宗教始めました。
(前回のあらすじ。ケーマがどうでもいい決意をしました)
オフトン教の教会を作ることにした俺は、諸々の問題を投げ捨てて建築にとりかかることにした。現実逃避とも言う。
……デカいのを建てようと思ったが、よく考えたら土地がそんなに無い。
まぁ今回は最初の教会だ、そこそこでいいか。将来的にはデカい教会もたてるとして、大雑把に設計図を作るとしよう。
俺は紙とペンを用意して、執務室で作業することにした。
まず外見だ。個人的に教会といえば白い壁に青い屋根というイメージがある。まぁ建物はそれで良いだろう。
材料は……白は漆喰? 貝殻とかの石灰だよな。青は……青い屋根ってなんだろう。銅か? 緑青? うーん、適当に作ってペンキでいいか。
暖かな光が入ってくる窓も欲しい。この世界で窓ガラスは貴重品だが、ポーション瓶を【クリエイトゴーレム】で加工できる俺なら安いもんだ。ガンガンつけてしまおう。
外見はそんな感じにするとして、次は中身だな。
横に並んで座れて、ご神体にお祈りができるように……そうだ、うたた寝ができるように机もつけよう。
オフトン教は眠りが祈りだからな。机って不思議と眠れるよね。隣が気にならないように仕切りもつけておくか。
で、ご神体はやっぱりオフトン……いやまて。ここは振り子の5円玉とかでも良いかもしれない。だんだん眠くなる的な意味で。
むしろ十字架みたいなシンボルとして、5円玉は良いかもしれない。使い勝手が。
……さすがに5円玉そのままっていうとアレだから、穴開きコインにしておくか。これに糸をひっかけてペンダントのようにしても良いだろう。
というわけでご神体は振り子の5円玉をモチーフにして、っと。……振り子時計っぽいかな。まぁいいか。
あとは講壇を作って……眠りを誘う無駄に長い話を垂れ流すのも良いな。
そうだ、折角だしよく眠れる難しい本も置いとこう。この世界の本って『ダンジョン学入門』くらいしか知らないけど、ダイン商会に適当な本でも調達してもらうか。金ならそこそこある。
「うん、なかなかいいんじゃないかな?」
適当に書いた設計図を改めて見る。
……
教室っぽいな。御神体のかわりに黒板でも置いたら完璧だ。
そうだな、その、寺小屋的な? そういう用途にも使えるってことで……うん。
あ、そうだ。懺悔室とかも作るべきかな? まぁこれは普通に作るとして……
と、一通り書いたところでコンコンと扉がノックされた。
「ケーマ? ニクから聞いたんだけど、教会を作るって何よ」
「おう、ロクコか。入っていいぞ」
「お邪魔するわよ。……で、教会を作るって、ハク姉様でも崇め奉るの?」
「いや、オフトン教の教会を作るんだ」
「オフトン教?」
ロクコが首を傾げた。……そう言えば言ってなかったな。
「聞いたこと無いわね。ケーマの故郷の宗教なの?」
「俺が作った。いや、正確にはこれから作るのかな? まぁロクコが知らないのも無理はない」
「そりゃ知らないわね。……というか、宗教って作るもんなの?」
「ハクさんが神扱いされてる白神教なんてのがあるんだ、俺が作っても問題ないだろう」
「ない、のかしらね?」
うん、ないのだ。まぁ新興宗教ってことで。
「どういう教義なの?」
「安心と安寧と心地よい睡眠を求めることを第一とした、実に平和的な宗教さ。お祈りは睡眠。毎日できる簡単なことだろ?」
「そうね。毎日16時間寝るとかじゃなきゃね」
「そこは昼寝とか普通の睡眠でいいよ、うん」
……16時間くらい余裕だと思うけどなぁ。
とりあえずお祈りは睡眠、とメモっておいた。
「そして画期的なことに、オフトン教は『サブ宗教』として信仰することが可能とする」
「サブ宗教……? なによそれ?」
