旅立ちの日(最長で1泊2日予定)
冒険者代表のゴゾーが、村長執務室にやってきた。俺は書きかけのオフトン教聖典をしまい、話を聞く。開口一番、ゴゾーはこう言った。
「ドラゴンを退治するぞ、ケーマ」
「……やっぱりそれしかないよな」
俺がイッテツと話し合いをしている間に幹部連中の方も話がまとまったらしい。
「なんだ、分かってたのかケーマ?」
「他に手があったのか?」
「無いな。まぁそんなわけで、多少の犠牲を払ってでもドラゴンを追い払うなり倒すなりしなければならん――で、その犠牲をものすごく少なくする手が無いかと我らが村長に聞きに来たわけだ。……ウォズマがケーマなら策があると言ってたが、本当にあるのか?」
「あるぞ」
俺はあっさりと答えた。……って、ウォズマ副村長、一体何を言ってるんだ。
だがここは自信満々に言うことが肝心だ。
「マジかよケーマ」
「だが、これは俺の秘策でもある手だ。なるべく秘密がばれないよう、少人数で編成したい。むしろ俺とクロ、あとイチカで十分なくらいだ」
なんせ大人数だと動きにくいからな。秘策があるとなれば少人数でも通るだろう。できれば俺達だけで行くことにして、ばっちり追い払ってきましたということにしたいが。
「さすがのケーマでもそれは無理だろ、俺とロップも行く」
ちっ、さすがに3人でドラゴンに挑むのは許しちゃくれないか。
お飾りの村長をそこまで信用はしてくれないのは当然だろう。特に俺達の中でまともに戦えると保証されてるのはニクくらいだ。ニクはゴレーヌ村最強の冒険者だからな。……幼女が最強な村ってどうなんだろう。
「あとお前んちのバイトから、セツナの方も連れていきたいところだな」
「……あー、セツナには村の方を守ってもらおう」
そういえばセツナがいたな。ニクに匹敵する冒険者だった。……あいつらダンジョン関係者だから来るとややこしくなるだろうし、面倒だから留守番させておこう。
「あとアレだろ? ワタルも来るんだろ?」
「……いや、ワタルは呼ばないつもりだが?」
「え、さっき宿に入ってくの見えたんだが。ケーマが連絡入れてたんじゃないのか?」
そんな覚えはないぞ。あの借金勇者め、今月はなんでこんな早く――
「ケーマさん! 話は先ほどお伺いしました、野生のドラゴンが出たそうで!」
――と、村長執務室の部屋の扉をノックもせずにワタルが入ってきた。
本当に来てたか……誤報であって欲しかった。
「あー、ワタルか。うん、だがまぁお前が気にするほどじゃないぞ、これはこの村の問題だからな」
「何を水臭いことを! 僕はもはや気持ち的にはここの住人ですよ! ほら、オフトン教の聖印だってありますし!」
そう言ってワタルは胸元からオフトン教の聖印を取り出した。売ってる中で一番高い金製のヤツだ。商人だか貴族が買ったとは聞いたけど、お前も買ってたのか。
……ネルネにも買ってあげてお揃いにしないかい? え、もうした? まいどありー。
「あ、ちなみにオフトン教のこともバッチリ宣伝してますよ!」
おいやめろ忙しくなるじゃねぇか!
