残念エルフと嘘発見器
それから数日、俺はシキナを教育することにした。
具体的には算数や国語といった日本では小学生に教えるようなことを詰め込んで、頭が疲弊したところで道徳についての授業を行い、常識的な言動を刷り込んだ。
主に恥じらいや、下品な言葉を使わないことについて教えるという、こちらは日本の道徳とはかなり違う内容ではあるが、この教育のおかげで、最近はシキナもだいぶ真人間になってきた気がする。
……ちなみに道徳の授業は、ニクも一緒に受けてもらった。
いや、1人で授業を受けるのも可愛そうだからであって、別にニクが恥じらいが無いとかいうわけじゃないよ? 普通に俺の抱き枕してるけど。算数や国語はレイとかネルネが同席してたよ?
で、そんなこんなで数日経ったある日。
「ケーマ。なんだかんだで最近シキナにばっかり構ってない?」
俺が何かおかしいと気付いたのは、ロクコのその一言からだった。
「……言われてみれば、そうだな」
「やっぱりあのエルフみたいな露骨エロが好きなの?」
「いや、そんなことは」
ないはず。そう、ないはずだが……
たしかにシキナに構っていて最近睡眠時間が減ってる気がする。
いや、気がするではない。事実、1日当たりの睡眠時間が1~2時間減っている。
「いかん、このままでは寝不足で死んでしまう」
「昼寝含めて毎日8時間は寝てるじゃないの。むしろ最近は早起きになって健康的だと思うわよ?」
「早起き……だと? ちょっとまて。俺は、俺が、早起き、してたっていうのか……?」
「そうよ、エルフの面倒を見るためにね」
俺は愕然とした。
三度の飯より二度寝が好きな俺が早起き……だと? これは何か異常が起きている。
シキナの仕業か? いや、そうに違いない。
あの露骨エロの行動により俺の性欲が刺激され、三大欲求のバランスが崩れて睡眠にダメージ?!
「……シキナが原因、か?」
「原因かと言われれば原因なんじゃないかしら」
これは問いたださねばなるまい……
*
「いくでありますよー!」
「……おう」
そしてなぜか模擬戦をする事になってしまった。
前だったら「師匠の質問ならなんでも答えるであります! スリーサイズでありますか? 分からないので測ってください!(がばっ)」とかいう所を「模擬戦で自分に勝てたら答えるであります!」と、交渉してきたのだ。
いやぁ成長したなぁ。面倒くさいけど。
そんなわけで、俺とシキナは2人きりで宿の裏庭でバトることになった。
ニクやセツナが俺の闘いを見たがったが、拒否した。とっさに手の内は晒したくないからと理由を付けたが、これは事実でもある。
俺の動きは布の服ゴーレムに教え込んだことしかできないからな。動きがいつも同じとかバレると厄介だし、怪しさしかない。ニクはともかくセツナには見られたくないな。
ちなみにシキナの格好だが、セツナから動きやすい服を貰ったとのことで、体操服+ブルマだ。
……金髪エルフの体操服ブルマ……なんだろう、行ったことないのにイメクラっぽいという感想が出てくる。
「っと、少し待て」
「なんでありますか?」
「この勝負、俺が勝ったら明日は授業を休みにする。まぁ休日だ」
「なんと!? 休日でありますか!」
「しかも俺が勝ったら、オマケにアンパンを付けよう」
「アンパン! ……な、なんでそれ自分が勝った時じゃないのでありますか!?」
そんなの決まってるだろう、俺が勝ちやすくなるためだ。
ちなみにシキナは菓子パンや惣菜パンではアンパンがお気に入りだった。
あんこが和むとか。でも生クリーム入りのはエルフ的にちょっとくどいらしい。
「あと事前に言った通り質問にも答えてもらうからな」
「むむむ、なら自分が勝ったらケーマ師匠の抱き枕係にしてもらうであります!」
「断る。お前が勝ったらただ休日もアンパンも無いだけだ」
「なんということかっ……さすが師匠でありますな! あ、誰も見てないからってやっぱなしはなしでありますよ?」
「安心しろ、俺は約束は守るんだ」
木剣を構えるシキナ。それを見て俺も木剣を構える。……あとは布の服ゴーレムとゴーレムサポーターにお任せだ。
というわけで、Aランク冒険者のグラップラーであるミーシャの動きでシキナを瞬殺した。
