返り咲かせろ!邪神ちゃん!
『斡旋所で絡まれるかと思ったが普通に仕事できとるの』
『はい、そうですね』
溝浚いを延々とやり続けるユダは何かを望んでいる邪神ちゃんの思惑がわからず相槌を打つにとどまった。
そのまま同じことを数日、教会に泊まりつつほそぼそ稼いでいた。
『そろそろじゃな、今日は溝浚いはいいぞ、ワシの言う通りにいけ』
『はい、邪神ちゃん』
てくてくと通りをぬけて、路地に入り、いかにもな店の裏口にたったユダは邪神ちゃんにどうしますか?と聞いた。
『よーしちょっと待てよ、未来を見てここにはいる客を見るからの……。よし扉を三回叩いて合言葉を言えと言われたら金こそ全てと言えば入れるぞ』
最低の合言葉に眉をひそめるユダだったがそれがなくて苦労している身としては仕方ないかと思うのも当然であった。
邪神ちゃんが言う通りに対応し、中に入ると中にはそれなりの規模の賭場があった。
『うっひょーーー!これこれ!やはり鉄火場の雰囲気はええのう!じゃ、持ってきた金をルーレットのチップに変えるぞ!そのあとはワシの言う通りに賭け続けるんじゃぞ』
『はい、わかりました』
邪神ちゃんに言われるがまま、よくわからぬチップを赤やら黒やら左端やらに置き続け、チップの枚数を増やしていったユダだったが何がなんだかわからぬままだった。
『何よりも必要なのは金、なら今は未来を見て種銭を作ることを最優先じゃの。正直それはそれで色気ない話だがゼロでは何もできんからの』
『もっと数字に置かないのはなぜですか?』
『それで勝ちすぎると疑われたり巻き込まれるぞ?だから2倍3倍のところでほそぼそ増やすんじゃ、全額なんてもってのほか。ほそぼそ、確率論で増やす。そろそろちょっと負けて多めに出して稼いで帰るぞ』
『負ける必要はあるんですか?』
『負けて焦って多めにかけて取り戻したからホッとして帰る感じでやるんじゃぞ。そうすれば店も低倍率で稼いでるだけだからまぁええわとなるからな』
『奥深いですね』
また邪神ちゃんに言われたとおりに微妙に下手な演技をしながらだらだらとカケルと溝浚い一月分くらいになりユダは多少の安堵をした。
換金して教会に帰ると邪神ちゃんははしゃいでいるままで、ダギル司教は憂鬱そうに俯いていた。
「司教様?」
「ああ、ユダくんですか。どうかしましたか?」
「いえ、それは司教様の方では……?」
「ああ、すみませんね。上に掛け合っても邪神に関して静観せよといわれまして。何のための教会なのか、何のための大聖堂か……」
『神の都合に振り回されるのは大変じゃのう、どれ子羊を導いてやるか。ワシの言う通りに言葉を返してやれ、人を吸う国は優しい嘘も必要じゃから気にするなよ?』
『はい、わかりました』
『あとでワシもでれそうなら出るからの』
「神は説明をしないのですね」
「ええ、全知全能なる神はすべてを見通しているので信徒はその通りに動くのです」
「邪神ちゃん以外は未来を見通せるのですか?」
「いえ、未来視ができるのは邪神くらいですね、邪神……ちゃん?」
「邪神ちゃんはあの村の邪悪な人間を抑えるために戦っていたのです。武運拙く数百年前に……」
「え?」
「もはや実体化もままならぬほどあの村の人間に神気を搾り取られ、いまや声を届けることしかできないのです。神々に助けを求めても世界の共通の敵を作らねばならぬし、あの村が問題を起こせばいざというときは邪神のせいにすればよいと……。仮に天界に還っても呼び戻して責任を押し付けてしまおうと。もはや信仰心もない邪神ちゃんは何度も展開に帰りましたがその度またあの悪人の村に戻され、抑圧され、そんな日々を繰り返し続けたのです。唯一信仰してた父だけで搾取される邪神ちゃんを維持することはできず……父もとうとう亡くなり……」
「いや、邪神がそんなこと」
『真実じゃよ』
「な、何だこの声は!」
邪神ちゃんの念話がダギル司祭に聞こえる。
邪神ちゃんが金の不安がなくなったことにより少しだけ力を出し気力が復活したことと、距離が近く、そしてダギル司祭の主神への不信感が声が届くまでになった。
『神は嘘をつかない』
