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第24章「舞台上の問答」

 小春は上の階を目指し、階段を駆け上がっていた。

 ……会長が動いたか。

 原因は昨日の戦いだろう。こちらにちょっかいを出してきたのは生徒会だということは分かっているし、その後に何があったかも把握していた。

「だが、問題はこの状況だな」

 ……どうやら、コソコソやってるのも限界らしい。

「なら、正面突破で行くだけだな」

 と、そんな小春の耳に、上階から声が聞こえる。

「あ、あの……アルテミスとルナ、月の女神として同一視されたって言いましたよねっ?でも、月の女神ってもっと一杯いるじゃないですか?」

 水月の声だ。普段よりは滑らかに他人に話せている。

「それ以上は言うな。勝手に俺の手の内を全て明かす気か?」

「い、いえっ……ただ、ディアナは入るんですか?」

「それは答えだろう。何銃なのか言ってないからまだいいが……その辺はノーコメントだ」

 答えが貰えなかったことで、水月は落胆したようだ。すぐに沈黙が訪れようとする。しかし、会長が割り込んだ。

「おやおや。こんな可愛い子をヘコませるとは……秋時は鬼のような奴だな」

「おい。アンタは昨日、助けて貰ったのに冗談言ってからかったろうが」

「はっはっはっ。なんのことかね?」

 そんなやり取りを聞きつつ、小春は生徒会室前に到着していた。息を整え、扉に手を伸ばす。

 ……ここからは、引く所のない戦場だ。

 小春は、扉を開き放った。

「俺のパートナー、返して貰おうか?」

「ようこそ『情報屋』小春くん。我々は君を歓迎するよ?」

 その一瞬にして、視線と言葉が激突した。


                    ●          ●


 翼は飛鳥と共に生徒会室に飛び込んだ。しかし、そこはすでに緊迫した空気に包まれていた。

「水月を返して貰えないか?生徒会長」

 見知らぬ生徒が生徒会室に立っていた。一緒に放送されていた生徒だろうかと思う。

 ……だけど、あの時流れた名前は女のような名だった気が……?

