働きたくない…!
「働きたくない」
異世界召喚。で、神様が一つだけ条件を聞いてくれるということで、俺、増田桂馬はそう答えた。
「……えーと、どうしろと?」
「働かなくてもいい人生がいい……」
「……木とかに転生でもするかい?」
「あー、いいっすねー」
神様が呆れた顔でため息をついた。
「あのさ……なんで僕が君に条件聞いたのか、話聞いてた?」
「え? なんででしたっけ?」
マナの循環をしてほしいとか、魔物がどうとか、そういう話だったとおもうけど、よく聞いてなかった。
「キミは元の世界でなにやら、ゴーレムみたいなものを研究してたんだろう? だから、やる気に満ちているのかと……」
「え? ハハハ、んなわけないじゃないっすかぁ。いまどきの学生なんてそんなもんっすよー」
メイドロボを造ってすべてを任せて楽に生きたい、それが俺の夢だった。
そんな、夢を語らせたら一言目で駄目人間とわかる俺に何を言ってるんだこの神様。
ちなみに実際学校では30センチくらいの出来合いキットのロボを動かして遊ぶような研究をしていた。自分で作る? めんどいな……
「うん、時間もないし……せっかくだったけど、次の人に頼むとするよ」
「えー……」
「……まぁ、言葉だけは分かるようにしてあげるよ。あと、君ががんばってくれたらその分恩恵があるようにはしておくから」
「働きたくないでござる……」
「転移先の世界は魔法とかあるけど、その分文明が発達してないから働かなきゃ生きてけないと思うよ。しかも、わざわざ召喚されたってことは何かしら仕事してほしいってことなんだろうし」
「おうちかえりたいです……」
「じゃ、頑張ってね」
視界が光に包まれた。
こうして、俺は異世界に召喚された。
*
「よ、よし! 召喚成功! ……って、あれ、に、ニンゲン?! なんで?!」
どういう原理かは知らないが、ほんのりと白く光る壁と床につつまれた部屋の中に俺は現れた。
目の前には白いワンピースを着た金髪ロリという、ロリコン垂涎の可愛い系女の子がいた。
だがあいにく俺はもっと育ってる方が好みなんだ、すまない。
……足フェチの俺としては、これでニーソ履いてたらいけなくもないが。
「なんで……DPをすべてつぎ込んだのにこんな雑魚種がぁあぁ……」
「……寝てていい?」
「えっ」
「寝てていいかな? あ、布団ある?」
「しゃ、しゃべったああああああ?!」
なんだこいつ。人が眠いっていうのにキャンキャンうるさいやつだ。
「うぐぐ、なによ、ガチャモンスターが喋るとか聞いてないわよ! ……あ、ニンゲンか。そりゃ喋るかしら」
「おい、なんだお前は……耳が痛いぞ、声を抑えろ」
「あ、う、うん。……というか、なによこいつ。私は召喚者よ、おとなしく言うこと聞いてればいいのに」
「おい幼女……パパやママはいるかな? 俺、帰りたいんだけど」
「誰が幼女よ! いーい、あんたはダンジョンコアに召喚されたモンスターなの! 死ぬまでこき使ってやるんだから!」
ダンジョンコア……モンスター……うん、わけがわからんな。召喚されて、俺勇者とかじゃないんか。
「ほら、さっさと立って外に出て、山賊どもを皆殺しにしなさいよ! 1000DPもつぎ込んだんだから実は強いんでしょ?!」
なんかいきなり物騒なこと言い始めたぞ、おい。
「わかった、少しは話を聞いてやるから、話せ。ダンジョンコアとかモンスターとか、でぃーぴーとか、何のことだ? 召喚されたってのは……分かったけど」
「あら、なによ、喋れるだけあって賢いのかしら。魔法使い系なのかしら……まぁいいわ。ここは私のダンジョンよ」
「幼女ダンジョンマスター……?」
「ふうん、ダンジョンマスターくらいは知ってるのね。でもうちのダンジョンにダンジョンマスターっていないのよ。あ、でもしいていえば私がダンジョンマスターかしら?」
もちろんこの世界のダンジョンマスターとやらがどういうものかは知らないけど、ファンタジーなゲームの記憶からどういうものか想像はついた。
が、ダンジョンコア……つまり、ダンジョンの心臓部だ。それがこの幼女……?
「というか、人間が雑魚種とかいってたけど、お前は人間じゃねーの?」
「ちがうわよ、この姿はニンゲンの姿なだけ……って、お前ってなによ、御主人様って呼びなさいよ!」
「あー、そういえば名前まだ聞いてなかったな、なんていうんだ?」
「私? 第695番ダンジョンコアよ」
番号かよ。手抜きだなぁ……いや、695番ってことは少なくとも他に694いるのか。そりゃ命名くらい手抜きにもなるわ。
「わかった、ロクコな」
「は? 何が?」
「いや、第なになに番ダンジョンコアとか呼びにくいから、お前の名前はロクコということにする。フルネームでロクコ・ダンジョンコアってな。あ、俺は増田桂馬ってんだ」
第695番ダンジョンコア改めロクコは、何言ってるんだこいつって俺を見る。
「はい? マスターケーマ? ……偽名かしら? ってか、何勝手に言って――」
『マスター承認されました。』
「「え?」」
何かよくわからないけど、こうして俺はダンジョンマスターになった。