帝都観光(3)
冒険者ギルドを後にし、高級なレストランで昼食をとった。
食事、緊張して味がよく分からなかったけど、さすがにたぶんうちの宿の飯より美味かった。キヌエさん連れてきて、ぜひとも味を盗んでいってもらいたいところだな。
ただ、なんか気疲れしたので食後は公園で昼寝としゃれこんだ。
観光はまだ後日にもできるしな。……いや、ロクコとハクさんの2人で夜会用のドレスだかを買いに行ったから、その間寝てただけだよ。なんでさっきの服屋で買ってないの? え、店が違う? あれは日用品の服屋で、夜会用ドレスの仕立て屋は別の店? 普段着とスーツ買う店が違うようなもんか。というか日用品なんだバニースーツとか。
……で、5時間くらい寝てたみたいだけど、起きた頃にちょうどハクさんとロクコが戻ってきて合流した。夕方だった。
「うん、ケーマなら寝てると思ったわ」
「えっ本気で寝てたの? 今まで? てっきり気を使った方便かと」
「いいえハク姉様……ケーマは、寝るときは寝る男なのよ!」
ちなみにニクはベンチで昼寝してる俺をずっと見守ってくれてたらしい。俺が言うのもなんだけど、それでいいのか? 一応あとで合流してくれれば好きにしてていいよとお小遣いに銀貨1枚渡しておいたはずなんだけど。
そして夜。いよいよ地下闘技場だ。
闘技場では、モンスターや剣闘士を戦わせ、それを観戦して楽しむ。
ルールやレギュレーションは色々あるが、大人気なのはやはり「何でもありのデスマッチ」だそうな。
地下闘技場へは、一度離宮に戻り、馬車に乗って移動だ。
ちなみにハクさんはいつもの大人形態に戻っていた。ただし、申し訳程度に目元を隠す白い仮面をつけている。
ほぼ無地のシンプルな仮面だが、流れ星のように左目の下に青い宝石が3個埋め込まれていて、ハイセンスだった。
「……なんで元の姿で?」
「あら、せっかくだもの、特等席で観戦したいじゃない? こちらの方が都合がいいのよ。はい、ロクコちゃんの分の仮面よ。ケーマさんは別にいらないわよね」
「わぁ、ありがとうございます!」
まて、身分を隠してる体で、ってことか。そしてニクに至っては聞かれすらしない。まぁ隠すような身分無いけどさ、俺もニクも。
「……一応、俺とニクの分も無いと不自然じゃないですか?」
「仕方ないわね。はい、どうぞ」
ロクコの仮面には宝石が2個ついていたが、俺とニクの分には1個もついていなかった。何か意図的なものを感じる。きっとお忍びながらも身分を表す何か的な。
「一応私の連れということで、恥ずかしくないようにしてくださいね?」
「ええ、気を付けますよ」
「ちなみに仮面をつけていない場合は剣闘士という意味になります。ケーマさんがどれほど戦えるか見たかったですが、仕方ないですね」
「……ハハハ。宝石がない仮面は使用人ですかね?」
「ふふふ」
やはりそういう関係の仮面だったか。危ない。
馬車がトンネルに入った。そして、そのまま地下へ。少ししていきなり視界が開けたと思ったら、そこは見事なコロッセオだった。
地下建設とか建築技術が結構すごいのかなとか思いつつ、そういえばダンジョンで作れば一発だな、と思い至った。俺もダンジョンに闘技場つくってたわ。
ハクさんと一緒に案内されて闘技場に入ると、そこは見晴らしの良い貴賓席だった。
椅子はハクさんとロクコの分のみ。まぁこれくらいはいいけど。
闘技場内は、一面土のフィールドだった。
今はモンスター同士の戦闘らしく、大型四足歩行の巨大猪と、二足歩行の人型牛が組み合い、派手に戦っている。ビッグボアの突進を、牙をつかんでとめるミノタウロス。押されて土の地面に足跡を残しつつも、そのまま筋力に任せて横に投げ転がすさまはまさに圧巻だった。