 対峙しているのは千鶴だ。しかし、辺りは気を抜けないほどに緊張した空気が満ちていた。

「それは出来ないな。有効に使わなくては、人質にした意味が無くなってしまうからな」

「そっちがその気なら、こちらも本気で戦うが?」

「別にキミたちと戦いたい訳じゃない、話し合いたいだけだ。話を聞いてくれれば解放する」

 ……どうやら、先輩は喧嘩腰で来た相手の説得のようだ。

 だが、千鶴にしては煙に巻くような言動が少ない。割と真っ直ぐにぶつかる気らしい。

「本当に?」

「ああ、この生徒会長の座に賭けて約束しよう」

「なら、こんな面倒な手を使わなければ良かったんだよ」

 千鶴の言葉に、相手も強めていた語気を和らげた。そこですかさず、鶫が話に加わる。

「それについては昨日の件を含めて、私から説明しよう」

「俺たちはどうすれば?」

 ようやく発言の機会を得られた翼は、まずは千鶴にどうするべきか尋ねる。

「キミたちも関係する話だ。ある程度は知っているかも知れないが――聞いてくれたまえ」

 その千鶴の言葉の後に、再び鶫が前に出た。

「まず、簡単に状況を整理しよう。いきなりだが……この学園は今、必ずしも安全ではない」

「それは、クーデターによって『統治機関』のトップが急進派になってしまったから」

「そう。昨日、君が私たちに教えてくれたことだ」

 ……やはり飛鳥はあの事を会長たちにも話したのか。

 すると、飛鳥と鶫の応答を黙って見ていた一人が、納得したように頷くと、発言した。

「なるほど……それで俺たちの行動が危険になってきた、ということか?会長?」

「そういうことだ。それでいて逃げ回られていたので、困った私たちもこんな手を使わざるを得なかったのだよ」

 再び千鶴が前に出ると、自信満々に説明する。

「あの、先輩……こちらの人達は?」

 と、いつまでも名前の分からない人のままでは困るので、千鶴に紹介を求めた。

「ああ。キミたちに紹介がまだだったか。『情報屋』の雲雀 小春くんと、そのパートナーの鷲津 水月くんだ」

 ……二人とも「くん付け」では、どっちがどっちか分からない……

 と思ったが、二人が順番に頭を下げてくれたおかげで何とか区別できた。

「で、話を戻しますが、俺たちも呼ばれたということは、何か理由があるんですよね?」

「もちろんだ。後輩くんは元『統治機関』の一員、翼くんは重要な能力者であり、両者共に実力があると同時に狙われる危険性がある」

「で、俺たちをどうするつもりなんです?」

「ああ。生徒会に参加してくれたまえ」

「断る」

 だが、千鶴の声に答えたのは翼ではなかった。

「キミに聞いたつもりではなかったんだがね、小春くん」

「変わらん。どうせそいつらの勧誘が終わったら、俺も誘う気だったんだろう?」

「まあそうだな」

「いきなり人質を取ったことに関しては、こちらにも非があったことは理解した。だが、生徒会には疑問点が多い。まだまだ監視するものが必要だ」

「キミの『情報屋』が、その立場だと?」

「さあな。ただ、俺のやってることは皆の情報を集めているだけだ。会長は皆の情報と視線に耐えられるのか、それを試すだけだ」

「そのためには、協力は出来ない、か」

「いや、協力はしよう。ただし、他の学生と同じ条件で、だ」

「つまり『情報屋』であるキミたちを尊重しろ、ということかね」

「そうなるな」

「私もキミたちを縛る気はないが、安全のためにある程度は制約を掛けさせてもらうが?」

「かまわん……というよりは、そのくらいは理解している。自分たちでやるさ」

 千鶴と小春はその場でしばらく視線を交し合い、沈黙が流れた。だが、千鶴が口を開いた。

「キミの覚悟は分かったよ。ここら辺で私の器の大きさを見せておくのもいいだろう」

「そうか。一応、礼でも言った方が?」

「感謝の言葉は心のこもったものの方がいいな、私は」

 その言葉に、水月が慌てて言葉と共に頭を下げた。

「あ、ありがとうございますっ」

「自分で言って、頭下げさせて満足なのか?」

 小春の皮肉に対して、千鶴は自慢気に胸を叩いて答える。

「今の態度には十分に心がこもっていたからね。私は満足だよ」

 小春の表情が呆れ返った表情になっていった。それを見た翼は口を挟むと、交代した。

「で、俺たちとの話が途中でしたが……」

「そうだね。で、キミたちは生徒会に参加してくれるのかな?」

「今の話の流れで肯定するのは難しいので……まずは確認をさせてください、俺たちには何の責任や仕事が発生するんです?」

「ああ、それに関しては問題ない。基本的には特に何もないよ」

「何もないんですか?」

 ……これは本当に驚きだな。

 というより、この機会にむしろ増員して欲しいというのが本音だ。

「昨日のようなお手伝いは少し頼むかも知れないがね。ただ、今回はキミたちの動きを掴んでおくのが主な目的だ、仕事はついでだよ」

 だが、そこまで最小限しか発言しなかった飛鳥が、話に割り込むように入ってきた。

「なら、私たちが会長の庇護下に置かれなければならないと証明出来なければ、私たちは参加しなくても良いということですか?」

「おや、随分と敵対的だね。どうしたのかな?」

「どうしたもこうしたもありません!昨日――」

「今日のことを考えて昨日いろいろとちょっかいを出したが、逆効果だったかな?」

「――ッ!」

 どうやら飛鳥にとって、随分と腹の立つことばかりやられたらしい。

「痛くもない腹を何度も探られれば、誰でも嫌な気分にもなるものじゃないですか?」

「おやおや。私には誰にやましい部分があるかなど分からないというのに、勝手に暴れまわったのは何所の誰だったかな」

「――ッッッ!!」

 ……今の一言は相当効いたはずだ。

 もっとも、飛鳥がこれで大人しくなるとも思えないが。

「さて、あまりいろいろ言って追い込むのも可哀想だから、この辺にしておいてあげるが……生徒会に参加してくれるかね」

 ……いっその事、正直に聞いてみるか。

「もう俺たちに拒否する権利はないんじゃないですか?」

「いや、一応残っているよ。肯定するまで私に説得されるだけだがね」

 ……正直に聞いてみたら、随分と正直な答えが返ってきたものだ。

「はいはい。素直に諦めますよ」

「うむ。よい決断だ」

 だが、黙ってみていない人がいた。

「千鶴。相手にも多少の非があるとはいえ、やり方が強引すぎるぞ」

「鶫。それだけ時間がなかったのだよ。すでに敵がやってきているのだ。いつまでも後手に回っている訳にはいかん」

「それはそうだが……」

 ……真面目だな、副会長。

 しかし、話し合いが早く済んだからいい、という話でもない。

 と、そこで飛鳥が口を出した。

「それなら、一つ頼まれてくれます?」

 思わぬ申し出に、皆の視線が集中した。

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