剣? 飾りに決まってんだろそんなもん。最初の一撃を受けたらポイよ。あとはミーシャの再現した方が強いし。
「馬鹿め、剣を持っていれば剣を使うと思ったか! 甘いわ!」
「ま、負けたであります……」
もっとも、ミーシャの動きを真似したところでパターンに過ぎず、フェイントすらも大体固定だ。仮にセツナと2度目の模擬戦をやればあっさりと敗北するであろう自信すらある。今回みたく瞬殺ならあと何回かは戦えそうだけどな。
……基本的に初見殺しでしか戦えないんだ、俺は。
「というわけで明日は休みで、アンパンをくれてやろう。よかったなー」
「うう、負けたけどお休みとアンパンは嬉しいであります……!」
俺がシキナの頭を撫でると、嬉しそうにニコッと笑った。
……最近はホント、酷い言動が無くなった分かなりいい線いってると思うんだ。
「それで、師匠が自分に聞きたいことと言うのは何でありますか? スリーサイズでありますか? それなら上からはちじゅ」
「油断してたらこれだよ。違うし。しかも自分のスリーサイズ覚えてんのかお前」
「当然であります。鎧を発注するのに必要でありますゆえ」
そういえば鎧とかもホイホイ壊れる魔剣を使ってるんだったなコイツ。
「俺が聞きたいのはだな。……シキナ、お前がなにを企んでいるか、って事だ」
「企む……でありますか? 自分は師匠の抱き枕係の座を狙っているくらいで、特に他には何も企んでいないでありますよ!」
「そうか。じゃあちょっとコレを見てくれ」
そう言って俺はあるものを取り出した。
大きさは手に少し余るくらいの水晶玉。今は透明だが、ある条件で赤く光るというものだ。
「これは……嘘を見破る魔道具でありますな」
「おや、知ってるのか?」
「騎士でありましたから」
そう、カタログから5万DPで引き換えた、嘘を見破る魔道具だ。
ちなみに赤く光るたびに50DP相当の魔石を補充しないといけない、地味に金(DP)のかかる嘘発見器である。
もっとも、今の収入なら何ら問題はない。少なくとも、シキナに質問をするくらいには。
「余計な嘘はつくなよ。もし嘘を言ったらアンパンは無しだ」
「なんと!? 殺生な、であります!」
「決まってるだろ、ちゃんと答えるという約束を破るんだ、そのくらいは当然の制裁……むしろ優しいくらいだろ」
「むむむ……で、師匠はそんな仰々しい魔道具まで持ち出して、自分に何を聞く気でありますか!? 初めての相手とか聞かれても、自分はまだなので答えられないでありますよ!」
「油断すると出てくるなその残念な所は」
まぁいい。と、俺は魔道具に魔石を投入した。触ると硬い水晶玉なのに魔石がちゅぽんと飲み込まれるのは不思議な感じだ。
「……じゃあ、まずは確認だ。シキナ、お前は男か女か」
「女であります」
水晶玉は光らない。うん、まずは分かってる。ちなみにコレの厄介な所として、本人が事実として認識していることについては判定できない。
仮にシキナが体は男だけど、心は女の子! と思っていたら今のも光らないんだよな。
「俺に対して悪意はあるか?」
「あるわけないでありますよ。……そんな寂しいことを聞かないで欲しいであります」
これも光らないか。悪意が無いのはいい事だ。
だが、シキナはしょぼんとした。
「……すまんな、これも必要なことなんだ」
「水晶玉が光らないということは、本当なのでありますな。分かったであります、自分は正直に答えるので、どんどん聞いてほしいであります!」
ちなみに、今この状態で俺が嘘を言っても光る。効果範囲は5mだ。一応光り具合でどっちの方向にいる人間が嘘を言ってるかくらいは判別できる。
「ここへ来たのは誰かの命令か?」
「そうであります。父にもケーマ師匠から汚さを学んで来いと言われたでありますよ」
水晶玉はまだ光らないが、うん、なんだって? 父『にも』?
「他に誰かから命令されてるのか?」
「第一騎士団団長のサリー様にも、ケーマ師匠から学んで来いと言われたであります! しっかり学べた暁には騎士団に復帰して良いとの事でありますよ」
……あっ。ここ怪しいな。
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