おかしなことなどない、ただ普通の夕暮れの事
原案、いわばプロットは俺のじゃありません。
他の人に手伝っていただき、どうにかプロットが仕上がりました。
そして執筆してみたら、自分なりに勝手に改変してしまいこの様です。
発案者さんたちに、謝罪を…………。
「……あれ?」
とある平日の出来事である。
なんとなくという理由で入ってしまった部活動が終わり、ダラダラと夕日に向かって歩き、『今日って何かおもしろいテレビ番組有ったっけ?』などと考えながら駅のホームについた時。
いつもは学生鞄の外側についているポケットに入っているはずの定期が見当たらないのだ。
学生鞄の内側を捜しても、ズボンのポケットや学校指定の学ランのポケットの中を探っても、まったく見当たらない。
やらかしてしまった……。期限もまだ大分残っているはずだ。
とりあえず家に帰ってから考えるか。それとも学校に、教室に戻って一応机の中とか確かめてみるか……。
取捨選択で悩んでも無駄だと思い、学校に行き、確かめてから帰るという方針を取った。
わざわざ来た道を戻ることほど無意味で無価値なものは他に無い、などとくだらない事を考えなければ歩けない性分なのか。それとも、わざわざ来た道を戻ることほど恥ずかしいことは他に無いと思っているからか。
ともかく、どうでもいい事をどうでもいい方向でどうでもよく考えて、人生なんて、定期なんてどうでもいいという雰囲気を纏いつつもどうにか昇降口から階段を上り教室へ。
一応、日が沈むまで練習をしている運動部もいるため鍵は掛けられていないが……閉められるのも時間の問題だろう。
早めに探して、早めに学校を出て、早めに家に帰る。
それがいい。そうしよう。
ちょっとばかり意気込みながら教室の中へと入ると、一人の学生が机に腰掛けながらこちらに背を向け、外を見ていた。
少しずつ沈んでいく夕日に照らされて影しか見えないが、華奢なシルエットをしてるところからみて女子生徒だろう。
一体どうしてこんな時間まで教室に残り、外へと目を向けているのだろうか。
それは随分と気になる事だが、今の目的としてはどうでもいい。
俺も中学二年生ぐらいの時に一人っきりの教室で外を見ていたこともあった。きっとこの生徒もそういう気分になっているんだろう。
だからそっとしておいてあげよう。声を掛ける必要も無さそうだし。
出来るだけ足音をたてないように歩きながら、自分の席へと近付いていく。
そしてそこで気付いた。
この外を見ている生徒は誰の机の上に乗っているのか。俺の席だ。
俺の席は、窓側列の隣の列にある。つまりそこから窓の外を見ることもできるが……外を見ることが目的ならば、まず座る事のない座席だということだ。
じゃあこの生徒は一体誰で、どんな目的でここに座っているんだろう。
どんな目的は分からないが……一体誰なのかは検討が付く。俺に親しい人物だろう。
そして心当たりが一人だけ。幼少期から付き合いがあり、尚且つ同じ学校、同じクラスで、華奢な容姿の幼馴染が一人。
ついでだ。まだアイツには気付かれてないみたいだし、このまま驚かして何してたんだか聞いてやろう。
そのまま静かに、息を殺してアイツに近付いていき……。
「わっ!!」
「うひゃっ!?」
肩に手を置き、声を掛ける。
割と普通の驚かし方だと思う。それに派手でもないし、やり過ぎもない一番いい驚かし方だと思う。
だけど振り返った、アイツの目には涙が溜まっていた。
「……なっ」
そんな泣きかけてる幼馴染の姿を見て、思わず顔が強張ってしまう。まさか……驚いて泣いてしまった?