大嘘を平然とつく邪神ちゃんは同じことをいいながら、涙混じりでいままでされた仕打ちをでっち上げていた。
ユダはこれも司教を救うためだしと全く気にせず黙っていた。
「なんと、なんという……そう考えれば生還したのもおかしい!拠点なのになぜ何もしていなかったのか!そ、そういうことだったかぁ!何が邪神か!本当の邪神は貴様ら神々の会議の主神たちではないか!」
『うむうむ、やつらはひどいのじゃよ、3000年前もひどい目にあった』
自業自得をまるで自分がハメられたかのように語る邪神ちゃんはやはり邪神にふさわしかった。
「司教を返上して本当の邪神を打ち倒さねば……」
この時点で邪神ちゃんはあ、やべ……となった。
これで司教を返上したら自分が脱出したのがバレてしまう、バレたうえでどうなるかを考えるとろくなものにならない。
ユダに助けを求めようとするが何故かうなづいている。
邪神ちゃんは追い詰められた。
『いや、それをすれば敵に何をするか言うようなものだ、な?ワシの職務範囲は商業神と被っているしな。その地位で職務に忠実ならばれんじゃろ、枢機卿でないなら会うこともないし、あやつはそんな事に気を回さんしな』
「おお、邪神様……」
『邪神ちゃんな?』
「邪神ちゃん様……」
『まぁそれでええわ……』
諦めた邪神ちゃんは流石に信徒はごまかせるが眷属は無理じゃろなと思い特に何かの称号を与えないことにした。というより未来予知で一番良さげなげな説得をパーフェクトコミュニケーションした結果なので先にもう少し未来を見ておくべきだった。
邪神ちゃんらしい場当たり的で適当な仕事の結果である。
これまずそうじゃな、一応信徒が増えたしもう少し未来見えるじゃろと少しだけ未来を見た邪神ちゃんには絶望的な光景が広がっていた。
「邪神ちゃん信徒の諸君!我々はとうとう主神たちに対して討滅を宣言したのだ!」
壇上で声を張り上げるユダ、それを聞く信徒たちは数千いや一万はいるかもしれない。
「邪神ちゃんを虐げ!神という名の地位のもとに享楽を貪りる神々を我々は討つ!奴らは天界に還る時が来たのだ!いまこそ邪神ちゃん一神教を設立し!すべての権力を邪神ちゃんへ!」
歓声の中で邪神ちゃんは自分の姿を探す。
何やってるんじゃ未来のワシは!馬鹿!アホ!もっと早く止めんかい!これで得意げにしてたらぶん殴ってやるからな!
自分に対して文句をいいながら目を凝らすと壇上の端っこで膝と肘をつき慟哭する自分を見た。声を出せば信徒に届くからクチパクでどうして!なんで!という自分を見てどうやら止めるのはダメだったみたいだなと思ったところで未来の自分と目があった。
口パクでめちゃくちゃ罵ってくる姿を見ていや、お前のせいじゃろと自らを棚に上げた口パクで言い返すと未来の自分が自分に対して未来を見せてきた。
邪神ちゃんが一番驚いたのはそこまで能力が戻ったことだったがその思いはすぐ霧消した。
広い執務室、無人の部屋で自分が泣きながら書類にサインしている姿。
遊びたい遊びたいと言いながら働く自分を見て絶望した。
ふと何かに気づいたように未来の自分が顔を上げ目が合う。
「お前が!おまえが返り咲きとか抜かすからこうなったんじゃぞ!」
過去の自分に責任転嫁した未来の邪神ちゃんはやはり性根から邪神ちゃんのままだった。
声を上げるということは実体化しており、声も信徒に聞こえぬようにカットもできるほど力が戻っているということ。
すでに邪神ちゃんの想像ではいやな未来の結末が見えていた。
「ワシは一睡もせずに毎日毎日仕事一筋!天界に還った連中は戻ってこないしその分すべての仕事がワシにきている!遊ぶどころか仕事ばかりで逃げようにも顔が割れてるから逃げられない!お前のせいじゃ!お前のせいじゃ!いますぐなんとかせえ!これなら還ればよかった!どうしてぇ……どおしてぇ……!」
現実に戻った邪神ちゃんはやる気に満ち溢れたユダとダギル司教をみてこのままであれがワシの未来になってしまうと真っ青になっていた。
邪神ちゃんは心の底から叫んでいた、信徒に聞こえぬよう声が漏れぬように。
”嫌じゃ!返り咲きとうない!”




