ダンジョンマスターは聞いていた。
聞いちまったよオイ。
何をって、初心者狩りの計画をである。
久々にダンジョンの様子を見てたら『強欲の罠』が使用中になってたので興味本位で覗きに行ったんだけど、そしたら奥でひそひそ話してたから、これまた好奇心で盗み聞きしたわけだよ。
そしたら新人狩りの相談だったってワケだ。はっはっは、運がないねコイツら。
しかもそのターゲットはウチで預かってるマイオドール、シキナ、そしてニクまでもが対象だそうな。某お絵かきサイトならR-18Gタグが付きそうな内容をする気満々らしい。ロクコやニクの教育上よろしくないことこの上ない。
たまたま「私も婚約者であるクロ様と冒険がしたいですわ!」と冒険者登録しに行ったマイオドールを目撃して、付き添いのシキナとニクを見て3人組のパーティーと判断したらしい。
……別に普通のこの村と関係ない新人が騙されるだけならほっといても良かったんだけどね?
いやぁほんっっと運が無さすぎるわこの2人。
まず村の住人冒険者を殺す宣言。これは村長である俺に喧嘩を売るだけでなく、DPの定期収入を削るという意味でダンジョンマスターの俺とも敵対するわけだ。1OUT。
ここまでならまだ生きて帰れた。(無傷とは言っていない)
次に、その住人がウチで預かってる貴族お嬢様ズをターゲット。もうね、これ襲われたら問答無用で俺の責任問題だろ。しかも現場はダンジョン内とか、これダンジョンに罪を擦り付ける気満々だよね? ふざけんな。というわけで、これで2OUT。
ここまでならまだ命はあった。(生きてる方が良いとは言っていない)
そして俺の抱き枕であるニクを狙った時点でカウントすっ飛ばしてコールドで試合終了な。あ、この場合人生かな? フフフ。たっぷり悔い改めてください。
というわけで、早速ギルドの方に通報することにした。
……いや、自分で手を出すのもいいけどちゃんとダンジョンの情報収集してたらしいレベルのCランクが突然消えたら警戒度上がっちゃうじゃないか。
仮にギルドの方に「今日は様子見で浅いところまでにするよ」とか言ってたとしたら帰ってこないのも不自然だ。
決して自分で手を下すのが面倒というわけではない。合法的に葬るために通報するのだ。
こうして通報することで「あいつらもしかして初心者狩りしようとして失敗して……」という伏線につなげるのだ! なにせ相手がニクなら返り討ちにされても仕方ないので!
証拠など不要! ダンジョン内の事故なので!
まぁ、要するに根回しみたいなもんだな。
というわけで俺はギルドに出向いて、いつもの受付嬢さんに「ちょっと話があるんですけど」とカウンターで軽く話を切り出した。
「……というわけで、新人狩りの計画を聞いちゃったんですけど、どうにかなりませんか? 貴族であるマイ様やシキナまで狙われているとなると、さすがに問題だと思うんですよねー」
「なるほど分かりました。では、どのように処理したいですか?」
「え? えーっと、死刑、じゃないですかね? 常習犯みたいですし」
「分かりました。それではそちらはケーマ様にお任せします。該当の冒険者2人の資産は凍結するよう手配しますね」
「え?」
「ギルドで把握してる分は被害者の遺族への賠償に当てたいので、できれば情報を吐かせていただければありがたいですね。義務ではないので別に無くても構いませんが」
「え? あの、えっと」
「……他に何か?」
ええと、なんかその、話が想定よりも早すぎて動揺してしまった。
事実確認とかしなくていいんだろうか。俺が嘘を言っているとは思わないんだろうか――って、そこはカウンターの下で嘘を見破る魔道具使ってたのかな。
それにしても、本人への確認とかは必要だと思うんだけど。
「あの、あっさり決まり過ぎじゃないですかね? いままでに証拠を掴んでいたとか?」
「いえ、特に証拠はありませんが、ケーマ様の証言がありますよね」
「ええ」
「それで死刑が妥当だと」
「ええ、まぁ」
「…………」
「……え? まさかその、俺の証言だけですか?」
「そうですが?」
カウンターの下で嘘を見抜く魔道具を使っていたとしても、事実確認や証拠は必要だと思うんだけど。俺の聞き間違いと言う可能性もあるんだし。
「……説明が必要ですか?」
「あ、はい。お願いします」
そう言うと、受付嬢さんは「はぁ」とイヤそうにため息をつく。
「まずケーマ様は『村長』です。つまりこの村の最高責任者にして、司法機関であることは把握していますか?」
「ええまぁ……そう言われると物々しいですね」
お飾りとはいえ、そういう権限が無いわけではないのか……
「その村長が証言するということは、つまり裁判が終了したということです。で、ギルド側の責任者である私が判決を確認しましたので、あとは実行を残すのみというわけです」
「はぁ、そうでしたか」
つまり「地域の一番偉い人と組織の責任者が合意したからお前死刑な」ということである。
……なんてこった! この世界、人命が軽い!