でも振り返ったお蔭で、確認がとれた。間違いなくこの机に乗っている生徒は俺の幼馴染だ。
大きな胸にツインテール。いつも通りの見てくれで、いつもと違って泣きそうだ。
こんな弱々しそうな顔で、涙なんて……俺の知ってる幼馴染と少し違うようにすら感じる。
「なんだ……アンタか」
「お、おう……」
人差し指で溜まった涙を拭く姿を見ながら、俺はぎごちない返事しか返せなかった。
「あ、あのさ」
「何?」
少しばかり不機嫌そうに返す幼馴染に、少しばかり躊躇ったが、それでも俺は気になることをそのまま訊いた。
「ココで何してたんだ?」
「何も」
「じゃあ……なんで泣いてたんだ?」
「泣いてないわよ」
「いや、泣いてたろ」
「はぁ……じゃあ何? 泣いてたら何かしてくれるの?」
「いや、話を聞くくらいならできるけど……」
「話を聞くくらいって……バカじゃない?」
「何がバカなんだよ」
少しばかりムスッとした気分で訊き返す。
「話を聞くくらいなら壁にも埃にもできることなの。重要なのは聞いた後にどうするかでしょ」
「うぅ…………」
正論のような気がする。
確かに、話を聞く、というものの捉え方を少し変えれば言う通り。壁にも埃にも中空にもできる。
人同士なんだから話を聞いたあと、どう返すかが重要。
俺がこいつが泣いてる理由を知った時に、どう行動するかが重要。
……幼馴染のことは昔からよく知ってる。でもきっと知らないことも沢山ある。
昔は俺とよく一緒に遊んでた。近所の公園や、互いの家とかで。
小学校高学年くらいからはあまり遊ばなくなったが、それでも学校で話したりしていた。
中学校からはいきなり冷たくなった。俺に対して暴言は吐くは、暴力は振るうは、それでも宿題を忘れた時とかは見せてくれたり、このくらいの時からよく分からなくなった。
高校だって、願書を出しに行くときに初めてこいつがどこの高校を受験するのかを知った。
今じゃもう知らないことだらけだ。分からないことだらけだ。
何が好きで、何が嫌いで、何で俺に暴言を言うのか、何で嫌いと言ってくるのに構ってくるのか、よく分からない。
こいつがどうして泣いてるのかも。
きっと当然、聞きだせば分かることだ。でも分かった後、どうする?
どう行動する? ……もしかして、知っただけで終わりか?
聞いて、理由を知って、それで終わりか?
「……じゃあさ、話してくれたら一つだけ命令していいよ」
知って終わりなんて、何か嫌だ。
せめて知った後に何かしてやりたい。
俺はあまり人を喜ばせることとかは苦手だし、人の機嫌をとることも苦手だから、何をすればいいか分からないけど。
幼馴染の頼み事くらいは聴ける。
「命令……?」
「そう。俺はお前が言う通りバカだから、話を聞いたあとで何すればいいか分かんないし……だからお前の頼み事一つ聴いてやる」
「……それも聞いただけで終わりとか?」
「人をバカにするのも大概にしろ。ちゃんと叶えるよ」
「なんで……そこまでして聞きたいの?」
「そりゃ俺の幼馴染が一人で夕日に向かって泣いているのだ。気になるし、出来ることなら力になりたい」
「だから……なんでそこまで私に構うの?」
「好きだから」
「なっ…………ッ!?」
「幼馴染として」
「……バ、バカなこと言わないで! ともかくっ! 私は泣いてなかった! 以上、おわりっ!!」
「あ、ちょっと待てよ!」
これは幼馴染の悪い癖だ。
いつも俺の話を勝手に切る。こっちが気になってることとかお構いなしに突然、話を切ってしまう。
普段はまあ仕方ないことだと思い、容認していたが今ばかりはそういかない。
無いとは思うが、幼馴染はいじめを受けててそれが原因で泣いてたのかもしれない。
それ以外にも色々可能性はある。考えれば考えるほど深まるばかりだ。
