ってるイチカとニクも。……うーん、これはもう信用を取り戻すのは難しいな。最終兵器の出番ではなかろうか。
「おいイグニちゃんや。お座り」
「うん」
俺の言葉に従い、座るイグニ。
「ほらみろ。こんなに素直なんだぞ、みんななんでそこまで怯えてるんだ」
「いやいやいやケーマこそどうしてそう平然とできるんだ? ドラゴンだぞ」
ゴゾーは怯えている!
勇者と普通に飲み会できるゴゾーがどうしてこんな反応なんだ? この世界の連中はドラゴンに恐怖を感じる呪いでもかかってんのか?
いやでもワタルも警戒してるんだよなぁ……
「……見ての通り幼女だろ?」
「こんな奴に暴れられたら、勝てる気がしねぇよ!」
うーん。ゴゾーは頑なに警戒を解かない。やはり最終兵器を出すしかないようだ。
できれば使いたくなかったというわけでもない。別に使わなくてもよかった程度の最終兵器だが……
「はぁ、分かった。それじゃあ俺の秘密を教えてやる。それで納得しろ」
「あぁ? ケーマの秘密?」
俺は、深くため息をついて、パンッと手を叩いた。
「……来てくれ、イッテツ」
俺が意を決して言うと、ゴゥ、と俺のすぐそばに火のつむじ風が起きる。
そしてそこに、1体のサラマンダーが現れた。
「とーちゃへぶっ」
「おゥ、大人しくしてろやフレイムドラゴンのお嬢ちゃんよォ」
立ち上がりかけたイグニを、べちっと押さえつけるイッテツ。
最終兵器イッテツ。フレイムドラゴンを容易く押さえつけられる俺にとって身近な存在である。父なので。
「ワタル、ゴゾー。これが俺の秘密だ。……紹介しよう。俺の友、サラマンダーのイッテツだ」
「よォ、ケーマの友人かァ。まァ、よろしくなァ?」
にィ、とトカゲ顔でキバを剥き出しにして笑うイッテツ。
あくまで友である。仲良しである。
「……なんと。火の大精霊、サラマンダーを従えて……」
「あァ!? 従えられてねェわ、黙ってろドワーフ!」
「おい吼えるなよイッテツ。お前の顔は怖いんだからビックリするだろ」
ぺちぺちと肩を叩く。ここまで打ち合わせ通り。利用されないように気難しい存在をアピールだ。
尚、この間もイッテツはイグニを前足で押さえつけている。さしずめ子供に頭を下げさせる親御さん……ってそのまんまだな。
「おゥ、すまねェな……ほれ、ついでだァ! オメェもしっかり謝れ! しっかりなァ!」
「えぁ、ご、ごめんなさい! ひゃ! ごめんなさいっ!?」
「もう畑を燃やさねェよなァ!?」
「はいっ! 燃やしませんっ!」
「よォーし。次燃やしたらツノ折って損害賠償に充ててやるからなァ!?」
「ひゃい! ごめんなさい! ツノは痛いのでごめんなさい!」
頭を混乱させつつもイッテツに促され謝るイグニ。さすがイッテツ、手際がいい。
ちなみにツノは10年くらいで生え替わるらしい。回復魔法も効くのかな? 量産できないかな。
「と、こういうわけだ。いやぁ、無事解決してよかったよかった」
「な、なるほど、サラマンダーですか。火の大精霊であるサラマンダーにとっては確かにフレイムドラゴンなんてただのドラゴン以下になるでしょうが……」
「チームバッカスもこれで安心だろ? お望みの、フレイムドラゴンをねじ伏せられる存在だ」
効果は見ての通り。文句は無いだろう。
「そしてこいつが信用できることは俺が保証する」
「おいィ、ケーマの保証かァ? なァそこのドワーフよォ、コイツの保証で俺の事信用できるのかァ?」
「もちろん信用する! ケーマ村長の言葉で十分だし、火の大精霊であるサラマンダー殿を信じられないドワーフはいない!」
「そォかそォか! カッカッカ!」
ドラゴンを信じられないのにサラマンダーを信用できるかは不安だったんだが、なんかあっさり納得したな。……やっぱりドラゴンってのがダメなんだろうか?
「というわけでイグニの方は頼むぞイッテツ。しっかり教育してやってくれ」
「あァ任せとけェ。悪ガキはしっかり躾けてやらァ」
とりあえずイグニをイッテツに押し付けるという作戦。これの欠点はイッテツの存在が表に出てくる点。利点は、イグニの里帰りを継続できる点だ。
俺にとって特に問題は無いので、イッテツが「まァいいぞ」って言った時点でやる気満々だった。
「ああ、これは報酬の酒だ。まぁ、持ってきたヤツが余っただけなんだが」
「おォ! ありがたく頂くぜェ!」
そして酒を渡すと言った時点でイッテツは「むしろ呼べ」って言ったからやらない理由がなかった。
イチカ、ゴゾー、あとロップも。お前ら帰ったら宴会用に同じ酒用意してるって言っただろ、よだれ垂らすのやめなさい。
「ケーマさん。ちょっと、ちょっとこっち来てください」
「ん? なんだよワタル」
「いったいあんな大物とどこで知り合ったんですか!?」
「あー……親って偉大だ、と、そうは思わないか?」
「……あれ、ケーマさんは2世でしたっけ?」
もちろんイッテツが親としてフレイムドラゴンを抑え込めることに関しての話であり、俺の日本人の親がサラマンダーを紹介してくれたという話ではない。(話を逸らそうとしたら勝手に勘違いしてくれる分には関与しない)
「あ、俺がイッテツと仲良いのは内緒な。色々詮索されたくないし」
「わかりました。……しかしなんというか、これほどまでに力のある精霊と友達とは」
「……何、イッテツってそんな凄いの?」
「そりゃもう。サラマンダーといったら火の大精霊ですからね、サラマンダーの前ではあらゆる火が頭を垂れると言います」
火の頭ってどこだよ。
「ケーマさん、4大精霊って聞いたことありませんか? 地のノーム、水のウンディーネ、風のシルフ、そして火のサラマンダーです。有名ですよ? ……他の精霊とも友達だったりしませんよね?」
有名なんだ。確かにそれっぽい名前はゲームとかで聞いたことあったけど。
……あれ、でもイッテツはサラマンダーじゃなくてサラマンダー型コアなんだよな。種族名だと思うんだけど、同一視しちゃっていいんだろうか?
まぁとにかく、イグニはイッテツが押さえつけるという、まさに最終手段で強引にカタをつけることに成功した。
したよね?
(ドラゴンバスター・イッテツ。
ちなみに子供の方が上位種族になるとか、ゲームではよくありますよね)





































