初心者狩り (3)
「それじゃあ早速ダンジョンに行きましょうか」
「はい、よろしくお願いしますわゲスーノ様、キワミ様」
斥候職のキワミが先導してダンジョンの中に潜る。青髪のお嬢様マイオはいよいよダンジョンに足を踏み入れた――にもかかわらず、ゲスーノが思っていたより平然としていた。
初めてダンジョンに潜るならもう少し興奮しているだろうに、それとも表情を隠すのがうまいのだろうか。
「お嬢様はダンジョンに潜ったことがあるのかい?」
「ええ、昨日シーナに付き添ってもらって早速行ってみましたの。まぁ、様子見で2部屋みたところで引き返しましたけど」
おっと、お嬢様の初ダンジョンはもう済ませていたのか、とゲスーノは納得した。
このダンジョンは色々と特殊らしく、最低のGランクから1つ上、Fランクの冒険者だけでも入ることはできるダンジョンだ。
たとえ昨日登録したてのGランクでも、パーティーにDランク以上の者が居れば入って良いことになっている。
「シーナもおりますし、わたくしにかかればこんなダンジョン楽勝ですわね」
「お嬢様、油断なさらないでください。ダンジョンは危険な場所なのですよ? ……ゲスーノさん、キワミさんもお嬢様に何か言ってやってください」
急に話をふられたが、ゲスーノとキワミはふっと小さく笑った。
こういうお嬢様は調子に乗らせて、こちらに依存させるに限る。
「いやいや、実際お嬢様の言う通りだ。ここのダンジョンの低階層は初心者向けと認定されるほどであまり難しくない。油断していても僕たちがなんとかするよ」
「そうそう。そのためにダーリンと私がいるんだもの」
パチン、とウィンクするキワミ。丁度、ゴブリンが2匹襲ってきたので、ゲスーノ達は宣言通りマイオ達を庇いつつ返り討ちにした。
腐ってもCランク。ゴブリンごときに後れを取ることは無い。
「良い働きですわ。そう思わないこと、せんぱ、ペットちゃん」
「……」
ペットの獣人は表情のない冷ややかな目で虚空を見た。
……お嬢様には目も向けていない。やはり、この2人の仲は良くないのだろう、とキワミは確信した。
「い、良い働きをしたゲスーノ様には褒美を授けますわ。受け取りなさい」
そう言って、マイオは堂々と【オサイフ】を発動させてその中から銀貨を1枚取り出し、ゲスーノに渡す。
「はは、有りがたき幸せ」
中にいくらの金を入れているのか。それを考えるだけでもゲスーノは自然と笑みがこぼれた。
【オサイフ】などの時空魔法で仕舞われたものは、術者が死亡するとその場にばら撒かれることになるのだ。
「あら。私にはくださらないの? お嬢様」
「先ほどのゴブリンを退治したのはゲスーノ様でしょう? キワミ様はなにもしていなかったではありませんか。ねぇシーナ」
「ええ、キワミは何もしていなかったですね。役立たずに褒美は不要でしょう」
シーナにもそう言われて「チッ、素人め」とキワミは心の中で毒づいた。実際は、ゴブリンに気付いたのもキワミだし、ゴブリンを確実に仕留めてみせるため威嚇しながら退路を塞いでいたのだ。
しかし、シーナまでもが役立たずと言い放つのを聞き、「この護衛、大したことないのではないか」と警戒ランクを1つ下げる。
そもそも役立たず度合いで言えば、シーナなどお嬢様の隣に突っ立っていただけなのだから。
……生かしたまま楽しめるならそれに越したことは無い。死んでから楽しめることは、殺してからでもできるのだから。
「ダーリン、あれは私に頂戴ね? 手足の腱を切って石埋め込んでから【ヒーリング】してやるわ。その上で、お嬢様より後に始末しましょ」
「くくく、さすがハニー。良い趣味だよ。お嬢様をあいつの剣でズタズタにするのも試そうか」
お嬢様達には聞こえないように、ゲスーノ達は小声で言葉を交わした。
「それじゃ、もう少し奥へ行ってみるかい? ギルドで面白い部屋があるって話を聞いたんだ。行ってみないか? なぁに、僕らが付いていれば何も問題ないよ」
「ええ、それでは案内してくださいな」
「お嬢様、さすがにこれ以上奥へ行くのは危険では」
「黙りなさいシーナ。Cランクのゲスーノ様がいるのです、問題ないでしょう?」
「……」
獣人のペットは冷めた目でため息をついた。
第1階層を抜け、いよいよ迷宮エリアに入る。ここでも大した敵は出ない。せいぜいアイアンゴーレムだが、今回出たのはクレイゴーレムまでだった。
この程度ならゴブリン同様に楽勝だ。
迷路はあるが、書きこんでいた地図通りに迷わず進むと、すぐに目的の部屋――『強欲の罠』にたどり着いた。
ゲスーノとキワミに誘われるがままに、部屋の中に入っていくマイオ達。
剣が刺さった台座に近づくキワミ。全員が――ゲスーノが一番後ろで――部屋に入り切ったところで、台座に刺さっていた剣を抜く。
直後、じゃこん、と入口が針に閉ざされた。
「しまった! 閉じ込められたぞ!」
わざとらしくゲスーノが言う。
「む! な、何が起きたんだ?」
「な、何ですか?」
全く同じように慌てる主従。まるで糸でつながっているようにその動作は一致していた。それをゲスーノはニヤニヤと眺めていた。
どうやらお嬢様達はここの部屋について情報を仕入れていなかったらしい。もしこの部屋のことを知っていたら、多少手間が増えるところだった。
「ゲスーノ様、これは一体なんですの?」
「ご安心をお嬢様。実はここは台座の魔剣を引き抜くと、『一晩だけ閉じ込められる』という部屋なのです。安全地帯であるため全く危険はありません」
「一晩だけ、ですか?」
「ええ、今日はここで一旦休み、明日の朝帰るつもりでしたから」
ニコリ、とお嬢様を安心させるために笑うゲスーノ。
お嬢様は「そうでしたか」と納得したようだ。
「しかし勝手に予定を決められては困りますね。私共は野営の準備をしていないのですが?」
「そこは申し訳ありません。そして野営の方はご安心を、僕らの方で準備しています。当然、お嬢様の分もこちらに」
と、ゲスーノは【収納】と唱え、折りたたまれたテントや寝袋を取り出してみせた。
【収納】のスクロールはかなり高かったが、便利だ。中では時間が止まるので、獲物から切り取った部位等を温かいままにしまっておくことすらもできる。
「あら、【収納】があるのですか。それでは食事の心配も無いのかしら」
「はい、この通り出来立ての料理を用意してあります」
ゲスーノは湯気の立つスープを取り出した。
尚、このスープには薬が入っている。一口程度では問題ないが、一皿飲めば1時間後くらいから徐々に力が抜け、更に1時間で身動きが取れなくなる痺れ薬だ。
これを食べさせることができれば、普通に襲撃するより楽になるが、
「お嬢様。さすがに食事は私が用意したものをお食べ下さい。何が入っているか分かったものではありません」
「シーナがそういうなら仕方ないですね。ゲスーノ様、そちらはキワミ様と召し上がってください」
「おやおや仕方ない」
さすがにそこまで上手くはいかなかった。
ちっ、と小さく舌打ちするゲスーノ。だが寝込みを襲えば問題無い。夜を待つことにした。
(次回予告。 お嬢様御一行が初心者狩りに寝床を襲われる。果たして、どうなってしまうのか! ウス=異本展開はあるのか!? ※ノクターンでやれ展開はたぶん無いです)





