だけどその可能性一つ一つには必ず、解決方法があるはずなんだ。だから最初に話を聞いて、なんで泣いていたのかが分からないと駄目だ。
机から降りた幼馴染の腕を掴んで引き留めようとする。
しかし彼女はそれを乱暴に払い―――そうされるとは思っていなかったのか、俺の体は勢いに乗せられるまま幼馴染を押し倒すような形で崩れた。
「えっ?」
「やば……ッ」
いきなり何があったのか分らなかったのか、幼馴染は何のアクションも起さずに流れに従うまま倒れていく。
対して俺は、日頃運動しなれてるわけではないのだけど、彼女を抱きしめてそのまま半回転。
俺を下敷きにして、どうにか幼馴染を守る。
さすがにそのまま女の子を下敷きにするわけにはいかないからな。
「なっ!? ちょ……何してんのよいきなりっ!」
「痛ッ! 殴るなよ、これでも庇ってやったんだぞ」
「庇ったとか、知るかっ! バカァ! 放せどあほっ!」
「感謝の言葉もなしかよ! このツンデレ野郎!」
「ツン……っ! ば、バカじゃないの! 意味わかって使ってるの? バーカ!」
酷い言われようだ。せっかく助けてやったのに。
何がちょっと抱きしめられたくらいで大声出して、罵倒してくるんだよ。
なんかこういうところがムカつく。
「ああそうかい! じゃあ放すからさっさと離れろよ」
しかし彼女の言い分ももっとも。
もう庇い終わったんだから、放してやるべきだろう。放さない理由も無いし。
「……おい?」
しかし彼女は放れない。何故だろうか。
俺の胸板に縋るように顔を埋めて、一向に動かない。
どうしたんだ? 腰でも抜けたか?
「……ねぇ」
「なんだよ、どうしたんだ?」
「……さっき、私の話を聞いたら…………私が泣いてた理由を話せば、なんでも言う事聞いてくれるって……叶えてくれるっていったよね?」
やっぱり泣いてた。
だから最初から正直に話せばいいのに。
「ああ。言ったよ」
「じゃあ、話す。だから私の質問に正直に答えて…………お願い」
「俺はお前と違って、正直者だよ」
その言葉を聞いて安心したのか、幼馴染はそのままの姿勢で話し始める。
「あのねっ…………私……ずっと言いたくて、でも言えないことがあったの…………そのっ、えっと……私…………っ!」
あ、その前に一つ言っておかなければならないことがあった。
「あのさ」
「な、なによ……人が話そうとしてるときに」
「本当に話の腰を折って悪いと思ってるけどさ。お前に、幼馴染として言っておかなければならないことがあるんだ」
「だ、だから何なの…………?」
心配そうに、不安そうに顎を上げ、俺の顔を見ながら聞き返してくる。
俺はさっき言った。俺は正直者だと。
それをさっそく嘘にしてはならない。俺は幼馴染に嘘は吐きたくない……ッ!!
決死の覚悟で、俺は口を開いた。
「お前の大きい乳が当たって興奮するから、できれば椅子に座った状態で話を聞きたいんだけど」
「…………ッ!!!?!?」
ようやく気付いたのか、というか抱きついた状態なら気付くだろう。
幼馴染は瞬く間に紅潮していき、その顔は夕日よりも赤くなってしまった。
「な、なな……何言ってんのこのバカぁぁあああっ!!」
力の限り、突き飛ばすかのように俺を押し……といっても後ろが壁だから吹っ飛ぶわけもなく……幼馴染はそのまま教室をさってしまった。
一体、いきなりどうしたというのか。
……いや、大概検討はつくんだが。
まあ、原因は分からないままだけどいつも通りの幼馴染に戻った気がする。
ああいう姿のほうがあっている。涙なんて哀愁漂うものはアイツには似合わない。
その後、机の中を探ったら定期は見つかり……翌日から俺は幼馴染に《変態》の称号を貰い受けることになった。
俺にこんなものを書かせようとした奴、死刑っ!
……いや終身刑くらいで、いやいや罰金程度で……無罪放免?