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第29章「大欲の宣言」

『テレパシー』での連絡を終えた小春は、水月と共に周囲を探っていた。

 ……とりあえずこの状況でのんびりしてられないな。

「水月、廊下の方は大丈夫だな?」

「はい。念のため私が先行します」

「まかせる」

 小春と水月は視線を合わせてから頷きあった。そして水月が教室の扉を開く。

「気を付けろ、真八……だったか?あの能力は奇襲向きだ」

「はい」

 慎重に廊下を歩いていた二人だったが、急に水月が立ち止まった。

『どうした?』

『誰か居ます』

 すぐに小春は会話ではなく『テレパシー』に切り替える。

『気を付けろ、さっきは外したからな』

『はい、でもさっきとは感じが違います』

『なら……別の奴か?』

『分かりませんが、空間跳躍で一気に仕掛けます』

『分かった。無理に追い過ぎるなよ』

 水月は頷くと狐面を取り出して顔に付け、そこから姿を消した。

「うわっ!」

 と、廊下の奥から声が響いた。

 ……聞き覚えのある声だな?

「ま、待ってくれ……えっと」

 と、一樹は声の正体に気が付いた。

『水月、待て!』

『小春さん!?』

 小春は廊下を走り抜けると、声のする教室の扉を開いた。

「あ、小春……」

 そこに居た人物は、水月に長剣を付きつけられながら間抜けな声をだした。

「こんな所で何してる、一樹」


                    ●          ●


 飛鳥は、ゆっくりと立ち上がった九恩が目の前でナイフを構えるのを見ていた。

 ……本当に燕なの……?

 疑問に思いつつも、体が動かないという事実から確信を得ていく。

 ……しかし、この状況はマズイわ。

 飛鳥はナイフが迫ってくるのがやけにゆっくりと感じる。

 ……こんな、所で……!

 だが、その時だった。

「あああああッ!」

 叫びと共に何者かが体当たりをした。九恩は突然のことに反応出来ず、そのまま食らう。

「くッ……」

 ……翼……!?

 体当たりしたのは翼だった。飛鳥はすぐに体の自由を取り戻すと、『血液操作』で倒れ込んだ九恩に攻撃を加えつつ、振り返って叫ぶ。

「燕っ!」

 しかし、そこに居る人物の姿に飛鳥は戸惑う。その姿は飛鳥の記憶と異なっていた。

 ……あれは……本当に燕?

「つば……め?」

 黒く長い髪に、意志の感じられないような瞳。変わり果てていたが、手にしているのは間違いなく『正義の乙女(アストライアー)』だ。名前を呼ばれたはずの少女は、その名を口にしながら首をかしげる。

「あなたの名前でしょう?そんなことも分からないの!?」

 自分を攻撃してきた時点で、燕が今まで通りじゃないことは飛鳥も分かっていた。しかし首をかしげ、意志のない瞳でいる燕に飛鳥は苛立ち、怒鳴りつける。

「名前……」

「そう――いつまでも寝ぼけているなら、叩いて起こしてあげるわ!!」

 飛鳥はそう叫ぶと、一気に突進する。しかし飛鳥の刃が少女に迫った時、反応が変わった。

「……!」

 少女は槌の反対に付いていた鎌の刃を展開すると、飛鳥の刃の軌道に差し出した。そして、刃がぶつかり合うと斬撃を逸らすように受け流す。

「くッ……」

 ……寝ぼけてるようで、攻撃への反応は相変わらずね!

 飛鳥は素早く反対の刃で斬り込もうとする。と、少女は柄を回すようにして鎌から槌へと切り替え、そのまま地面へと叩きつけようとした。

 ……『正義の乙女』の発動だけは阻止しないと……!

 飛鳥は地面と槌の間に刃を付き込むしかなかった。二人の武器が再び激突し、動きが止まる。

「……!!」

 だが、動きが止まったのは一瞬だった。そこから少女は一歩踏み込み、牽制の蹴りを放つと共に武器を持ち上げ、体を一回転させるようにして鎌を振るった。

 ……動きを止めておくことすら出来ない!?