まぁ人間を金貨1枚(約100万円)で買えちゃう世界だ、そういうもんと言われればそういうもんなんだろうけど。イチカとかアレで銀貨50枚だもんなぁ……
「あと、少々耳をお借りしても?」
「え、はい」
俺は内緒話をするために耳を寄せる。
そして、ぽそりと周りに聞こえない声で囁かれた。
「……貴族であるケーマ様は、平民の冒険者2人程度なら証言のみで処罰可能です」
……まじかー。俺は心の中で頭を抱えた。
つまり実はこういう流れだ。
『貴族(俺)』の証言により平民の冒険者2人が処罰対象に。
『貴族(俺)』は死刑を求刑。さらに『最高責任者(俺)』が死刑が妥当であると進言。
同時に『司法機関(俺)』により、死刑は妥当であると確定。判決を冒険者ギルドに確認。
『貴族(俺)』『最高責任者(俺)』『司法機関(俺)』の証言に嘘や齟齬、矛盾点が無かったため冒険者ギルドの責任者が判決は妥当と判断。主な根拠は『最高責任者(俺)』と『貴族(俺)』の証言。
刑の執行を『最高責任者(俺)』に依頼。
あとは刑の執行を待つばかり。
うん、これ新人狩りとか関係なく俺が告げ口したら、かつ嘘を含まなかったら刑が確定するよね?
お飾り村長でも貴族の立場と合わさり独裁に見える。
うっかり『お前死刑な』とか絶対言えない……これが権力か。怖ええええ!
「……ええと、なぜ俺が貴族だと?」
「それは守秘義務があるためお答えできません」
ふむ。サリーさんか、あるいは貴族名鑑を作るにあたってしっかりした後ろ盾となるようにギルドに話を通しておいただけか、はたまたハクさんから直接何か……
って、これどれでもハクさんの仕業じゃん、情報ルートを特定する意味も必要も無いな。
ま、ギルドの協力が得られるのは便利だ。
……まさか、サリーさんの言ってた『最後』のって受付嬢さん?
ありえるな、警戒しておこう。
「ダブルカードであることはこちらでも承知しております。例外だらけですので、なるべくはやくBランクに揃えて統一してください。試験受けて行かれますか?」
「……はぁ、検討しておきます」
俺は言葉を濁した。表の身分まで貴族になる気はないっての。
……あ、でもニクは領主にBランクのカード見せちゃったんだよなーどうするかな。
「ちなみに新人狩りについて、どういう手口かとかは分かりますか?」
「ああ、それなら――」
とりあえず連中の手口はバラしておいた。まぁ、これくらいはサービスだな。
……さーて、どうやって処分してくれようかなー。今までの被害者についての情報もできるだけ吐かせねば……
(尚、本当にお飾り村長の場合は最高責任者と司法機関が別の人達になります。
そして書籍化の執筆があまり進んでいません。なぜだ……ペースを落としているはずなのに……
! しまった異世界ヒーローが原因か!?)





































