合流
「うぐっ、あぐっ! ……お、成功したっぽいで」
ボス部屋の扉の前で待機していたイチカは、首輪が2回締まる合図をうけて告げた。
少しびっくりしたが、約束通り優しく首を絞めただけにしてくれたようだ。
「結構時間かかりましたが、さすがケーマさんですね」
「ああ。こっちもファイアラットの毛皮が結構とれたし、行くか」
ケーマがボス部屋で戦っている間、一行は近くを見回りつつファイアラットを狩っていた。肉は食えないものの耐火性の高い毛皮はそれなりの稼ぎになる。
小遣い稼ぎを切り上げ、ケーマが閉めて行ったボス部屋の扉を開けた。
「おーい、2人とも無事か?」
「ああ。無傷だよ」
ボス部屋の扉を開けると、中ではケーマとニクがくつろいでいた。そのすぐそばにはドラゴンを載せられるだけの台車がある。
……そして、その上にドラゴンは載っていなかった。
「……おぅケーマ? フレイムドラゴンはどうしたんだ?」
「台車の上に乗ってるぞ」
しかしケーマが指さす台車の上にはドラゴンは居ない。代わりに、ドラゴンの赤い手足や尻尾を持つ幼女が縛られて寝ていた。
しかも酒臭い。……というかこれは上等な酒の匂いだと、ゴゾーたちチームバッカス及びイチカにはすぐ分かった。
「……まさかこいつがフレイムドラゴン……なんだな、こりゃ」
台車に近づくと、濃厚な圧力を感じた。なぜこの距離に近づくまで気付かなかったのだろう。
特殊な結界でも張ってあったのか、ボス部屋の前から見た時もこれほどの圧は感じなかった。
ゴゾーは幼く見える体に込められた桁違いの力にたまらず冷や汗をかく。
ケーマはよくこれと対峙して平然としていられたものだ。
肉体的な強さはワタルが勝てるだろう。だが、魔力的な強さが桁違いだ。
水に例えるなら、コップ一杯の水をゴゾーの魔力として、ワタルは宿の風呂。そして目の前のコレは、嵐の雨だ。伊達に属性に特化したドラゴンではないということだ。
尚、ケーマはケーマでよく分からない。霧のようで。
よくよく見回せば、激しい闘いの痕跡があった。
鋭い爪痕は壁や床をえぐり、地面が蜘蛛の巣のようにヒビ割れている。
激しい熱量にガラス化している箇所すらあった。これはブレスの跡だろう。
「ケーマさん、これに酒を飲ませたんですか」
「幼女に酒飲ますな、とか言うなよ? こいつ結構酒飲みだぞ、お前らと気が合うんじゃないか?」
ケーマが言った冗談にワタルは苦笑した。目の前のこれがただの幼女でないことは見ればわかる。
ワタルと言えど、目の前のコレに暴れられては無傷でいられるか怪しいところだ。
これほどの力量を持つ相手に、ひと悶着あったうえで無傷。そして酒を勧めて飲ませることができるとは、やはりケーマはただ者ではない。
ワタルは改めてケーマの評価を一段上げた。もちろん、この戦いに付き従ったニクもだ。
「激闘だったようですね」
「あー、うん、まぁな。苦しい闘いだったよ。とりあえずそいつが起きるまで待つぞ」
「このままトドメさした方が安全かもしれませんよ、ケーマさん」
「……ワタル、それ本気か?」
ケーマが信じられないものを見る目でワタルを見た。
「村の安全を考えれば、それが一番早いでしょう。僕でも押さえきれるか怪しい相手ですから」
「お、おう……でもほら、見た目が見た目だし、そういうの躊躇しない?」
「多少心は痛みますが、それで村が滅ぼされたら困りますからね。村の畑を一方的に理由もなく焼いたのでしょう?」
「いやでも、子供っぽいし。きっとただのイタズラって感じだって。話せばわかってくれるよきっと」
「勝てる確信があればそれでもいいのですがね。……それとも、ケーマさんにはこのドラゴンが暴れた時に確実に抑え込める手段が?」
「…………」
ケーマは少し考え込む。そしてハッキリと答えた。
「交渉でカタをつける。変更は無しだ」
「承知しました」
ケーマさんがそういうのであれば、と言わんばかりにあっさり引き下がるワタル。
ワタルは確信していた。