「つまりメインで光神や闇神、邪神を信仰していたとする。オフトン教はそれを認める。認めたうえで、オフトン教もついでに信仰できる。そういうやつだ」
ゲームで言えばサブJobみたいな、そういうポジションだ。メインが戦士のサブで僧侶みたいな感じで、メインが白神教のサブでオフトン教、みたいな。もちろんメインがオフトン教でもいい。
幸せを求めるならメインの神様に祈って、安寧を求めるならオフトン教でスヤァ。そういう感じでいいとこどりすればいいと思う。
「いいのそれ? そんなの聞いたこと無いわよ」
「何も問題はないだろ。それだけ懐が深いってことにしとけば入る人多そうじゃないか? そうだ、信者ナンバー2番はロクコでいいぞ」
「695番を予約しておくから、頑張って信者集めてね」
「お、おう」
地味に多いな……ニクやイチカも面子に入れとくか。
「何かこう、宗教っぽい逸話みたいなものは無いの?」
「ん? そうだなぁ……じゃあ適当に作っとくよ。眠りの大切さをこんこんと説く話……あ、蚊は敵な。悪魔扱いしとこう」
見えないが存在を確実に主張し、その羽音と痒みによって睡眠を妨げる大悪魔モスキート。聖剣カトリセンコーで撃退するのだ……!
あ、聖剣で思いついた。昼寝剣シエスタは眠りという救済をばら撒く神剣ってことにしよう。メモメモ。
「ちなみに睡眠が要らない私とかって背教者扱いされたりするの?」
「要らないだけで眠れるなら別にいいだろ。むしろ眠れなくても休息をとれるやつならオフトン信者の資格ありだ」
「アバウトねぇ」
「オフトンは全てを包み込む優しき存在……そこには善悪の区別すらない、これぞまさしく平等の愛。オフトンとは母なのだ……ただし蚊、テメーはダメだ。せめて飛ぶな」
うん、こんな感じで聖典作るか。メモしておこう。他にもそれっぽい言葉を……
睡眠不足はお肌の大敵……女性に向けてアピールできるな。
休まずには戦えない。戦うためにも休息を……戦士にも休息は必要だよな。
慌てない慌てない、一休み一休み……僧侶が釣れそうだ。
体を壊さないようにちゃんと寝よう……労働者向けにいいな。
下手の考え休むに似たり……これは違うか。
「オフトンは全、全てはオフトンなり……っと」
「ケーマ、睡眠不足だったりしない? 頭大丈夫?」
「大丈夫だ問題ない」
さて、あとは実際に教会を作って信者を増やすだけだ。信者が増えればお祈りの名目で堂々と二度寝や昼寝ができる。……できるのだ! 別に今でもしてるけど!
朝二度寝、みんなで寝れば文句ない!
俺が昼寝をしても何も言われないように、むしろ寝ることが褒めたたえられるようにしてしまえばいいのだ! フハハハハ!
「そうだ、冒険者向けに『今なら非常食にもなるミニ小豆枕をプレゼント』とかどうだ?」
「イチカは喜びそうね」
まぁ食べられるだけあってダニとかもわくから半年くらいが限度だけどな。
『浄化』あればもっと行けるかな?
――まず初めに、世界があった。
世界に生物が生まれた。そこに、休息もまた、生まれたのだ。
休息とは救済であり、安寧である。
すべての者は等しく休む権利がある。
そしてその休息を手助けするものこそ、オフトンである。
オフトンは愛であり、オフトンとは安らぎの象徴。
オフトンは善悪の区別すらなく、信仰する神が異なろうとも、あまねく命を包み込む。
故に、全てのものはオフトンの子である。オフトンとは、ただ優しくそれを見守る母である。
よりよい休息を。快適な睡眠を。それこそが、オフトン教の教義である。
(オフトン教典 第1章 第1節「安らぎのオフトン」 より抜粋)
(あ、なんなら勝手にオフトン教典を書き加えてもいいですよ?)





































