初心者狩り (1)
(悪人視点です)
ゴレーヌ村に、ある男女の冒険者カップルがやってきた。
Cランク冒険者の2人組で、男の方をゲスーノ、女の方をキワミと言った。
ゲスーノとキワミは自分より弱い者を狩ることを悦びとしていた。
狩るというのは、当然殺して身包みを奪い取ることを指す。
それは趣味であり、実益も兼ねている。――比率は8:2くらいだが。
そのターゲットの多くは冒険者になったばかりの者か、ある程度こなれてきた人間だ。無知あるいは油断によって何も見えていない初心者、これほど狩りやすい獲物はいない。
それになにより若いのがいい。金は無いが、色々と楽しめる。
一言で言って、この2人は下種だった。
前に居たのはパヴェーラだったが、遊びが過ぎてそろそろ足がつきそうだったので逃げてきたのだ。大体1か所では2、3組までと決めている。――本人たちにしてみれば、『時期』だから渡り鳥のように次の場所へ、といった気持ちであるが。
「それでダーリン。次はどうしよっか?」
「んー、そうだなぁハニー……まずは『仲間』になってくれる若いのがいればいいんだが」
2人の手口としては、3人以下の初心者だけのパーティーに仲間として入り込み、多少色々教えて信用を得てから殺すというものだ。数日時間をかけることもあれば、我慢できずに初日に襲うこともある。
3人以下というのは、まず不意を打って1人を始末するなり行動不能にし、1人を人質にとって、1人を遊べる、そういう人数だからだ。
場合によっては2人同時に始末することもあれば、毒で3人を痺れさせて1人ずつ、ということもあるが――
――殺す前に色々楽しむのがこの2人の流儀だ。……具体的な内容は省く。
そんなわけで、手頃な冒険者を探しにやってきたのがゴレーヌ村だ。
なにせ新人向けのお手軽ダンジョンがあるという事だし、アイアンゴーレムという鉱床があり人の出入りも多い。
新しい村であるためまだ門番もいない。犯罪者が身を隠すにはもってこいだ。
美味しい獲物が多く、新顔が出入りしていても不自然がなく、さらにダンジョンの中で始末すれば死体の処理も楽である。
ゴレーヌ村は聞けば聞くほどおいしい場所だった。まさにゲスーノとキワミのためにある村だ、と2人は思っていた。
2人は村につくと、まずはギルドの出張所に向かった。
アイアンゴーレム狙いのベテラン冒険者の他、美味しそうな新人もそこかしこにいる。
が、今回の目的はダンジョンの下見だ。ダンジョンの地図を見せてもらい、人通りのすくなそうな――遊べそうな場所を探すのだ。
2人は二手に分かれて情報収集することにした。ゲスーノは狩場の、キワミは獲物の情報収集だ。
ゲスーノは、2つあるカウンターのうち、新人らしい方に向かった。単純に空いてたからだ。Cランクである自分のギルドカードを提示して、紳士的に話しかける。
「やぁ受付嬢さん。ダンジョンの地図はあるかな」
「第1階層の地図のみありますね。閲覧は銅貨5枚、購入は銅貨10枚です」
「第1階層だけ?」
銅貨11枚を払う。1枚はチップだ。
地図の閲覧にかかる情報料としては安い銅貨5枚。つまりそれほど大きい階層でもないだろうのに、第2階層以降の情報はどうなっているのか。
「第2、第3階層は迷宮となっておりまして、頻繁に道が変わりますので地図が作れないのです。大まかな階段の方向くらいは分かるのですが、うまくできなくてですね」
「へぇ……」
「階段の位置と、要注意の固定トラップ位置だけの地図のようなものであれば銅貨10枚です。購入は銅貨30枚」
今度は銅貨30枚を払って地図を購入した。
……質のいい紙に書かれている地図には、大まかな外周と、出っ張った部屋、そして階段の位置だけが書かれている。
出っ張った部屋には要注意のマークがあった。
「この部屋は何? 安全地帯で、罠って」
「これは『強欲の罠』ですね。ええと――」
この情報は情報料がかからない内容らしく、すぐに教えてもらえた。というか、本来地図に書き込んであるべき情報だろうがとゲスーノは内心毒づいた。
『強欲の罠』というのは、部屋が丸々トラップになっている代物らしい。
台座に魔剣が刺さっており、これを抜くと閉じ込められる。――ただし、魔剣を台座に戻せば出られる。魔剣を手放さない強欲な者だけが、ここに閉じ込められるのだ。
……これを聞いたゲスーノは思わず笑みがこぼれる。
鍵のかかる部屋、ということは――中でやりたい放題ということだ。
「ああ、ありがとう。それじゃあ早速行ってくるよ」
「お気をつけて」
ギルドの受付嬢から十分な情報を得て話を切り上げたゲスーノは、別途冒険者から情報を集めていたキワミと合流する。
「どうだいハニー、そっちは何か面白い情報あったかい?」
「ええダーリン。青髪の子供が金髪のエルフに連れられて冒険者登録をするって話してたわ。犬耳の奴隷もいたわね」
「その中にいい男でもいた?」
「全員女だったわ、みんな食べちゃいたいくらい可愛いの。――それに、奴隷も含めて全員身なりが良かったから、きっとお金持ちとその護衛、奴隷はペットでしょうね。ダーリンの方は?」
「ああ、面白そうな場所があったよ。早速下見にいこうかと思ってさ」
そして2人は早速ダンジョンに潜る。
ゴブリンなどは相手にならない。目的地は強欲の罠だ。
地図をしっかり頭に入れておいたので、壁に阻まれながらもすぐにたどり着く。
情報通り、台座に剣が刺さっており――これを抜くと入口が針でみっちりと塞がった。
「どうだい、素敵な宿だろ? ハニー」
「とっても素敵な部屋ね! でもあの扉じゃ音は漏れそうだわ。悲鳴が漏れる事もあり得るかしら」
「女の子の悲鳴は良く通るからなぁ……うん、まず喉を潰してからだな!」
「ここに連れ込めば殺してからダンジョンに食べられるまでだって観察できるわね」
クツクツと笑う2人。
「折角だし、少し運動してこうか?」
「ふふ、良いわよダーリン……と言いたいところだけど、獲物のためにとっておきましょう?」
「残念だけどキワミがそういうなら……楽しみだ。昂るね。ああ、金持ちのお嬢様に奴隷の小便エールでもご馳走してやりたいよ。可愛いペットのなら飲めるだろう?」
「うふ、きっと涙を流して喜ぶわね」
と、キスだけをして、2人は獲物を狩る計画を立て始めた。
さしあたって、懐を温めてくれそうな3人の女――しかも、色々と楽しめそうな上玉――を狩る計画を。
子供と奴隷は言うまでもなく初心者だろう、問題にならない。ネックになるのは金髪のエルフだ。
青髪の子供とエルフは、恐らく貴族と護衛の関係だろう。であれば、あのエルフはそれなりの実力があるはずだ。
一度仲間となって、詳しく調べる必要がありそうだ。
「さて――詳しい所を考えようか? 2人の楽しい未来のために」
「2人の贅沢な未来のために」
そうしてゲスーノとキワミは仲間として入り込むための設定を相談する。
……誰にも聞かれないように、入口を閉ざして部屋の奥で。
(次回更新は一週間後です。尚、水曜日には異世界ヒーローの方を更新しまs)





































