建った、教会が建った!
そして教会が建った。一晩で。
謎の建築魔法使いナリキンの手によって、完璧な教会ができたぜ。
礼拝堂は60人分の座席を用意した。いずれはこの全席に信者たちが寝て、ぐーすかヨダレを垂らすのだ。
暖かな光が差し込むステンドグラスには白いオフトンの絵柄を。これも結構な自信作である。
人の顔は描けないが、なんとかいけたな。うん、若干オフトンに見えなくないこともないこともないこともないけど、きっと多分オフトンと分かってくれるさ。いや、どっからどう見てもオフトンだよな?
ちなみに建築場所は、トンネルと宿屋の間だ。住宅地にもほどよく近い。
この神立地であれば、村人は勿論一般通行商人たちだって参拝していくに違いない。
「よし」
「あらケーマ、もう教会建てたの? もしかして徹夜した?」
「おおロクコ。だからこの仮面をつけてる時はナリキンと呼んでくれと……まぁいいか。こいつを見てくれ、オフトン教会だ。なかなか立派だろ。ハッハッハ」
「よーしよし、膝枕してあげるから一旦寝ましょうね」
「え? なんだよオイ引っ張るなって。あ、でも膝枕か、聖典ネタに使えそうだな、よし頼むぞロクコ」
そして俺は仮面を外し、うっかり徹夜して寝不足の頭をロクコの膝枕で癒した。
……
教会内に作った個室スペースで起きた俺は少し反省した。
というか、何で俺は現在進行形でロクコに膝枕されて頭をよしよしされてるんだ。ハクさんに殺されるんじゃないかこれ。
「ケーマ、頭は冷えた? 教会作るって言いだしたあたりまでは正気だったと思ったんだけど、もしかしてもう寝不足だったりした?」
「……いや、そんなことは無いけど」
「それなら今回は大事になる前に眠らせられたわね。ふっふっふ、ナイスアシスト私」
いやいや、寝不足になってもそんな大事になったこと無いだろ。……無いよな?
とりあえず、上半身を起こす。ロクコの膝枕が少し名残惜しくもあるが……
「まぁ、その、なんだ。ありがとうロクコ。俺は正気に戻った」
「どういたしまして。それで、これからどうするの? 昨日はサリーが私にも挨拶に来たけど」
「そうだなぁ……とりあえずサリーさんは旅行と言い張ってるしこちらも下手に突っ込まず放置、あわせてシキナも現状維持、マイオドールは……うん、これもやっぱり現状維持。というわけで、オフトン教の布教でもしようか?」
「…………まぁ、特にどれも差し迫ってないものね」
うん、色々面倒事はあるが、どれも放置でいいと思うんだよね。寝たい。
「で、布教だけどいい案ないか? たとえば、オフトン教を信仰している人はトンネルの通行料がお得になるとかさ」
「そんなことしたらオフトン教とトンネルダンジョンがつながってるってバレるわよ。まだ寝足りないみたいね?」
ぽんぽん、と膝をたたくロクコ。……うん、正論だ。
というかロクコ、本当に頭良くなったよな。このままいけば来年あたりに賢者と言われるレベルになってるんじゃないか?
あと俺の好みを的確に突いてくるようになったな……かしこい。
「じゃあ宿で宿泊したときに、信者にはプリンを1個サービスというのはどうだろう」
「それならよさそうね。むしろ殺到しそうだけど。ところで、入信の儀式とかはあるの?」
「あー……ないな、そんなの面倒だし。『私はオフトン教です』って言ったらもうそれでいいことにしようか。希望者には聖印の穴開きコインを販売しよう」
「軽いわねぇ」
「だって面倒だし……そんなことするくらいなら寝たいだろうしな」
ちなみに穴開きコインは銅製のが銅貨1枚から。鉄製ので銅貨5枚、銀なら銀貨1枚、金なら金貨1枚って具合だ。安眠のお守りにどうぞってな。
あと紐やチェーンは別売り。ネックレスにする以外にも、キーホルダーやストラップのようにしてもいい。
「このコイン、無地なのね」
「図柄が思いつかなかったんだ。……そうだな、個々の信者が夢に見たいものを彫ったり描いたりすればいいと思うよ」
「いいのそれ?」
「俺がルールみたいなもんだからな。なんでもアリだぞ、要望があれば今のうちなら受け付けよう」
「要望って程じゃないんだけど、ひとついいかしら」
「おう、なんだ?」
「この教会、誰が管理するの? ケーマは管理ほったらかして寝るんでしょ?」
…………
しまった!! すっかり忘れてた、建物だけ作っても店番もとい管理人が居なきゃダメじゃないか! 和尚さんとかシスターとかブラザーとかそういう系の!
「はぁ、考えてなかったって顔ね。まぁモンスター呼べばどうにかなる問題だけど」
「そ、そうだな。人間と言い張れるモンスターを召喚すればいいだけか」
「でもこれ、ケーマの無駄遣いよね?」
「……はい、無駄遣いです」
「いくらケーマがダンジョンマスターだからって、私がDP自由に使わせてもらえないのにケーマだけ自由に無駄遣いしちゃうってどうなのかな、って思うのよ最近」
うぐ、確かにロクコにはお小遣い程度にしかDPを渡していない。もっともロクコの手持ちにはハクさんからのチップ分があるし、俺もあんまりDP使ったりしてないわけだが……
「というわけだから、なるべくDPを使わずに解決してみて。使っていいのは1000DPまで。これができたら、そうね……神の掛布団をご神体としてこの教会に貸してあげるわ」
「お、いいのか?」
「どうせ箔付けに借りようと思ってたでしょ? 昼間くらいはいいわよ」
ステンドグラスから差し込む光の下に物干し竿をつかって干せば、実際ただの布団干しなのに神々しく見える事だろう。
「よし乗った」
「それじゃあ今から使うDPに制限をかけときましょう。今から解決するまでに1000DP以上つかったらアウトだから。もし使ったら――そうね、私の言う事をなんでもひとつ聞いてくれるとか、どう?」
「わかった、無茶じゃなきゃいいぞ」
「ふふふ、楽しみにしとくわ」
にこり、とロクコが笑む。
「願い事を増やして、とかそういうのは無しな」
「……その手があったか。ケーマってやっぱり天才よね?」
なんか乗せられたような気もするが、まぁいいだろ。
俺はメニューを開き、DPの表示を弄る。……ダンジョン運営用と分けて、残1000DPっと。地味にメニューさんってこういう便利機能がついてるんだよな。
「準備できたぞ」
「どれどれ……うん、ばっちりね。それじゃあ頑張ってねケーマ。頑張らなくてもいいわよ?」
「なに、どうってことないさ」
ふっふっふ、絶対に神の掛布団を借りてやる、オフトン教のためにな!
と、俺が決意を新たにしたとき、部屋のドアがノックされた。
「ご主人様、起きとる!? 大変や!」
「ん? イチカか。どうした?」
よほど急いでいたのだろう。部屋に入ってきたイチカは軽く息を切らしていた。
「シキナがツィーアのお嬢様が持ってた魔法薬をカチ割って、口論になっとる! どうにかしたって!」
……うへあ。
((感想欄見つつ)オフトン教大人気だな!? 時代はそれほどまでに癒しを求めているのか……!)





