「というかオフトン教ゴールド会員の僕はもはやこの村の幹部と言っても過言ではないのではないでしょうか」
「ゴールド会員ってなんだよ。オフトン教は一応宗教だから会員じゃなくて信者だし、聖印の種類による区別とかしてないぞ」
「まぁまぁ。でも僕、これでも勇者なので絶対お役に立てると思いますよ!」
普通に考えたらそうなんだけど、勝手に動かれたら困るんだよなぁ……
……ならいっそ、指揮下に入れてしまった方がマシか。
「分かった。それじゃあワタルを討伐隊に入れよう……ゴゾー、俺達とワタルだけでいいんじゃないか? 勇者様がいれば百人力だろう」
「ああ、そんならケーマ達のパーティと、俺とロップとワタルで行こう」
「お、チームバッカスの初仕事ってわけですね! 頑張りましょうゴゾーさん!」
酒飲みチームかよ。仲いいもんなお前ら。そしてさりげなく『俺達』にゴゾーとロップが入ってたようだ。こんなにも俺とゴゾーの間で意識の差があるとは思わなかった。
結局、勇者ワタルが面子に入ることになってしまった。……うーむ、だがこれは考え方を変えよう。いざとなれば功績をワタルに押し付けられると考えれば、悪いことばかりでもない。むしろ押し付ける。
……打ち合わせで出た案のうち「このフレイムドラゴンはまだ子供だから俺らのパーティーでも撃退できたんだよ」プランは破棄しておく必要がありそうだ。
最初は強く当たってあとは流れで、とかは勇者がいたらできそうにないな。
*
フレイムドラゴン討伐隊の編成はあっさり済んだので、早速準備を整えてツィーア山の山頂へ向かうことにした。登山装備で。ワタルやゴゾーがいなければわざわざ登山する必要もなかったが、仕方ない。リアリティが出ると思っておこう。
「頼んだぞ村長! 俺のダイコンの仇をとってくれ!」
「勇者もいるし、まぁ大丈夫だろ。いやぁ村長がドラゴンスレイヤーか……箔が付くな」
「なぁ、ドラゴンのステーキっておいしいのかな? ケーマ村長、よかったら土産に……」
出発直前に村人の温かい声援を受ける。
ドラゴンのステーキは無しの方向で……ニク? ほら、よだれふきなさい。きっと食用に育てられた牛肉の方が美味しいから。デカくて強くて珍しいからって美味しいとは限らないから。
「ケーマ! 大丈夫? 忘れ物は無い?」
その声に周囲がざわりとして、一気に静まり返った。
だがそこにはロクコがいただけだ。ん? 何かおかしい事でもあったのか?
「ちょっとケーマ、聞いてるの?」
「ん? ああ、聞いてる聞いてる。大丈夫だ、忘れ物はない」
「武器は持った? 食料は? ハンカチは……今ニクが使用中ね。ほら、私の持ってきなさい」
そう言って胸元からレースのついた白いハンカチを取り出し、俺に押し付けるロクコ。ふわりとイイ匂いがした。こっそりロクコに向かって親指を立てるイチカ、お前の仕込みか、見えてるぞ。
「まったく、私が行かないからって浮気したらダメだからね?」
「あのな、浮気って……ドラゴン退治だぞ?」
浮気、のあたりでまたざわりと村人たちが少し騒ぐ。……ん? ロクコの事を知らないってわけじゃないよな、宿のオーナーとして、もしくは食堂のウェイトレスとしてそれなりに村人や冒険者との交流もあるはずだし……
「それじゃあケーマ、しっかり行ってきなさい! ……い、行ってらっしゃいの、ち、ちぅ……んんん……とっ、とにかく! 行ってらっしゃい!」
「ああ、いてっ、行ってくるよ、痛いって、照れ隠しか知らんが叩くなって」
赤い顔したロクコに胸をバシバシ叩かれる俺。何がしたいんだコイツは。行ってらっしゃいのチューか。誰に吹き込まれたか知らんが、こんな人前でする気はないぞ。イチカは今日の晩飯抜きな。
というわけで見送られつつ登山を開始した。
ちなみに登山中にゴゾーに確認したところ、ざわざわしていた原因は俺がニクを連れているところに正妻であるロクコがやってきた上に『浮気するな』と釘を刺したりしたもんだから当然だろ、とのことらしい。
違うよ!? ロクコはパートナーだしニクは抱き枕だよ!? やましいことは何もしてないからね!? ……してないからね!?
(こんな忙しい時に新作書きたい病ががが)






