『さぁ、負けて明日の食卓に並ぶのはどっちだー?!』
解説もなにうまいこと言ってんだ、イチカじゃないが、腹が減るじゃないか。
あ、そういえば晩御飯食べてないや。
「なかなか迫力があるでしょう?」
「ええ、ハク姉様。なんというか……音、というか衝撃がすごいです」
2体のモンスターが衝突するたびに、ぐわん、ばちん、と空気が震える。
最終的に、ビッグボアを転がしたミノタウロスがマウントポジションをとることに成功し、柔らかな腹を何度も殴りつけて勝利し、「ぶもおおおおお!」と雄叫びを上げた。
「ちなみに、負けた方は本当にレストランの食材になるのよ。だからわりと人気なのよこの組み合わせ。どちらもDP的に安いし」
「あ、やっぱりあれDPで出してるモンスターなんですね」
「ええ。ドルチェ……といっても分からないわね。ミーシャと同様、私のパーティーメンバーなんだけど。この闘技場はその子に任せてるの。超一流のテイマー、という触れ込みよ」
そりゃ初めから言うことを聞くモンスターを召喚できるんだ、テイマーとしては超一流に違いない。
『さぁさぁ盛り上がってきたところで、次の闘技者――え、ちょっとまって。いいの? え、マジ? 上からOK出てる? ……えっと、あ、失礼しました。コホン――それでは次の闘技者を紹介しようッ!』
司会に少しトラブルがあったようだが、次の闘技者とやらに何かあるのだろうか?
その疑問は、すぐに解決した。
『本日飛び込みで急遽参戦ッ! 冒険者ギルド長、ミーシャァアア! 冒険者ギルド本部を治める猫獣人が力試しにやってきたッ! 見た目は少女、頭脳も少女の実年齢不詳の居眠り女ッ! だがその実力は折り紙付きの、超一流グラップラー! Aランク冒険者の破壊力は伊達じゃァない、その拳はアダマンタイトをも砕くッ! ……というか、Aランク冒険者、しかもギルド長がこんなところに来ていいのかッ?!』
「うっさいです! ああもう、ハク様に言われなきゃこないですしこんなとこ……まぁ、ここで敵をぶっ倒せば居眠り不問にしてくれるっていうし、いきますよっ! ふふふ、しっかしただ戦えばいいだけとか楽勝ですねっ」
おう、ミーシャさんじゃないですか。ハクさんを見ると、にこっと微笑まれた。
お仕置きってこれか。
『対するモンスターは闘技者の指名により、当闘技場の花形モンスター、ビッグテンタクルスライムッ! 半透明のうねる触手にスライムボディー、物理無効のいろんな意味でいやらしい奴だ! グラップラーがあえて物理の効かない相手を指名するッ、その姿、まさにチャレンジャー!』
……うん、お仕置きってこれか。
にょろん、とミーシャの身長を2倍にしたくらいの背丈のある、イソギンチャクのような形状のスライムがずるりずるりと闘技場に入ってきた。紹介にあった通り触手がうねっている。
「え、やだ、なにそれ聞いてない。ちょっ、まっ、ひゃぁあー?!」
Aランク冒険者の悲鳴が闘技場に響いた。
尚、ハクさんはロクコを後ろから抱っこするように目を塞いでいた。
「あれ、ハク姉様? みえないです」
「ちょーっとまっててねロクコちゃん。今だらしない部下のお仕置き中だから」
闘技場では、ミーシャがちょっとひどいことになっていた。
とりあえず俺もニクの目を塞いでおいた。
あ、序盤の触手をひたすらよけまくる身のこなしは凄かったよ。なんか分身してたし。
(そういえば書き忘れてたけど、前回のモブ名は活動報告のモブ名募集のんから採用しました。ありがとうございました)