多少カマをかけたが、ケーマはまず無傷でドラゴンを捕らえている。酒を使ったとはいえ、ドラゴンの脅威は本物だ。たとえそれが人の子供に似た姿をとっても。
それを始末する提案をしたとき驚いていたのは、ケーマにとって「ドラゴンなんて別に殺さなくても安全だろ?」といった考えあってのことだろう。
そして、押さえ込めるのかストレートに尋ねたところ、「まずそれは前提として」「どこまで情報を明かすか」を悩んだように見えた。
……その上で、交渉でカタをつけるとだけ、簡潔に答えた。
つまりそれは「ワタルの力を借りなくてもいいか」と結論を出したということだ。そもそも、元々はワタル抜きで挑むつもりだったというのだから当然とも言えよう。
きっとケーマには、このドラゴンもただの幼女と変わらないように見えてるのだろう。
「……さすがケーマさん。隠された実力は僕より数段上手のようですね?」
「何を言ってるかさっぱり分からないんだが頭は大丈夫か?」
すっとぼけるケーマに、ワタルはにこっと笑顔を返した。
*
まさかワタルがこの幼女を見て「始末するか?」なんて聞いてくるとは思わなかった。
ニクの予想が外れたな。俺も予想外だった。
そこまで警戒する必要があるのかこの幼女。こうして寝てる姿はただのコスプレ幼女にしかみえないのになぁ。酒臭いけど。
ワタルでも倒せないかもしれない相手ってことだが……ん? ということは、あの黒狼のリンはワタルにとって余裕で倒せる相手だったということか?
あるいはあの時は交渉ありきだったからかもしれないけど……
と、イグニがもぞもぞと動く。起きたか。
「んぅふ……あれ……なんか体が動かしにくい、うーん」
「おい、動くな。……酔いはさめたか?」
「ふぇ?」
言うのが遅かった。やっべ、すでにロープが何本かブチっとちぎれている。あかん。
俺は隠し持っていたスイッチを押した。直後、トリモチのような粘着性の物質が台車に落ちてイグニを拘束する。イッテツに頼んだ拘束トラップだ。
「のわ!?」
べちょり、と謎の白いベトベトに絡まれて動けなくなるイグニ。対イグニの拘束力はイッテツ曰く2ターン。2回抜け出そうとしたら抜け出せるレベルだとか。
「お、おいなんだなんだ!? ドラゴンが動いたと思ったらなんか降ってきたぞ!」
「……あー、俺の仕業だ。詮索無用な」
「なんだケーマの仕業か。……ええと、起きたのか? 交渉は頼むぞケーマ?」
ゴゾーはあっさり納得して引いた。武器を構えて警戒してたほどなのにいいのか。ワタルも剣の柄に手をかけている。
それにしても、ワタルといいゴゾーといい、イグニ相手に及び腰だな。なんでそんなにビクビクしているんだろう。俺には分からない強者オーラでも出てるのか?
なんか俺だけ仲間外れみたいじゃないか。
「お、おじちゃ」
俺はすかさず2回目のスイッチを押した。バビュンッ! と天井から勢いよく石が降ってきてイグニの頭に激突。石は砕けた。
あたっ、小突かれたかのように声を漏らすイグニ。俺なら頭が弾けてる威力だが……まぁ、父親監修なんだから大丈夫だろう。
「お、おい! 今度はなんだ!?」
「俺の仕業だ。詮索無用だ」
「そ、そうか」
ゴゾー、反応しすぎである。ただ石が落ちてきただけだろうに。
「さて、フレイムドラゴン。交渉したいんだが、いいかな?」
「え? 水臭いなぁ名前で呼んでよおじちゃあだっ」
3回目のスイッチでは鉄球だ。だが今度も大したダメージにはならない。イッテツ、娘が相手だからって手を抜いてないよな? いやまぁ、これも強めに小突かれただけ程度のダメージを狙ってたんだろうけど。
……ゴゾーも今度はこちらを窺っているだけだ。
「さて。俺は君のことを何て呼べばいいのかな? お兄さんに教えてくれ」
「お兄ちゃん、アタシ、イグニっていうのー」
「そうか。イグニっていうのかー」
凄い棒読みだけど4回目のスイッチはまだ入れないでおいてやろう。





