 バックステップでの回避と刃での防御を合わせ、かろうじて飛鳥は直撃を防いだ。

 ……これはちょっとキツイ……かもしれないわ。

 飛鳥は直撃を防いだものの、肩に傷を受けていた。

 ……でも、弱音なんて吐いていられないわね。

 小さくため息を吐くと、飛鳥は再び燕に向かっていく。

「だって、大事な仲間だもの!」

 刃を構える飛鳥は、笑っていた。


                    ●          ●


「笑ってる……?」

 翼は、飛鳥の攻撃で身動きが取れなくなっていた九恩から念のためにナイフと槍を没収し、屋上での戦いを見ていた。

 ……何で笑っていられるんだ?

 飛鳥はどう見ても不利だった。しかし笑いながら、何度も攻撃を仕掛ける。

「燕っ!さっさと目を覚ましなさいよ!」

 飛鳥は必死に戦っていた。鎌と刃が激突するも、飛鳥は力任せに吹き飛ばされる。

「……諦めないわ、私の大切な親友――生きていたんだもの」

 飛鳥は自分に言い聞かせるように呟くと、再び立ち上がる。

 ……大切な……親友。

 翼は急に、今この戦場に自分がいることが場違いに感じた。

「俺は……何をしてるんだ?」

 口にすると、それまでの疑問があふれ出す。翼は拳を握りしめた。

『それで死から逃れて、争いから逃れて、あなたは何を得るの?』

 ……そうだ、飛鳥は言っていた。

『死を恐れてでも、大切な物をその手で守り抜いて、生き抜くために、利己的にならないの?』

 ……飛鳥は大切なものを守り抜こうとしているのか。

「俺は、逃げてるのか?」

 疑問が口を衝いて出るが、翼にとっては何度も繰り返してきた自問自答だった。

「分かってるけど、俺は!」

『それはキミでも答えが出ないからかな?』

 今度は千鶴の言葉が浮かぶ。

 ……あの時は違うと答えた、けど。

『なら、その力を持ちながら持て余すと?』

 ……これは力、なのか?

 使えば必ず大事な人を傷付ける力。そんなものが役に立つと翼は思えなかった。

『それは、楽に生きるための言い訳だわ』

 再び飛鳥の言葉が浮かんでくる。翼は唇を噛んでいた。

『大体、巻き込みたくないとか、傷付けたくないとか、そんなもの全て利己的な思いの塊よ』

 ……利己的な思い……

『どうせ利己的な自己満足なら、誰かを守るために力を使う覚悟を決めたらどうかしら?』

 ……じゃあ、飛鳥は自分のために燕を助けようと思ってるのか?

 翼には飛鳥の真意は分からなかった。だが、飛鳥の言葉を思い出していく。

『そして、決めるのなら――死ぬまでに守れるもの、守り抜いて見せなさい』

 ……俺が守れるもの。

 飛鳥が守ろうとしてるように守りたいものがあるか、翼は考える。その時、翼の隣に京花が現れ、心配そうな視線を向けてきた。

「京花は、守れなかった……」

 ……京花も、俺に覚悟を求めるのか?

 だが、その考えに飛鳥の言葉が答える。

『覚悟を決めるのはあなたよ。他の誰にも、あなたの覚悟は決められないのだから』

「俺が、決めないと」

『決断するのはあなたよ。決めるのも、責任を取るのもあなた』

「そうだ。俺が決めて、俺が責任をとる」

 その時、京花が微笑んだ気がした。そして、いつものようにスッと消えてしまう。

「俺は……もう失いたくない」

 確かめるように口にすると、翼は目を閉じた。

「だから、俺は戦う……けど」

 ……そうすれば、大切なものが争いに巻き込まれる。

 そして、もう一度拳を握りしめる。

「争いからも、俺が全て守ってみせる!」

 翼が目を開くと、その顔から迷いは消えていた。そして目の前の争いへ駆け出していく。

 ……飛鳥!

「――ッ!」

 翼は、飛鳥に振り下ろされようとしていた鎌の前に飛び込む。

「翼っ!?」

 だが、その鎌は空中で静止した。

「花……びら?」

 花びらが散る中で目を見開いていた飛鳥に、翼は視線を合わせて頷き、叫んだ。

「来い……『咲耶姫(さくやびめ)』!!」

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