ワタルと世間話
騎士団長のサリーが帰った翌週、ワタルが来た。
「やあケーマさん! シキナちゃんの様子はどうですか? がんばってます?」
「あいつならちょっと事故で今大変なことになってるよ」
「え、大丈夫なんですかソレ?」
「サリーさんが大丈夫っつってたから大丈夫だろうよ」
「……サリーさんっていうと、ああ、あの鬼教官様。サリーさんが言ってるなら間違いないですね」
帝都でワタルに訓練をつけているのはサリーさんらしく、遠い目をしていた。
とりあえずシキナが『フタナール』を摂取して性別が混沌になっている状態であることは話した。もうサリーさんに話したことだし、隠す必要もない。
俺はワタルを応接室まで案内すると、向かい合ってソファーに腰かける。
「って、サリーさん来てるんですか? なら挨拶しないと」
「残念、先週帰ったぞ。ちなみに彼氏連れで旅行中らしい」
「え、サリーさんって彼氏いたんですか? あの鎧の彼氏……想像つかない……というか僕、サリーさんの顔見た事ないんですけどね。彼氏さんはどんな鎧でしたか?」
「何お前、サリーさんがリビングアーマーとでも? 今度言っとくわ」
「ははは冗談ですよ。告げ口しないでくださいね?」
訓練中はいつもフルプレートにフルフェイスの兜にフェイスガードまで完備で一分の隙もないらしい。
ワタルはサリーさんがリビングアーマーだという事を知って……はいないんだろうけど、薄々感づいてるのかもしれないな。
まぁそのあたりはハクさんがどうにかするところだろう。
「ちなみにサリーさんの中の人は金髪美人だぞ。彼氏は鎧着てなくて、中性的で若いツバメって感じの男だった」
「へぇ。……美人、美人かぁ。確かに声はいい声でしたけど」
「今度見せてもらえばいい。けど彼氏持ちだからな、惚れるなよ?」
「ははは、ないですね。ちなみにサリーさんの私服はどんなでした?」
「それは鎧だったよ」
まさか私服まで……とワタルは天井を見上げた。
俺も、もはやあだ名でリビングアーマーと呼ばれていてもおかしくないレベルだと思う。
「……あ、とりあえず今月の返済分です。シキナちゃんの月謝も預かってきました」
「あいよ」
俺はワタルから金貨の入った袋を受け取った。
今更だけど、これって日本だと札束を受け渡してるようなもんなんだよな。それをこんなに気軽にやり取りして……
いやはや大物になった気分だ、と金貨を数えつつ感慨にふけっていると応接室のドアがノックされた。
そして飛び込んでくる金髪残念エルフ。
「師匠ぉー! そしてワタル先生! お久しぶりであります!」
「ん? えっと、誰だっけ?」
「いやシキナちゃんだよ? なんでケーマさん首傾げてるの」
「ふふふ……いいのでありますよワタル先生。ここのところ部屋に籠っていたでありますからな。たしかワタル先生の故郷には『男子三日会わざれば刮目して見よ』という言葉があると聞いたであります! つまりここ数日顔を会せなかった自分は、師匠から見ても新生シキナといって過言ではないのであります! よって自分が誰か分からなくても当然と言えるのであります!」
ドヤァ、と胸を張るシキナ。ちょっとまえのロクコを彷彿とさせるなぁ。
どうやらすっかり調子を取り戻したようだ。
……元気になったのはいいが、ちょっとうざい。
とりあえず数え終わった金貨105枚を【オサイフ】で異次元に片づけた。
金庫要らずで便利な魔法だよなコレ。【収納】の下位スキルだけど、【オサイフ】ならなぜか両替までできるという親切魔法だ。両替機能はこの間教えてもらった。
尚、最初から【オサイフ】に入れると残金がはっきりわかるので目視で数えなくてもよい。が、残金しかわからないので後から「5枚足りてないぞ」と言っても「そちらの勘違いじゃないですか?」と返されて終わるのだ。
事故を予防するためにも【オサイフ】に入れる前にしっかり数えておくのは大事である。
「まぁ冗談はさておき、数日ぶりだなシキナ。もしかしてアレが消えたのか?」
「消えてないでありますが、師匠から貰ったオムツとセツナ殿のおかげで自分はオチンチンとの付き合い方を覚えたのであります! 慣れれば便利でありますな!」
「オチンチン言うなよ下品な奴め。……なぁ、こいつ本当に貴族のお嬢様なのか?」
「クッコロ家はかなりの名家なんですけどね……まぁ、これもケーマさんの教育の賜物ってことで?」
俺のせいにすんなよ。こいつが下ネタにもストレートなのは最初からだろうが。
「あ。ワタル先生、父に『フタナール』という薬を手に入れられるか聞いて欲しいのであります」
「ん? ああ、ケーマさんから聞いたけど、ツィーア領主の娘さんの薬を割っちゃったんだってね。いいよ、伝えておこう」
「迷惑かけて申し訳ないのであります。師匠が弁償金を肩代わりしてくれてるでありますが、現物で返せればそれに勝るものは無いのであります。――あ、合法な方で頼むでありますよ?」
「わかった。確か最近、帝都付近で混沌系魔法薬が多く出回ってるからたぶん手に入ると思うよ」
へぇ、そりゃまたなんでだろうなー……と、俺は1人の心当たりを頭に浮かべて、世間話する二人から目を逸らした。
……もしかしてナユタなら『フタナール』作れるんじゃないかなぁ、アレの孫だし、錬金術師だし。
(そろそろ書籍化作業用ののんびりペースに移行するとします。 でも他作品の更新をするかも)





































